“異次元”の舞台表現 enra『VOYAGER』

久々に、ヤバいものを観ました。映像屋としての驚きだったかもしれませんが、やはり人間の身体性は美しいな、と素直にやられた感がありました。ちなみに、縁あって、招待していただいたので舞台に正対する良い席だったです。不勉強でenraのことは知らなかったのですが、2012年に映像クリエーターで演出も担う花房伸之が8人のパフォーマー(コレオグラファー)と結成したパフォーミングアーツカンパニー。映像と人間の動きとのシンクロニシティを極めて独自の表現を広げ、既に世界で高い評価を得ているそうです。

これまではいくつかのパッセージをオムニバス形式に表現していたものを、今公演では、VOYAGER(旅するもの、航海者)という一つの大きなコンセプチュアルテーマを掲げ、生命や宇宙、ビッグバンから始まる無限の時間軸、私たちはどこへ向かっていくのか、そもそも私たちは何者なのか、という想像力溢れる問いが投げかけられていたと思います。シンクロナイズドスイミングで感じるような、映像、そして音楽とパフォーマーたちのシンクロニシティの精緻さと繰り返し現れるモチーフは、舞台表現における身体性の重要さを改めて感じさせました。パフォーマーそれぞれが新体操、クラシックバレエ、モダンダンス、コンテンポラリーダンス、マーシャルアーツ、そしてディアボロとバックグラウンドは違うのですが、確かで優れたメソッドを身に着けていることが観客にしっかりと伝わっていたと思います。休憩を挟んだ後半は圧巻でした。前半と違って映像が抽象化されていくのですが、前半で観客が受け取った想像力を一気に膨らませてくれました。RIZEを率いる金子ノブアキの音楽も爆発的な波動を感じました。パフォーマーで言えばリーダー格というのでしょうか、中国武術の達人である加世田剛の殺気と、クラシックバレエを主軸に演劇、日本舞踊、狂言、ジャズダンス、声楽、さらにモデルとしても経験を積んだ和多谷沙耶の豊かな表現力と本当に美しい身体性に魅惑され、すっかりファンになりました。

残念だったのは、ホールの問題ではないのですが、映像を投射するスクリーンが「小さくて」、舞台そのものがある種の額装になってしまって、世界観が切り取られてしまったことです。あとは、スクリーン(というか多分発光パネル)が映像がない状態でも真っ暗にならず待機状態でほのかに光っていて、演劇でいう暗転にならないことが、少し覚めてしまいました。消防法上やむを得ないのですが、ホールの通路灯の黄色がやけに気になって特に前半はのめり込めませんでした。こうした点は、今後、例えば大型の4K有機EL液晶パネルの登場や、CGグラフィックの4KHDR化でもっと進化できる余地があります。舞台表現って素晴らしいな、と改めて感じた夜でした。ぜひ、継続して札幌公演をして頂きたいと思います。

9/14(木) 道新ホール

text by しのぴー

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