こんなことしてみました、で、どう? fullbreech『IN SONER』

Oasisとおなじだからね。

15年の月日をへて、再び活動開始。2025年に日本公演2DAYS。

Oasisは2009年解散で2024年再結成。いっぽう劇団fullbreechは2010年が最後の公演で2025年11月ふたたび活動を再開させた。

そんな大物と比べるなと言われそうだけれど、まあそれだけの年月が過ぎ、そのあいだ、公演をやる面々も客席の観客も、たぶんおそらくいろいろあった。そしてまさかの再結成、時間が動きはじめる。そういうことを言いたかったわけだ。

fullbreech。札幌演劇界においてどれくらいの地位を占めているのか、あるいは占めていないのか。作・演出の「かとうしゅうや」はたまに舞台に出ているが、所属先として「fullbreech」とは書いていない。古い演劇仲間には知られているだろうけど、それ以外の人にとっては未知の存在だろう。

今回、15年ぶりの舞台『IN SONER』を観て再確認したのは、この劇団は腕白(わんぱく)だということだ。とにかくやってやろうの精神。さまざまに工夫をこらすがどこか無邪気なイタズラのようにも見える。それがうまくいっているのかいないのかという問題はあるが、なにかを仕掛ける、試してみるという精神は僕は好きだ。

『IN SONER』という劇のタイトル(SONARじゃなくSONERなのは誤字らしい)、あるいは劇中で触れられる「ソナー」。音波をあてて返ってくる反響によって位置や形状を把握する。fullbreechの腕白な実験もソナーのようだ。こんなことしてみました、で、どう? って。

1時間20分の舞台。場所は基本的にひとつ。机の上にラジオのDJブースがもうけられ、両脇にふたりの男が座る。ひとりはDJ、ひとりはディレクター。彼らは釧路の地域FMラジオ(だと思う)の番組を生放送する。月~金、深夜の数十分だが、ひとつ大きな特徴があった。DJは人間(日本人)だが、もうひとりは海来人(かいらいじん)なのだ。

閉ざされた空間、限られた人数、突如として投げ出された不思議な設定。海来人は地震によってできた海底の裂け目からやってきたが、裂け目が閉ざされ帰ることができなくなり、日本の沿岸地域に住んでいる。日本人と海来人、最初はうまくやっていたのかもしれないが、しだいに関係は悪化し、いまでは排斥運動が起こり釧路では海来人を狙った連続爆破事件も起こっている。

そんな緊張関係のなかでラジオはスタートする。対立する異なった人種どうしのラジオは、釧路のリスナーにどう届くのか……。

なんだか、あまり読んだことのない外国の作家が書いた、ふしぎな短編のような手触りがある。流暢で洗練された話というよりも、触れたことのないゴツゴツとした感触。それをたのしむような。

試みのすべてがうまくいっているわけではない。むしろ、それはなんなの? みたいなところもあるし、笑いのようなシーンはいまいち芯を食わない。ひさびさ集まったオヤシバンドの演奏のように、ドンタドンタ言ってるな……っていう感じのところもなくはない(Oasisはきっとそんなことなかったんだろうけど)。

ただそんな演奏のなかで、あるとき妙に心地よいグルーヴ感を生み出している瞬間に気がつく。でもすぐまたドンタにもどってしまうんだけど、待っているとまたあのグルーヴがもどってきて、何度か来るその波を僕たちは待っていて、あ、きたきた、ってたのしみだしている。

fullbreechの元なのかいまもなのかわからないがメンバーの中島司による前説&中盤のひとり語りも、おもしろいんだかそうじゃないんだかよくわからないが、でもがんばっていたし味わいはあったな、みたいなのもそうだし、なぜか入る客いじりや劇場を歩き回る(走り回る)展開なども、狙いとは異なる「ほほえましさ」を生み出す。

主演のふたり、かとうしゅうやは海来人を演じ、畠山亮二は人間(日本人)のDJ。かとうは、詳細は伏せるがひと目で人間とは違う姿をしていて、警戒心が強くときに感情をあらわにする硬質な演技。畠山はひとなつっこいDJで、陽性の演技がこの舞台の「気分のよさ」みたいなものを生み出していた。

現在世の中に蔓延している外国人排斥運動を当然思い起こさせる設定や、爆弾、地震などとお話的には暗い面がかなりある。それでいて観客を嫌な気持ちに落ちこませないのはこの劇団のいいところだろう。

照明(枇本享洋)の効果も絶大で、ふたりが放送する小さなDJブースをうすく青く照らしだし、もちろんそれは海の中のイメージで、かけたヘッドフォンの金属部分が反射して光るさまは神秘的であった。ともすれば暗いこのお話が、静かに幻想的に見えたのは照明のおかげでもある。(劇場のレッドベリースタジオの構造は縦の比率が高くて、それが余計に深海を思わせた)

15年ぶりひさびさの公演ということで、いささか好意的に書きすぎたが、気になるところもある。初日に観たが役者のセリフが心許なかった。つっかえたり緊張が見えた。

人間(日本人)ではない他者としての海来人の描き方も気になるところだった。人間(日本人)の僕たちから見て違うところ、変なところは当然あるだろうけど、その逆もあるはずだ。海来人を通して僕たち人間(日本人)の姿を描くことはもっとできたはずだ。

ともあれ終劇後かとうは、今後もfullbreechの活動を止めずにつづけていくとみなに宣言した。単発のノスタルジーに終わらせないために、つくりつづけることは大いに賛成だ。ぜひ、宣言したのだからやってほしい。そう遠くない日に、またおかしな手触りの、ふしぎなグルーヴのある舞台を観られることを期待して。

 

fullbreech『IN SONER』

公演場所:レッドベリースタジオ

公演日:2025年11月15、16日(11月15日観劇)

text by 島崎町

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