2時間30分の意味 OrgofA『Same Time,Next Year-来年の今日もまた-』

2時間30分もあるの!?

と尻込みするなかれ。途中に休憩15分あるので安心。さらに全体が6つのシーン、6つの年代に分かれいて観やすい! なにより、2時間半じっくり見せることに意味のある舞台なのだ。

OrgofA『Same Time,Next Year-来年の今日もまた-』。不倫関係にある男女が1年に1回おなじホテルのおなじ部屋で会う。週末をふたりですごし、別れ、1年後にまた会う。繰り返しの25年間。

1年ぶりに再会するとき、ふたりが毎回ぎこちないのがいい。1年間の空白があるから当たり前だ。それに、1年のあいだに起きた出来事をサラッと言えなかったりもする。言いづらいことや隠しておきたいこともあって。

そんなふたりを近づけるためなのか、毎回の決まりごとがある。おのおのの配偶者の、いいところと悪いところを1つずつ言う儀式。これが面白い。

不倫しているふたりだけど、夫や妻に対しての愛あるいは不満点が語られる。しだいに、ここにはいない夫、どこかにいる妻の存在が浮かびあがってくる。

1年に1回の密会が、単に情欲を満たすためでないのは観てると自然にわかってくる。ふたりにとってこの週末は、人生を見つめ直す日だ。共犯関係にあるからこそ、だれにも言えない本音を語りあえる。そういった意味でいいパートナーを見つけたのかもしれない。

男・ジョージ(遠藤洋平「ヒュー妄」)は妻を恐れている。なんでもお見通しの妻から逃れられる時間だ。軽薄さと繊細さをあわせ持つ彼は、外部によりどころを求め、密会の中で安らぎを得る。

いっぽう女・ドリス(飛世早哉香)の方は早くに結婚出産をし、窮屈な生活の中で自分という存在があまりない。彼女ははじめ無知なように描かれるが、ジョージとの出会いをきっかけに自分自身について考えるようになり、年代を経るごとに聡明になり自立していく。

ジョージは自分の外に救いを求め、ドリスは自分の内部を掘り下げ人生を見つけていくのは対象的で面白い。

そういうふたりの人生を、テンポを速めてサクサク2時間以内におさめることも可能だったかもしれない。しかしふたりの時間を“ちゃんと“描くことでしか表現できないものがあるのだ。舞台を観ていてそう思った。観客もまた、ふたりの人生の同行者なのだ。

ジョージを演じた遠藤洋平は、はじめは軽薄な男だが年を経るにしたがって慎重さや思慮深さを身につけていく男を好演している。抱えている弱さを吐露するときにジョージはいちばん輝く。そこがよかった。

ドリス役の飛世早哉香はすばらしく、まるで彼女のためにある脚本のようだった。だれかが敷いた人生というレールからはみ出し、別のルートを切り開いていく女性。しかし成功していくなかで彼女も社会という軽薄さに飲まれているときがある。単純には割り切れないドリスの人生にラスト、胸が熱くなった。

物語とは時間が経つことだ、と以前「ゲキカン!」に書いた。この劇はまさしくそうだった。月日を経るごとに変わっていくふたりを見つめ、人生の豊かさと悲哀をうたう。観終わってドリスとジョージを好きになる。この劇を観た自分たちの人生も少し、前向きに捉えられるかもしれない。

僕が観た初日初回は遠藤、飛世が最後まで演じたが、場面ごとに役者が変わる公演もあるという。スペシャルキャストバージョンは遠藤&飛世と、小野寺愛美(EGG)&本庄一登(演劇家族スイートホーム)と、太田有香(劇団ひまわり)&町田誠也(劇団words of hearts)の3組ですぎゆく時間を演じる。

時代ごとに人が代わるとどんな面白さが生まれるのだろう? どちらを観るか、あるいは両方観るか。

 

公演場所:ターミナルプラザことにパトス

公演期間:2024年2月3日~2月10日

初出:札幌演劇シーズン2024冬「ゲキカン!」

text by 島崎町

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