正直言って、ミュージカルは苦手ジャンルです。劇団四季も観たのは『ライオンキング』『オペラ座の怪人』のみ。まだまだ、チケット代も高いと思うのもあるかもしれません。どうもフィットしないんです。でも、札幌演劇シーズン初参加というミュージカルユニットもえぎ色の『Princess Fighter』は、ちょっと、いや随分と違いました。僕の年齢では、かなり気恥ずかしかったですが、とっても面白かったのです。グリムやアンデルセン童話で、誰しも一度は読んだことのあるお姫様たちによるヒロイン(正しくはヒロインだけではありませんが)戦隊物語に拍手を送りたいと思います。初めて観る女優たちの熱演も魅力でした。
外部の作家にシナリオを依頼したのは初めてだそうですが、深浦佑太の脚本が秀逸です。王道を踏襲しながらも、ツイストの効いたジェットコースター的展開で、ラストは正直読めませんでした。世界で一番有名なお姫様といえばシンデレラだと思いますが、実は原作がありません。古くからヨーロッパで色々な筋書きで語り継がれてきた、いわゆる「灰かぶり姫」を大胆に翻案したディズニー®︎の功績だと思います。このシンデレラ(佐藤亮太、ダブルキャストは恒本寛之)を男で実はゲイだったと設定した発想が、ミュージカルらしからぬドライブを生み出していました。お姫様は女性だというのは社会的刷り込みだとすれば、ジェンダーフリーな着想と言えるのかもしれません。長く魔女(青木玖璃子)である継母に幽閉されたために本の虫になってしまった白雪姫(塚本奈緒美)のエピソードも大きな意味で伏線となっています(ちょっと回収されるのに経過があり過ぎる感がありますが)。ちょっとメンタルを病んでいるおやゆび姫(長麻美)、やたらにハイテンションで鞭を振りまわす人間関係が苦手そうな眠り姫(国門綾花)、原作では舌を切られるのですが、トラウマで声を出せない人魚姫(光燿萌希、主宰にして演出・振付・作曲もこなすタレント!)と錚々たるお姫様たちが勢ぞろい、力を合わせて魔女を倒し、白雪姫を助ける物語と思いきや、アイデアたっぷりに観客の想像を裏切ってみせます。
白雪姫の継母が「世界中で一番美しいのは誰だい」とたずねる鏡の話も有名ですが、鏡(森高麻由)を一番のヒール役にしたのも面白いし、最後に鏡が明かす、お姫様たちを愕然とさせる白雪姫の無邪気な奸計には思わず「ほーっ」と感心しました。最後はお約束でハッピーエンドになるのですが、さらに観客に想像力を膨らませる劇の終わらせ方は見事でした。光燿の演出はミュージカルへの愛情や劇をつくる熱量を感じさせましたし、歌唱の良さと驚きの殺陣の切れ味。この殺陣シーンは結構長い場面もあって、役者陣はよく鍛錬して応えていたと思います。個人的には鏡役の森高と魔女の側近役の宮永麻衣(ダブルキャストは岩杉夏。岩杉ヴァージョンも観たかったです)は、みっけた感がありました。いずれも、もえぎ色の女優さん。オン見事。それにしても、yhs の青木は存在感たっぷりで魅せましたし、鏡に裏切られる最期は高慢の愚かと哀愁を感じさせました。
難をいえば劇の尺が長いです。長過ぎといってもいいでしょう。1時間40分くらいにはして欲しかったです。物語の語り口とどんでん返しに尺をとられるのは理解しますが、冗長なシーンもありました。当然、人物の出ハケも過剰になります。いくつか個人的には好感しないところはありましたが、お姫様たちの戦隊物語として手に汗握る仕上がりになっていたと思います。本が良いだけに、もっと磨けると思います。レパートリーとして、さらなるブラッシュアップに期待です。
8月7日(月)コンカリーニョ
text by しのぴー