発明家ファーンズワースは知っていましたが、「ブロードウェイの傑作戯曲」の知識は皆無でした。何より本公演に惹かれたのは第40回を記念する公演に集結したキャスト陣。劇団員・客演ともに弦巻作品で顔なじみの多くのメンバーが集う久々の大公演に期待しつつ初日夜の回を拝見。
テレビシステムの発明を巡っては「ファーンズワースに先行する開発者とのややこしい特許合戦があった」くらいの知識でした。実業家デイヴィッド・サーノフについては全く知らなかったのでざっと予習(笑)したところ、特許の利用権(テレビ放映の事業化)を巡ってこれまたファーンズワースと何やらややこしい係争があった人物らしいとのこと。喜劇仕立てか、それとも悲劇なのか、どんな味付けの物語になるのかと期待しながら席につきました。
* *
サーノフ(村上さん)の長めのモノローグから始まる第一幕。「サーノフがファーンズワースの生い立ちをナレーションしている」という微妙な意外感もさることながら、次第に気づいたのはその特徴的な台詞回し。たとえば「私は認めた、彼の功績を。」といったように、英語の品詞順に並べられたいわゆる「倒置法」で多くのセリフが進行します。
これは脚本を翻訳した青井陽治さんのこだわり(個性?)なのでしょう。倒置法は翻訳小説などでもたまに目にしますが、個人的には原語の雰囲気やアメリカ文化の「香り」がしてこのテの言い回しは割と嫌いじゃないです。ただし演者さんは、感情の持ち方や発し方が難しかっただろうなと。ことに幕開けから割と強引に観客を物語に引き込む役を任された村上さんは、割と苦労していたようにも感じました。(勿論、初日だということもあったと思いますが)
* *
僕の知識にあるファーンズワースは、後年は事業のマネジメントリーダーとしての面もある人物という印象でしたが、物語は彼の前半生中心なこともあり生粋の電子工学畑の人物として描かれます。世間知らずの天才「発明莫迦」。しかし喜劇的ではなく、繊細な面を垣間見せるファーンズワースを『Same Time,Next Year-来年の今日もまた-』でも見せてくれた抑制の効いた感情表現で遠藤さんが好演。
弦巻作品には久々の町田さん。出番は少ないながらオイシイ役で登場。やはり町田さんには「赤毛モノ」が似合います(正直、これでハッピーエンドで終わるのかとちらっと思わされましたわ)。深浦さんはさすがの役作りで、クロッカーのセリフ第一声で引き込まれる独特の存在感が心地よかった。
実際には直接の接触はほぼなかっただろうファーンズワースとサーノフを巧みに絡めた脚本の素晴らしさとキャストの熱演、そしてシンプルながら巧みな舞台装置と見どころ満載の本作ですが、発明や特許レースを巡り、ファーンズワースに先行する発明家や名前だけで場に登場しない人物、横文字の人物名や専門用語などが入り乱れるので話についていくのは正直大変でした。演出も頭を抱えていたことが想像できますが、本来は予備知識がなくても観客が混乱しない程度に「観て分かる」のが理想だとは思います。
* *
物語の終焉に、幻の邂逅を果たすファーンズワースとサーノフ。
もちろん位置付けはW主演なのですが、本筋のほとんどがファーンズワースを主軸に進行する中、サーノフの静かなモノローグで終わるラストは脚本が素晴らしく、また、その脚本に応えた村上さんは初日から出色の出来。彼の力で作品の格が最後にグンと上がっていくのを感じました、
(もう一度拝見したかったのですが再観できず誠に残念。札幌演劇シーズン等での再演をぜひ望みます)
2024/11/21(木) 19:00
生活支援型文化施設コンカリーニョにて観劇
――
弦巻楽団 #40 秋の大文化祭!『ファーンズワース・インヴェンション』
2024/711/21(木)〜11/24(日)
1921年夏、14歳の天才少年フィロ・ファーンズワースは、誰も成し遂げていなかった「電子テレビの設計図」を考案する。彼の描く革新的な技術は、当初多くの大人たちから真剣に受け止められていなかった。
しかし、彼の世界初の実験が成功したことで事態は急転。彼の成功は、やがて大企業RCAの社長デイヴィッド・サーノフとの間に長期にわたる争いを引き起こすことになる――。
テレビ開発の歴史を実話を基に描くブロードウェイの傑作戯曲が、北海道札幌で日本初公演。映画『ア・フュー・グッドメン』や『ソーシャル・ネットワーク』で知られる脚本家アーロン・ソーキンによる今作を、日本を代表する翻訳家・青井陽治が亡くなる直前に託した未発表訳で上演。これまで数々の海外戯曲を手掛けてきた弦巻啓太の演出と豪華キャストで贈る歴史的舞台。
脚本:アーロン・ソーキン
翻訳:青井陽治
演出:弦巻啓太
【出演】
遠藤 洋平(ヒュー妄):フィロ・ファーンズワース
村上 義典(ディリバレー・ダイバーズ):デイヴィッド・サーノフ
深浦 佑太(ディリバレー・ダイバーズ):クロッカー/ギフォード
井上 嵩之(→GyozaNoKai→):ワクテル/リピンコット
田村 嘉一(演劇公社ライトマン):ハーラン
岩波 岳洋:クリフ
相馬 日奈(弦巻楽団):少年時代のフィロ/アグネス/シムズ
木村 愛香音(弦巻楽団):ペム
イノッチ(弦巻楽団):ゴーレル
高橋 咲希(弦巻楽団):ベティー
髙野 茜(弦巻楽団):少年時代のサーノフ/リゼット
来馬 修平(弦巻楽団):スタン
温水 元(満天飯店):エヴァースン/ヅヴォーリキン
町田 誠也(劇団words of hearts):トールマン/ハーボード
【スタッフ】
音楽:加藤亜祐美
舞台美術:高村由紀子
照明プラン:山本雄飛
音響:大江芳樹(株式会社ほりぞんとあーと)
宣伝美術:勝山修平(彗星マジック)
ライセンス:シアターライツ
特別協力:土屋誠(カンパニー・ワン)
制作:佐久間泉真(弦巻楽団)
主催:一般社団法人劇団弦巻楽団
助成:芸術文化振興基金
後援:札幌市、札幌市教育委員会
協力:さっぽろアートステージ2024実行委員会、札幌劇場連絡会
text by 九十八坊(orb)