僕(九十八坊)が小学5年生の時、クラスである「噂」が流れた。
それは取るに足らない些細な噂話だったが、出どころを知りたくなった僕は親友と2人で捜査を開始。まずA君に尋ねると彼は「B君に聞いた」と言う。
そのB君は、隣のクラスのC君が話してたと教えてくれた。しだいに噂の根源に近づいている気がして、僕はワクワクしながらC君のクラスに出張捜査をしたのだが⋯。
あろうことかC君は「A君に聞いた」と言うのだ。ぐるっと回って振り出しに戻るとは。誰かが嘘を言っているのか⋯結局出どころは分からずじまい。
――噂なんてそんなものか。
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昨年のTGRで大賞を受賞した劇団5454(ランドリー)さん。拝見するのは今回で2作目ながら、ウエルメイドな戯曲とナチュラルな会話(劇)は僕のどストライク。
今年はどんな作品を見せてくれるのか、期待をもって楽日にお伺いしました。
「現代社会における“うわさ”をテーマにした劇団5454の新作SF長編」なんて紹介がネットニュースにあがっていたのと、昨年の作品や既に観た人の本作の感想から、SNSなどで拡散されていく複雑に絡み合った「噂」なのかなと予想。しかしそうではなく、昔ながらの「ヒトの口」で拡がっていく「うわさ話」をテーマにした作品で、僕的には良い意味でとてもシンプルでわかり易い内容だなという印象でした。
公式パンフによると、今回のテーマは「“噂”なんて、いいんじゃない?」というメンバー同士のアイディア出しで決まったそうで、その後、イチから物語が作られたそうです。作劇にあたっては、月刊『ムー』のライターさんに「噂」から「都市伝説」「陰謀論」に至るまで取材したインタビュー(パンフに掲載)が興味深く、その中にあった「今のように情報距離が短くなる前は『うわさ』はもともと地産地消で、噂がその村の宗教であり教育であり、代々伝わるおとぎ話であり……」という話に非常に頷けました。劇中で開催される「披露宴」はまさに噂によって作り出された宗教的イベントそのものだったなと。
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セリフの掛け合いの考え尽くされた自然さや、「お笑い」にまで踏みこまないリアクションやツッコミなど、簡単に「ウエルメイド」と言ってしまっては失礼なほど呼吸するように自然に流れていく会話。春陽脚本と演出の繊細さとともに、演者さんの稽古の賜物と感じました。
楽ステということで終演後にキャスト全員でのアフタートークがあり「一人〇役」といった言及がありましたが、観る側が役替わりに混乱することがほぼ皆無であり、また時系列が分からなくなったりしないキレイな場転も特筆しておきます。
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5454さんでは今作が初めてという対面式の客席(注・札幌のみ)。僕は観客として、このパトスをはじめ他の札幌の小劇場で幾度も対面式の客席を経験していますが、これほど丁寧な対面式の舞台演出を観たのは初めてのような気がします。
まるで回り舞台のように上下(かみしも)を回したり、舞台のこちらの隅で囁かれ、あちらの端で湧き上がる「噂」たち。客席に挟まれ閉じた空間で実体化していく「噂」のなりゆきに目が離せません。昨年の『宿りして』同様、僕にとって春陽さんの脚本の魅力は「何が深掘りされているか」ではなく、一見分かりやすく先へ先へと興味を募らせる作劇のあちこちに、「観る側が何を深掘りして考えるか」の種まきをしてある点なのかなと再認識しました。
「噂」によって生み出された「ねもはも世界」――それはある種の異空間ですが、本当は人の心の中にのみ存在しているのではないか。「シュレディンガーの猫」のように状態は重ね合わされており、どちらを取るかによってその世界は置き換わるし、どちらも取ることすらない「登場人物とは無縁の赤の他人」にとっては、それがどちらの状態かなんてどうでもいいことかも知れません。そう考えると、どちらが本当の真実かさえも危うくなってきます。。。あれ?これって『宿りして』の時に感じた「胡蝶の夢」にも似ていますね。
A君はB君に、B君はC君に、C君はA君に聞いたと言う「閉じた世界」が噂の正体なら、
存外3人とも真実を語っていたのかも知れないと、ふと思いました。
2024/11/24(日) 19:00
ターミナルプラザことにパトスにて観劇
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劇団5454 2024年本公演『ねもはも』
(弦巻楽団「秋の大文化祭!2024」参加 / TGR札幌劇場祭2024 参加)
2024/711/22(金)〜11/24(日)
旧友の噂を聞いた。
随分前に結婚し、もう小学生になる子どもがいるという。
気まぐれに買った祝いの品を抱え、彼に会いに行った。
一見、所帯を持ってるようには見えない彼に祝いの言葉を述べる。
すると彼は、声もなく驚いた後、大きなため息をつく。
「子なんぞいない。妻もいない。最後の恋は10年前になる」
戸惑う私に、友人は続ける。
——この世界は、根も葉もない。
脚本・演出:春陽漁介
【出演】
高品雄基
岸田百波
森島縁
榊木並
窪田道聡
及川詩乃
(以上劇団5454)
神田莉緒香(ストロボミュージック)
榊原美鳳
佐野剛
谷本ちひろ
万行翔馬
【スタッフ】
音楽 Shinichiro Ozawa
舞台監督 北島 康伸
照明 安永 瞬
音響 游也(stray sound)
演出助手 柴田 ありす
宣伝美術・デザイナー 横山 真理乃(劇団5454)
マネージャー 堀 萌々子(劇団5454)
スチール撮影 滝沢 たきお
配信・撮影 TWO-FACE
札幌票券 森島 縁(劇団5454) 岸田百波(劇団5454)
※東京票券 米田 基(株式会社style office) 森島 縁(劇団5454) 岸田百波(劇団5454)
協力 ロングランプランニング株式会社/株式会社ローソンエンタテインメント/ぴあ株式会社/株式会社style office/舞夢プロ/江古田のガールズ/ストロボミュージック/一般社団法人劇団弦巻楽団/さっぽろアートステージ2024実行委員会/札幌劇場連絡会
主催 株式会社LLR
企画・制作 劇団5454
text by 九十八坊(orb)