昭和ユートピアだ。
汗と涙とあたたかい人の思い。いつかあったかもしれない、心のかよった交流が舞台の上にある。
もしもふらっと劇場に入って、思いがけずこんなお芝居に出会えば、お、いい芝居を観たと、あたたかい気持ちになれる、そんな舞台。
RED KING CRAB『ありあけ』。横文字の劇団名から勝手にオシャレなものを作ってるんだろうな、などと思っていたけど全然違った。むしろ人間同士の思いを描こうとする愚直な劇団だった。
終戦後のおそらく札幌を舞台にしたドラマ。「ありあけ玩具製作所」は前工場長が戦争から帰ってこず、女性の新工場長を迎えることになる。
これがいまでいうコストカッターで、赤字がつづく工場から人手や賃金を切ろうとする。もちろんそれは社員やパートのおばちゃんたちとの軋轢を生む。そうしてある日、大きな事件が起きて……。
本当に悪い人などいない、心の奥底のどこかには善なる部分があって、それがきっとなんとかしてくれる。そういう思いが劇全体に通底していて最後までぶれることはない。
仕事を通じて心を通わせる人たちの物語は、劇場を出た観客の冬の寒い帰り道をあたたかくしてくれる。
昭和ユートピアだと冒頭書いた。ユートピアという言葉はそもそもの由来からして批判的な意味をふくむのだけど、この劇は僕にとってはすこし甘口だった。
登場人物を観て、ずいぶんみんな優しいなと思ってしまったのは、現代のあまりの寒々しさゆえだろうか。だとしたら僕のスレた心にこの劇のやさしさが塗られることで、すこしは傷が癒えているのかもしれない。
いまどきめずらしいくらいの「あたたかさ」が、帰り道の僕をあたためてくれていたのかも。
そうだ、帰り道、僕は考えていたんだ。あの劇の設定が、もしも現代ならどうだっただろうと。
あのストーリーのまま展開できただろうか。コストカッターの工場長はまったくいまでも通用するけど、社員たちとどうやって心をかよわせるのだろう。
玩具会社はスマホ会社とかになるのだろうか? おもちゃを作る喜びはスマホ作りに置き換え可能なんだろうか。
75年前のあたたかみは現代にはもうないんだろうか。あるとしたらそれはいま、どこにあるんだろう。
気温は1度。あまり寒さを感じない道を歩いて帰った。そうだ、やっぱりすこし、あたたかかったんだ。
公演場所:シアターZOO
公演期間:2021年2月6日~2月13日
初出:札幌演劇シーズン2021冬「ゲキカン!」
text by 島崎町