本作品は、ある家族を描くホームドラマではあるが、イソップの「アリとキリギリス」の「政治的に正しい」版を思い出した。キリギリスは、オーストラリアのリゾートでテニスコーチをしたりサーフィンしたり、人生を楽しんでいる。アリはせっせと働いて胃潰瘍になりながら貯蓄に励んでいる。やがて、冷徹なカマキリの税務署員が「アリですね」とやって来て、査察に入り、アリは追徴金でごっそりと財産を国に奪われる、というようなストーリーだった。
本作は、放浪ミュージシャンの長男ヤマトと実家の漬物屋を継ぐ次男カクマの、相反する青春の生き方から、「自由」ってなんだ?と問いかける。しかし忘れてはならないのは、妹ツクシの存在だ。二人の兄の中道を行くかのように、地道に人生を歩み家族の基盤となって兄たちを繋ぐ。キリギリスだってアリだって泣きたい夜はある。
俳優陣は、一生懸命さがよく伝わる好演だった。複数の役を即時に演じ分けて、場面展開を早め、飽きさせない。特に男優陣は、重要な役ばかりだがよく頑張っていた。騙されて漬物屋を畳むしかないとなったカクマの深浦佑太氏の演技には、ホロリときた。弦巻氏らしい笑いを交えながら、いいドラマ展開だと思う。最後は、ナンチャラ語で書かれたものをもとに新しい漬物を作るのかと思ったので、カクマが兄を真似て旅に出るのは残念な気もする。しかし、「君の人生は君が決めるのだ」というメッセージと「家族の絆」は、笑いの中にしっかり伝わったのではないか。
筆者も家族の中では若い頃は「気楽トンボ」と言われて、定職につかず海外生活していた。父親の危篤の知らせもイギリスで聞いた。死に目には会えなかった。家族に甘えてきた罰だと思った。
死後、鮮明な夢に現れた父は、ちょっと愚痴った後、「淋しいときはいつでもそばにいるからな」と言った。留学中やせ我慢で泣きながら寝た夜を知られたのだと思った。
2018年6月16日 14:00 シアターZOOにて観劇。
text by やすみん