面白さの理由 アルカス演劇さーくる×吟ムツの会『マグノリアの花たち』

この物語はどうして面白いんだろう。書くのはなかなか、むずかしいよ。

アルカス演劇さーくる×吟ムツの会『マグノリアの花たち』は、9月に札幌公演を終え、10月に佐世保公演をおこなう。札幌公演は盛況だったし、内容もすばらしかった。

もとはアメリカの舞台で、オフブロードウェイでロングラン、その後ブロードウェイにも進出した名作。映画化もされていて、観劇後に観たけど、それもすごくいい。

で、この舞台がどんなお話かというと……

アメリカ南部のとある町。トゥルーヴィーという女性の美容室に常連のお客さんたちがやってきて、髪をセットしたり、お話ししたり、そういうお芝居。

ほら、伝えるのはむずかしいでしょ、これがどうして面白いのか。なにかすごいできごとがドシドシ起こるわけでもなく……かといってなにも起こらないわけでもないし……。いや、実際はすごいできごとがあるのだけど、それを書くと思いっきりネタバレになるので書けないし……。

しかし80年代アメリカから現在の札幌&佐世保にいたるまで評価される原因が、この舞台には確実にある。それは言語化しづらいなにか、なのだろうけど……あえて書くなら浄化、なのかもしれない。

この物語は4幕あって、それぞれの間には、だいたい半年くらいの時間経過がある。大きなできごとは「経過」のときに起こっていて、舞台上はその余波、あるいはつぎの「経過」への導入。彼女たちができごとをどう受け止め、どうやってこの先歩んでいくか、心の落ち着きが描かれる。

作者のロバート・ハーリングがこの物語を書くきっかけがあって、それはあとで知ったのだけど、なるほどと思った(ここでは書かないので、知りたい方は観劇後に調べてほしい)。どう受け止め、この先歩んでいくかだ。

タイトルにある「マグノリア」は、舞台となってるアメリカ南部を象徴する花だ。登場する彼女たちを花にたとえているという見方は、まあ、わかりやすすぎるかもしれないけど、でもまさにそうなんだ。

花のうつろいのように、咲いて散って、咲いて散ってを繰り返す。それは人間の生命の繰り返しのようで、人が生まれ、子どもができ、その子もまた、子を産み……。いや、それだけじゃない、ひとりの人間の、人生のようでもある。いいときもあるし、そうじゃないときもある。

アメリカ南部の、太陽の輝く町を舞台に、春と冬を交互に描くこの舞台は、まさに人生のうつろいや上がり下がりを象徴的に描き、そのなかで、しっかり楽しく生きる女性たちをあたたかに描く。やっぱり、ほら、いい舞台じゃないか。

さらにもうひとつ。この舞台が魅力的な理由は、友情やコミュニティーを描いているところにある。おしゃべりし、支え合う仲間たちがつねにいる。それはなにかを要求しない、対価をもとめない、人間の心の源流から生じる、本当の優しさだ。

だから、そう、この物語には金銭が出てこない。美容室でお客がお金を払うシーンがなくて、まどろっこしいから描いてないだけかな……なんて思ったけどそうじゃなかった、それ自体がテーマに結びついてた。

たとえば、アネルという若い女性が美容室で働くことになるけど、生活費をかせぐためというよりは、居場所を求めた結果のようだ。それに、第3幕で明かされる、ある「譲渡」。その行為にはまったく、対価なんて入りこむ余地がない。

本作は、札幌と佐世保の役者&スタッフで、演出家は東京から来て、札幌に数週間滞在して稽古をしたという。前説をつとめたのは(流暢にしゃべっていた)、アルカスSASEBOという文化事業をおこなう財団法人の方で、ロビーでは佐世保の名物を販売し、チラシの束の中には観光案内もしっかり入っていた(これがけっこういいできで、佐世保に行きたくなったなあ)。

文化交流とか地方の発展とか、身に染みてこない言葉じゃなく、実感をともなったこういう取り組みこそが評価されてほしいし、もっと増えてほしい。そういう願いをこめつつ。いい舞台でした。

2018年9月29日(土)19時~21時 ターミナルプラザことにPATOS

公演日:

text by 島崎町

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