アトリエ阿呆船には行ったことがあっただろうか、
それとも15年ほど前に母の職場のひとが出るからと一緒に連れてこられた劇場はここだったか。
足を踏み入れて、ああ、ここだった、と思い出した。
何の演目だったかは覚えていない、ただ、裸体の女のひとを覚えていて、見てはいけないものを見たと思った。
今回はそんな、寺山的なアヴァンギャルドなシーンは登場しないことが、演出のこしばさんから説明された。
初めて見たこしばさんは人当たりのよさそうな方だった。
今回の演目はチェーホフの『三人姉妹』を潤色した作品だ
(潤色とは、もとになる作品に手を加え、ある程度物語を作り直すということらしい)。
難解であると言われるチェーホフ作品。
私自身は、札幌座『北緯43度のワーニャ』、満島ひかり・坂口健太郎出演の『かもめ』(札幌公演は見られなかったが、NHKの放送で見た、がやはり眠かった)とチェーホフ作品を見ており、
「苦しいけれど生活を続けること・働き続けること」の主張に同感するところがあり、わたしは好感を持っている。
そんなチェーホフのことを勉強しよう、みたいな気持ちもあって今回の舞台も拝見した。
入場時に渡されたパンフレット内、演出ノートには本作品が劇中劇であるとの記述があった。
実際に見てみると、『三人姉妹』、それの稽古、劇場の外の世界を行ったり来たりしていた。
今がどこなのか、認識するのは難しかったが、チェーホフの置かれていた状況ってこんな感じかなあ、と思いながら見ていた。
風蝕異人街と言えば、あの独特の喋り口で、いつもすんなりと受け入れることはできないのだが、
今回はとてもマッチしていたように思う。
事前に「チェーホフは言葉がすごい」というこしばさんのお話があったからかもしれない。
まさに言葉が明瞭に聞こえ、入ってきた。
三木さん、堀さんはとりわけ美しく、ごまかしのない、演技の力を感じた。誠実だ。目力が本当にすごい。
冒頭部「わたし、わかってた。」、そのジャストタイミングで堀さんが一粒の涙を流されていたのにも引き込まれた。
過去の作品が現代でも上演され続けるのにはわけがあると思う。
チェーホフが生きたのは100年以上前。どの時代にも不変な人間、生活を描くのは偉業だろう。
古典作品は様々な演出で見られるのが面白いところ、今後、色々なチェーホフを見て、この『三人姉妹の憂鬱』も改めて見てみたい。
2017/06/16 19:30 アトリエ阿呆船にて
text by 中脇まりや