会場でもらったリーフレットの棚田さんの解説には、このお芝居は「小学生の頃大好きだったTVドラマ『仮面の忍者赤影』をイメージして」作ったと書いてあった。「『赤影』は戦国時代なのに巨大ロボットはでるわ、空飛ぶ円盤はでるわのなんでもありでした。それをイメージしたわけですから当然このお芝居もなんでもありです。」
はじめにこんな文章を読むと『さぞやハチャメチャなお芝居なんだろうな』と構えてしまう。(笑)
あにはからんや、良くできたお芝居だった。そして楽しめたお芝居だった。
まず、衣装が凝っていた。黒子の棚田さんを入れて20名が登場したお芝居ながら、登場人物それぞれの衣装が良くできていて、これだけでも楽しめた。小道具などもしっかり作り込まれていた。例の玉が暗闇で光るなんて、小憎らしいほど。
しかも、何か所かあった殺陣の場面で、立ち回りの際に「キャンキャン」「キキンキキン」と刀と刀がふれあう効果音が入っていた。もちろん、役者さんたちの動きに合わせて。リアルに立ち回っているので多少のズレは問題ない。音に合わせたほぼ完璧な動きに『ずいぶん練習したんだろうな』と感心した。
そしてもうひとつ。音響もステキだった。登場人物に合わせてテーマ曲があり、その曲が流れると、『ああ、玉梓だな』とか『八犬士登場だな』と思わされる。音も豪華だった。
これだけ準備を整えれば、あとはどんな脱線があっても安心して観ていられる。思わず笑ってしまう場面も多数あったが、それは、衣装、小道具、(効果音を含む)音響という「脇」を固めたから笑えたと思う。
あまりに有名なお話なので、ストーリーの紹介は割愛。
役者さんが20名も出ているので、ここで全員を紹介することも割愛。しかし、いずれ劣らずうまかった。伏姫を演じた新井田琴江と玉梓役の伊藤しょうこは、光と影をうまく演じていた。妖怪ババアの船虫を演じたのしろゆう子も熱演。里見義実を演じた前田透は、後半で亡霊となって登場したが、気迫あふれる殺陣を披露した(個人的にも前田君には思い入れがある)。以前、劇団32口径のお芝居に出ていて勝手に馴染みがある屋木志都子も、切れのある立ち回りを演じていた。あー、こうやって書いていくとすべてを紹介したくなるので、ここでストップ。それだけ出演者が個性的でうまかったわけだ。
振り返れば、棚田さんがイメージしたという『赤影』よりは、昔々NHKでやっていた人形劇『新八犬伝』の方に似ていたように感じた。辻村ジュサブローの人形に、坂本九のナレーション。ジュサブローの衣装も豪華だったが、今日のお芝居も見かけは(失礼)十分豪華だった。また『新八犬伝』の坂本九も真面目一辺倒ではなく、時々脱線したナレーションだった記憶がある。このお芝居ではそれがセリフと動作での脱線だった。そして何より坂本九のあの「たまずさが、おーんりょー」のかけ声。独特の抑揚を付けたいい方は怖かったが、今回のお芝居でも、玉梓の登場シーンで流れた音楽も、坂本九のかけ声を思い出させるものだった。
ただ、少し不満があるとすれば、それはエンディング。お芝居が終わったかと思いきや、犬塚信乃と浜路が出てきて「みんなどこに行ったのだろう」などという。その二人が舞台袖に下がると、今度は犬飼現八(だったかな)が出てきて、どこかに電話して次の仕事は『三国志』云々と会話する。この2つの場面はいらなかったのではないだろうか。せっかくハッピーエンドで大団円を迎えたのだから、その余韻を楽しませて欲しかった。
『ねお里見八犬伝』(脚色・演出:棚田満)
1時間43分(途中10分間の空気入れ換え時間あり)
2020年8月12日19時30分
コンカリーニョにて
text by 熊喰人(ゲスト投稿)