『やんなるくらい自己嫌悪』。どれくらい自己嫌悪なのかと思っていたが、それぞれの人物の背景を知っていくとわかる。森にやってくるのは自己嫌悪になるような境遇の人しかいない。劇中で何人もが言っていた、「自分で自分が嫌になる」という言葉。自分というのは、嫌になってしまうものなのではないかと思った。嫌になって当たり前、むしろ嫌になるべきものではないかとすら思える。嫌になって、それでも逃れられなくて、どうにかするしかない。そうして人は成長していく。
なによりこの作品の見どころは、登場人物のキャラクターだと感じた。それぞれの確立された個性が人間の苦しい部分をよく表している。
スーツケースさん。この人はきっとすごく真面目な人なんだと思う。真面目で、頑張っているんだけど、なかなか報われない。もはや真面目過ぎる。もっと気楽に生きていいのに。
記憶喪失ちゃん。あんまり過去は明らかにならない。しかし、壮絶な過去を抱えているんじゃないかと思う。この子の場合は別かも知れないけど、思い出せない思い出は、思い出したくない思い出。森に入る前の記憶を失くしても、この子は森の中での記憶で強く生きていける気がする。
奥さん。旦那の愛人と森をさまようなんてとんでもない苦行。融通きかなくて自分に自信はなくて、生きづらさを感じることも多い。でも優しい心を持った人だと思う。
愛人さん。かわいい。女子には嫌われるタイプの人だと思う。男子といるのも楽しくていいけど女子の友達いたら楽しいかもだけどまあいいやなんて思ってそう。強いけど不器用で、どこかで生きにくさも抱えてる。
兄貴。かなり抜けてるところが多いけど根はまっすぐで優しい人。極道として生きてきたけど悪いことをしているという自覚はいつもどこかで持っていた。これから森で楽しく明るく生きてほしい。
弟分。極道一筋で、兄貴を信じて生きてきた。ポンコツな兄貴だけど、兄貴についていく気持ちはぶれない。いい意味でも悪い意味でもまっすぐな人。応援したくなる。
万屋さん。素敵な人。この人もきっと何かで悩んでいたんだと思う。何十年も人のために生きてきて、特に最期のシーンが印象的だった。最期の瞬間は、万屋になる前の、森の外で生活していた時の顔だった。
アシスタントさん。底抜けに元気なんだけど、ちゃんと自分をしっかり持ってる。誰に対しても平等に、みんなに明るくできる人。しかも意識してやっているわけではなく本質的にそういう人な気がする。
コールガール(?)。自分の力で人を変えていこうとしてる。どれだけ拒否されてもめげない芯の強さがある。死のうと思ってるところにこんな人と出会ったら何もかもがどうでもよくなる。きっとこれで何人もの人を救ってきたんだと思う。
質屋さん。すべてにおいて最強。でもなんだか悲しい雰囲気もあった気がする。なにか大切なものを捨てていたり、悲しい過去があるんじゃないかと思ってしまう。
こんなにも人間的に濃い人達が関わりあって面白くないわけがない。深い意味での“人間”を見た。観終わった後、全員が愛おしくなる。
生きていれば自己嫌悪になる。自分で選んだことなのに、あの時なんでこんなことをしたのかとうんざりする。でもいつか、自分を好きになれる日が来る。嫌な思い出だからって忘れる必要はない、嫌な思い出こそ自分を作っている。思い出は、その人が持っているからこそ価値がある。つらい思い出ほど美しい。そういう思い出こそ大切にしていきたい。そう思えた作品であった。
ぜひともたくさんの人に見ていただきたい。
11月12日14時 サンピアザ劇場
投稿者:中本 真友美(10代)
text by 招待企画ゲスト