しあわせなさびしさ 劇団どくんご『夏型天使を信じるな』

やっぱり「どくんご」が来ないと夏って感じがしない。

この5年間、コロナとかいろんなことがあり月日だけは流れていたけれど、僕は夏を感じていなかった。本当の夏を。

「劇団どくんご」5年ぶりの全国ツアーはラストツアーだ。2022年、演出を務める「どいの」が亡くなり「どくんご」は無期限の休止状態にあった。それが2024年、満を持しての復活。4月に鹿児島を出発した旅の一座は、暑さを引き連れ北上していき、7月、ついに札幌にやって来た。

以前と変わらぬ熱気あふれる舞台。絶え間ない言葉の反復、イメージの自由な連鎖、はげしい運動とあふれる汗とつば。異常に盛りあがったテンションがつかの間止むときの静寂と詩情。

今回はいつもよりも「愛」についてのメッセージが強く届いた。それから「記憶と忘却」についても。

いちばん心を打たれたのは影絵の手法で語られる「帰宅」と「忘却」の物語。テント舞台の中にさらにクラゲのような小型テントが張られ、内部に雨が降る。

屋根があるところに雨が降るというイメージは創作においてたまに見られるが、テントの中にもうひとつ空間を作り、二重の屋根の内側に雨が降るのだ。外側へ爆発的にエネルギーを発散させる劇団が、内へ内へと入りこんでいく演目を作る不思議さ、おかしみ。

内省的に自己を見つめ、内の内、奥の奥になにがあるのか問いかけてくるようだ。二重のテントのその中で、記憶をなくし帰り道を失った男の物語が影絵で語られ、雨が、失った記憶のように流れ落ちていく。美しい。まったく美しい。

いつものように、ひとつの演目が終わるごとにテントの幕や装飾が剥がされいく。そうしてついに舞台奥の幕がなくなり、野外が剥き出しになるあの瞬間。舞台が、そして自分が、場と一体となる。

僕はずっと待っていた。熱気がこもるテントの中で、演劇の原初的な情熱を発し、僕の中にある情熱を引き出してくれるこの夏を。

今回の「どくんご」も最高だった。観終わって、ほてった体で夜の札幌を歩くと、僕はさびしさをおぼえる。そうだ、いつも「どくんご」は、激烈に燃え上がり少しのさびしさを残してつぎの土地に去っていくんだ。

だけど今回はいつもよりさびしさが強い。5年ぶりのこの公演をもって「劇団どくんご」のツアーは終わるという。ラストツアー。最後の旅。

たのしかったけど、少しさびしい。さびしいけれど、ありがとう。いつもしあわせなさびしさを残してくれた「どくんご」は、最後までやっぱり「どくんご」だった。

アンケートに連絡先を書くと、公演情報とかなにか連絡がくるそうだ。いつか届くかもしれない、遠くに行ってしまったにぎやかな旅の一座から、ひさしぶりの便りが。

そのときを待ちつつ、「どくんご」の最後の挨拶とおなじ言葉で僕も返そう。

 

それじゃあ さよなら お元気で……

 

劇団どくんご『夏型天使を信じるな』

公演場所:円山公園 自由広場 特設テント劇場

公演期間:2024年7月10、11、13、14日(7月11日観劇)

text by 島崎町

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。