昨年のTGRの『沼部、陸へ上がる」で気になった野村有志さんの「自叙伝フィクション」は期待通りの濃い作品。
「前説ではなくただの雑談」と笑わせながら、おもてなしの精神たっぷりで芝居が始まる前から魅力が溢れる野村さん。オープニングの野村さんのモノローグが自然体で、スッと話に引き込まれる。
舞台床に描かれた◯が「自分」を象徴するのか。円の内側にいる多数の演者は自分でもあり他人でもあり……象徴性や比喩もありながらフィクションとしての物語自体は分かりやすく進んでいく。
普段の野村さんの作品を知らないのだが、今作は自叙伝ということもあり多少「作風」が違うのかな?とかも妄想する。前時代的な懐かしい「匂い」もしたのはやはり20年という月日を描いているからなのかな。
劇のダークな部分を絶妙なフィクションの間に垣間見せる。演者の皆さんに隙がなく息を飲みながら見続けられる舞台。
僕は全くの客席側の人間だが、演劇の世界に居場所を見つけることと、独りの客席に居場所を見つけることはどこかで通底していた。
(「のと☆えれき」のお二人とのアフタートークも楽しく興味深かった)
哀しく愛おしい物語。TGR2023では数少ない「胸を衝かれた」作品のひとつ。個人的には、このような感覚を味わいたくて舞台演劇に足を運んでいる気がする。
ただし、特に今年は多くの秀作が集った年でもあったので賞という面では厳しかったのかな。どうしても個人的な好みが分かれそうな作品の場合は、好みを超えた説得力(それは必ずしも「分かりやすさ」ではないが)を求められてしまうのかな、とも。
2023年11月21日(火) 扇谷記念スタジオ‐シアターZOOにて観劇
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オパンポン創造社『幸演会』
2023/11/21(水)〜22(木)
text by 九十八坊(orb)