メロスは走り続けた。もうやめようかと思いながらも、友のもとへ向かっていた。一方、本作主人公のサルタは、友を思いながらも、走ろうとはしなかったのだ。宇宙が怖くて友を探しに行こうとしなかった。上司に無理を言われて断りきれず職務上やむなく行ったのだ。自主的に友のもとへ向かったのではない。運命的にか偶発的に、宇宙に残されていたクラスメイトたちに出会ってしまったのだ。「ずっと苦しんでいたんだ」と言っても虚しい。明らかにレスキューに来たヒーローではない。メロスでもない。名前も変えて過去から逃げていたのだ。そんなサルタに、タケミナはじめクラスメイトは自然体で優しかった。この惑星でサルタらが見つかるかも、と席を空けて待っていた。彼らは中学生のままという、時空を行き来する壮大な舞台設定があるから可能な世界。ヒーローは、信じることをやめない彼らだった。笑顔で手を振ったタケミナだった。
タケミナ役の佐久間泉真さんが、実に生き生きとしていて魅力的だった。コリオレイナスも良かった。あとで知り合いが、d-SAPをしてくれている彼だよ、と教えてくれた。今後の活躍を期待したい。思ってたんだけどできてませんでした、という普通の人である主人公サルタを深浦佑太さんが好演。女子たちの熱演もいい。若い観客の皆さんが、時に笑い、最後には精一杯拍手していたのが印象的。
彼らのいる世界をあの世ととらえることもできる。大震災や大雨被害が多発する昨今、生存者の中には親しい者たちを助けられなかった、という辛い記憶に自分を責める人もいる。亡くなった人々が、あの時のまま、違う惑星で生きているとしたら。いつか出会うことがあるかも知れないとしたら。何もできなかった君を、私を、何も責めず抱き入れてくれるとしたら。それは、君は君のまま頑張れ、という、ヒーローになれなかった者たちへのエールだと思いたい。
連続猛暑の札幌。クールな舞台色で涼をとれてよかった。水族館でやるというのはどうかな。
2017年7月13日15:00 サンピアザ劇場にて観劇
text by やすみん