あ、掘り当てたな、という作品がある。
穴を掘ってダイヤモンドの原石を手に入れたような、石油がドバドバ出る油田を見つけたみたいな、そんな作品のことだ。
「面白い作品」と「掘り当てた作品」は違っていて、「面白い作品」は全体や細部のあれこれを「面白い」と言ったりするけれど、「掘り当てた作品」というのは、物語の設定(シチュエーション)がすでにヤバい。
「一度も恋をしたことのない初老のシェイクスピア教授が、ラジオで天気予報を伝えるDJの声に恋をする」
弦巻啓太作『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』の設定だ。うん、掘り当ててるよね。この設定で、つまらなくなるわけがない。
かつてマンガ家の島本和彦は、アイデアがどのように生み出されるかを短編マンガに描いた。それは、山のように巨大な「マンガの壺」があって、中では熱湯が煮えたぎり、マンガ家はその中に手を入れて作品のアイデアをつかみ取る、という内容だった。作品内ではこう語られている……
「だが誰でも気軽に手を入れて名作をつかみだせるわけではない! その持てるパワーと熟練度―― どのような人生を今まで生きてきたか―― 知識や情熱や意欲―― 一瞬にしてフルイにかけられるのだ」
壺の頂上に立ったマンガ家は、熱湯の中に手を入れていき、石ノ森章太郎は『仮面ライダー』を、ちばてつやと梶原一騎は『あしたのジョー』、あだち充は『タッチ』『みゆき』『ナイン』をつかみ取る。
きっと弦巻啓太も、10年前、演劇の壺の中から『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』をつかみ取ったんだろう。
初演以来、10年ぶりにこの作品を観たのだけど、良い部分がバージョンアップされて、輝きがさらに増していた。特に、エレガントな軽さ、のようなものが際立っていて、観終わったあと、すごくいい気分で劇場をあとにした。いつ、誰が観ても楽しめる、上質なラブコメディー作品だった。
役者について。恋を知らない初老の教授を演じる松本直人は、やはりハマり役だ。シェイクスピアのセリフを借りつつも、けっこうひどいことを言うこのキャラクターを、憎めない、愛すべきものにしているのは、役者本人が持つキュートさなのかもしれない。
また、出演シーンほぼすべてで笑いを取っていた小林なるみもさすがで、この作品が「面白いコメディ」から「すごく面白いコメディ」になったのは、彼女の力によるものが大きかった。
これからも、長く演じ続けられる作品だと思うので、また次に、バージョンアップされたものを観られるのを楽しみにしつつ。
公演場所:コンカリーニョ
公演期間:2016年1月23日~1月30日
初出:演劇シーズン2016冬「ゲキカン!」
text by 島崎町