コロナ渦で最高の舞台を yhs『ヘリクツイレブン』

演劇は逆境だ。

かつてこれほどまずい状況になったことがあるだろうか。

しかしこういうときこそ本質が見える。これまでやっていたあれこれが制限されてなお、舞台をやろう、いま自分たちができる最大限のことをしよう、そういうふうにして行われる公演からは枝葉がなくなり、本当にやりたかったこと、やるべきことが浮き彫りになる。

札幌演劇シーズン2020夏、yhs『ヘリクツイレブン』。初日2日前のゲネを観させてもらった。

札幌を代表する劇団yhsが、コロナ禍でどんな舞台を作るのか。期待と不安両方あったが、1時間45分たっぷり観劇して、変わることのない笑いへの姿勢、エンターテイメントを貫き通す確たる意思を感じた。

密とやらを避け、劇場を避け、演劇と観客は多くのものを失った。しかし舞台が失ったものは舞台でしか取り戻せない。yhsはいまできる最高の舞台、最良の内容でそれを証明しようとしている。

『ヘリクツイレブン』は2013年の演劇シーズンでも再演されていた演目。yhsの笑えて楽しい作品の代表作だ。わざと負ける接待サッカーに反旗をひるがえしたひとりの男を発端にその輪がしだいに広がっていく。

つまりこれは『12人の怒れる男』の爆笑サッカー版という……書いていて自分でも変な字面だなと思うけど、実際そうだから仕方がない。

おなじ演劇シーズンのレパートリー作品、ELEVEN NINES『12人の怒れる男』同様、個性派役者たちが葛藤しセリフで応酬し、しかも扇の要として中心に能登英輔がいる構図まで期せずしておなじ。

そして笑いのオブラートに包まれたテーマのなかに、『12人の怒れる男』同様、熱いメッセージが込められている。

これでいいのか、このままでいいのか、失ってはいけない本当に大切なものがあるんじゃないか。こんな時期だから余計にいまの状況と重ね合わせてしまう。いまを生きる同時代の観客とその心に共鳴するだろう。

前述のとおり僕はゲネを観た。客席には関係者しかいないから、本来笑いが起こるところでも量は少ない。

僕は想像する。完璧なコロナ対策がほどこされた劇場に、安心してお客がやってくる。適切に配置され距離がとられた席に座り、劇場は埋まる。たくさんの笑い声が起こり、多くの拍手に包まれる。

これが舞台だ。観客なくして成立しない。『ヘリクツイレブン』はあなたの笑いと感動をもって完成する。

 

公演場所:コンカリーニョ

公演期間:2020年8月1日~8月8日

初出:札幌演劇シーズン2020夏「ゲキカン!」

 

text by 島崎町

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