2016年の札幌演劇シーズンでこの劇を観た。そのときのことを覚えている。
冬まっただ中の公演で、観劇後、シアターZOOから出ると冷気が僕をつつんだ。だけど全然寒くない。凍てつく外気と僕の熱気がちょうど釣りあって、むしろ気持ちがよかった。
劇の熱さをカイロ代わりにして、僕は冬の札幌を歩いて帰った。
それから8年、今度は夏の札幌、コンカリーニョを舞台に『カラクリヌード』が帰ってきた。2009年の初演以来、日本各地で公演し、韓国公演も行った。今回は6月に東京公演を行い、ダンサー&ミュージシャンとのコラボという新しい取り組みを加え、表現の幅が広がっている。
前回は物語や人物や表現をぎゅーっと突き詰め、一点に収束していくような、圧縮していくような舞台だったが、今回は広がりや奥行きのある、懐の広さを感じた。
作家役のすがの公と音楽家として出る(演奏もする)蝦名摩守俊は本編の外の人物で、それ以外の15人が黒い素舞台を縦横無尽に動き回ると、なにもない場所につぎつぎとシーンが生まれていく。
若きすがの公が書いたこの物語は、SFやアクションやドラマに、笑いや現代批評を詰めこんだ盛りだくさんの内容だ。場所も時系列も入り組んではいるけれど、物語をぐいぐい動かしていく衝動がある。
この劇全体に通底するのは怒りや憤り、やるせなさ、そこから生まれるエネルギーだ。それが、時を経て場所を変えても、なんら変わることはなく観る者の胸に響く。
物語の軸はロボットであるゼロ助(リンノスケ/小林エレキとのWキャスト。以下略)と人間であるリコ(傍嶋史紀/縣梨恵)だが、周囲の人物たちも生き生きとしてすばらしかった。
権藤(江田由紀浩/籔中耕)、テンコ(寺地ユイ/渡辺ゆぱ)、タネ(小田川奈央/山﨑彩美)、アサコ(河野千晶)、工場長(前田透)……あげていくとキリがないのだけどせっかくなので全員書く、咲坂(山田ヒデノリ)、夢見(由村鯨太)、柏木(石井辰哉)、そしてモグラたち。
ゼロ助とリコとその周囲の人物たち、人間もロボットも富者も貧者も、自分の物語を語りたくて仕方がないような、この人生を聞いてくれと叫びかけてくるような舞台だった。
その思いが、空気をふるわせ客に伝わり、体と心が熱くなる。8年ぶりの『カラクリヌード』。熱い気持ちをいだきながらコンカリーニョを出ると、外は暑い夏だった。
公演場所:コンカリーニョ
公演期間:2024年7月13日
初出:札幌演劇シーズン2024「ゲキカン!」
text by 島崎町