【企画】札幌観劇人の語り場 2019年度「記憶に残った作品」

作品が舞台上で輝くのは、ほんのひととき。
けれど観た人の心に強く長く刻まれる光があります。
2019年度の観劇を振り返り、記憶に残った1〜3作品を選んで語ってもらいました。

■関連記事 【企画】2018年度「記憶に残った作品」
■関連記事 【企画】2017年度「記憶に残った作品」

 

うめの選んだ1作品

1.人形劇団ココン『繭の夢』 2019年8月 やまびこ座

不気味でユーモラス。短編5本立ての作品は、どれも遊び(余裕)のある不思議な世界。
中でも「ズボンの逃走」という作品が素晴らしかった。可愛い動きに油断していると、ゾッとすることに。マイルドなヤン・シュヴァンクマイエルみたい。演者が二人だということを、途中何度か見失った「トリオダンス」も秀逸。真夏の夜に大変良いものを観た。

 

S・Tの選んだ3作品

1. 劇団怪獣無法地帯『傾国の美女』 2019年9月 ことにパトス

2. 劇団怪獣無法地帯『散ル 咲ク ~わらう花』 2020年3月 コンカリーニョ

3. 演劇家族スイートホーム『わだちを踏むように』 2019年11月 BLOCH

上記3作品を選んだ理由はこちら

 

九十八坊(orb)の選んだ3作品

1. 劇団清水企画×劇団コヨーテ『怪物』 2019年8月 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド

スクエア摺鉢状の舞台とエレベーター、ガラスの背景、いつもは気になるまわりの観客まですべてが装置となった夢の一夜。惜しむらくは残響で聞き取れないセリフが多かったことだが、それを差し引いてもおそらく過去観劇した数多の芝居のなかでも最高峰の舞台のひとつ。

2. 札幌座 第56回公演『棲家』 2019年10月 ZOO

しんとした舞台装置。80歳の坂口芳貞さんだからこそ伝わってくるこの主人公の喪失感。久々に感じた演劇本来の「匂い」が、僕の観劇への興味を再燃させてくれた公演。

3. 札幌演劇シーズン2020-冬 きっとろんどん『発光体』 2020年1月 BLOCH

初演(2017年)も絶賛したが、再演での役者や演出の進化は期待以上だった(詳細は観劇レポートにて)。今期数少ない、2度足を運んだ作品。

 

島崎町の選んだ3作品

1.劇団どくんご『誓いはスカーレットθ』 2019年7月 円山公園 自由広場

毎年、全国をテント公演でまわる劇団。北海道にも夏ごろやってくる。僕もここ5〜6年観に行って、すでに風物詩、どくんごで夏を感じていた。しかし2019年の旅を終え、継続のための充電期間に入ってしまった。どくんごのこない2020年、僕に夏はくるんだろうか。この劇団は、芝居を人生の一部にさせてしまう力があったんだ。

2.弦巻楽団『ワンダー☆ランド』 2019年8月8月 コンカリーニョ

いまどき珍しい、勢いあふれる、あふれすぎて劇それ自体を破壊しそうなほどの舞台。内部に充ち満ちたエネルギーが、2時間爆発するさまを観た。再演は16年ぶり。いまこんな舞台を作るところはあるんだろうか。こういう迫力ある、劇そのものの力を感じさせる舞台を、もっと観たくなった。

3.きっとろんどん『発光体』 2019年1月 BLOCH

なにかを好きになった瞬間の感情、それにいちばん近いのかもしれない、この劇を観たときのよろこびは。演劇だけでなく、すべての創作物のなかで、本当はいちばん大事なものが描けていたのかもしれない。好きなものを好きにやる。その結果、「好き」は観客に届き観客もまた好きになった。これほどしあわせなことはない。

しのぴーの選んだ2作品

1. オペラ『トゥーランドット』 2019年8月 札幌文化芸術劇場hitaru

プッチーニの未完の遺作に斬新な演出的解釈を提示したアレックス・オリエの天才的な魔術に深く感銘。オリエが用意したトゥーランドット姫の運命のラストに息をのんだ。鳥肌が立った。近未来な舞台設定の中で、人物の心象が文字通り「愛」のごとく腑に落ちた。世界観のある美しい衣装、群像を受け容れた巨大な舞台美術、ピットに入った大野和士指揮のバルセロナ交響楽団とすべてが圧巻だった。札幌に来る前にびわ湖ホール大ホールでは、舞台装置の重量に耐え切れず本番中に昇降機が止まったと聞いた。そんな重圧の中、ツアーの大千穐楽を見事に締めくくったhitaruの舞台技術陣の力量にも大きな拍手を送りたいと思う。オペラという舞台表現が札幌で大きく評価された作品としてメルクマールにもなったことだろう。

2. 朗読劇 家族草子札幌組公演2019『月の庭』『荷物の順番』 8月31日 ウィステリアホール

原作・脚本は日本のポップスシーンをつくってきた作詞家であり小説家でもある森浩美。朗読と芝居を織り交ぜた独特の空気感がとても新鮮だった。誰もが心当たりのある何気ない、てらいのない家族の物語を描く、一つひとつのディテールが深く心に響いた。特に第2部の『荷物の順番』では菅野公が演じた息子が自分の親への不実に重なり涙が止まらなかった。東京で「家族草子」を観た大橋千絵(フリー、アルカス演劇さーくる×吟ムツの会『マグノリアの花たち』マリン役)が、ぜひ札幌の俳優陣でやりたいと奔走して実現した企画だそうだ。ぜひシリーズ化してほしいと思う。

※今般の新型コロナウィルス災禍。ジャレド・ダイヤモンドがいうブラックスワンの飛来といえるだろう。人が集まれないということが演劇というアートをこれほど苦しめるとは。2020年は厳しい一年になるだろう。舞台芸術にかかわるすべての人々に心からのエールを送りたいと思う。

 

マサコさんの選んだ2作品+α


1.オフィスコットーネプロデュース『さなぎの教室』 8月?9月 東京・下北沢 駅前劇場

私が東京に観劇に行く時、必ず観劇予定に入れている劇団の一つが「小松台東」だ。本作は、主宰の松本哲也さんが演出(さらに、出演者降板でご本人が出演)すると知り、数カ月前に購入していた『アジアの女』(石原さとみ主演)のチケットを手放して観に行った。看護学校の同級生4人が大人になり、4人の関係がパワーバランスでゆがんでいく物語。気が付いたら底なし沼にはまっていたような、各人を追い詰める・追い詰められていく演出にぞわっとした。何よりも、松本さんの女装に何一つ違和感がなかったことが一番記憶に残っている。小松台東、札幌に来てほしいです。
※大竹野正典没後10年記念公演

2.高校演劇全般

幻となった「新篠津高等養護演劇部のポルト公演」への寄稿でも書いたのだけど、高校演劇を観る時は楽しみの一方で、胸が痛くなる。それを実感しまくった一方で、2019年度はバラエティーに富んだ作品に出合えたなぁという印象が強い。
今、もう一度観ることが叶うのならば、札幌北斗『ハハカレ』、新篠津高等養護『オツベルの象たち』、札幌平岸『ハーフウェイ・ターミナル』の3作品を。

2.抗えない事態で観られなかった作品

・東京デスロック『Anti Human Education』←台風接近でキャンセル。筑駒の平田先生の回だったのに…
・北斗、新篠津、根室、(3月の)おバカ←新型コロナで中止。各校の先生、その際にはいろいろと情報を寄せていただき、ありがとうございました

※2019年度は、その大半を国家試験の勉強に費やしていたので、観劇する回数がぐっと減った。だからこそ、「観るなら厳選しないと」という気持ちが強かった。その分、ハズレを引くことが減ったのは喜ばしいのだけど、どうしようもできないことで観劇できなくなった作品が多かったのが残念だった。

 

瞑想子の選んだ3作品


1. プロト・パスプア 『遮光』 2019年11月 レッドベリースタジオ

中村文則の小説を小佐部明広が脚色・演出。しばしば「人の心の闇」を扱う小佐部作品だが、初めて全体的な納得感をもって観た。芝居の流れに筋ズレや歪みはなく、原作の目指すところに忠実だったのではと想像(原作未読だが)。宮森俊也の平静と狂気の演技が光る。小さなスペースで、真摯に作られた精度の高い演劇を観る贅沢。このような演劇ならまた観たい。

2. 座・れら『私 〜ミープ・ヒースの物語〜』 2019年11月 やまびこ座

脚本・演出は戸塚直人。「同調圧力が高まる中で『私』はどう振る舞うのか、自分なりの『正しさ』を貫けるのか」の問いが記憶に残る。感想は北海道戯曲賞の長塚圭史講評とほぼ同じ。「反ユダヤ主義に加担した〜市民を頭ごなしに批難することは出来ないという視点に重きを置こうと試みている」と感じた。
他の講評の指摘、「ナチと戦った英雄を讃えている」とは思わなかったし、「市井の善良な人々がなぜ危険な思想に染まってしまうのか」についてはむしろアプローチしていると感じた。冗長さはブラッシュアップを期待。
※北海道戯曲賞講評↓
https://haf.jp/gikyoku.html#news200206b

3. 劇団清水企画×劇団コヨーテ『怪物』 2019年8月 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド

ガラスのピラミッドという舞台装置の特別感、暮れていく空を古代の劇場のような空間で眺めた贅沢が記憶に残る。原作の「怪物」を原発と解釈するのはアリだが、JCO臨界事故時の医療問題を絡めたことで恐怖の焦点がボケたのが残念。演出家自身が登場したシーンのトーンずれも気になった。しかし全体として、美しい空間を活かした演出と、亀井健脚色らしい詩的な台詞とを楽しんだ。

※2019年度、舞台作品で一番心に残っているのはオペラ『トゥーランドット』。圧倒的な美しさ、古典通りの展開でありながら納得のラストに至るアレックス・オリエの新解釈に脱帽。二番は、ウォーキング・スタッフ『三億円事件』。忖度抜きで完璧に満足、脚本も演出も役者も巧い。あっという間の2時間。もう一つ選ぶなら、東京成人演劇部『命、ギガ長ス』。ヘタウマと下手の違い、的なものについて考えさせられた。しかし、今回は道内作品を選出したかったので。

 

やすみんの選んだ3作品

1. 風蝕異人街『メディアマシーン』 2019年6月7日 パトス   観劇レポートあり。

一見難解な内容をこしば氏が実に分かりやすくストレートに見せてくれた。やはり額に汗する群舞が印象的。

2. シスカンパニー『Life Life Life ~人生の3つのヴァージョン』  2019年4月21日 シアターコクーン

ヤスミナ・レザ作品をケラリーノ・サンドロヴィッチが演出。稲垣吾郎ちゃんが好演。昔、レザ作品のヒット作「ART」を観て面白いと思ったので観た。これも秀逸。コクーンに珍しく、四方を観客席にして舞台を取り囲む造り。これがあたかも出演者たちの家庭に自分も入り込んでいるように、或いは覗き見しているように、距離感をなくしてくれる。

3. 藤田貴大『City』 2019年5月24日 埼玉芸術劇場

緻密な舞台上の動き、いつもの詩的な表現が、またボディブロウのようにじわじわくる。何の感情なのか、自分でも不可解で言い表し難く、モヤモヤしながらも、藤田氏の世界に浸っているという実感はあり。冷たい水にそろりと足先をつけて、やがてゆっくり全身を沈め、最後には解き放たれて水中を浮遊する感じか。都会の孤独、心の闇、スーパーヒーローの戦い。劇画のような世界を詩的に描く。
感想記事はこちら

 

有田英宗(ゲスト投稿)の選んだ1作品


1. ブス会*『男女逆転版・痴人の愛』リーディング公演 2019年5月 すすきの 新善光寺

谷崎潤一郎原作の男女を逆転させた朗読劇。浄土宗寺院の本堂で上演された。極楽浄土への往生を祈る宗派だが本堂は黄金色の仏具で飾られ大きな和蝋燭も灯った。この本来の舞台装置が主演安藤玉恵の熱演と相まって「男女逆転版・痴人の愛」の淫靡さを際立たせた。翻案・演出のペヤンヌ(日本人女性)と安藤玉恵は早稲田大学の演劇サークル以来の同志。
※ペヤンヌマキ×安藤玉恵生誕40周年記念(株式会社tattプロデュース)

 

熊喰人(ゲスト投稿)の選んだ3作品

1. 弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』 2019年9月 サンピアザ劇場

2018年2月に教文小ホールで観劇して以来2回目。個性的な登場人物にストーリーの面白さ、それに加えてテンポの良さ、音楽の使い方の良さが魅力である。観るたびにシェークスピア作品が分かったような気にさせてくれるが、あっという間に忘れてしまう。なので何度も観たいと思わせる作品。

2. 『札幌学生対校演劇祭第10章:X』 2019年6月 サンピアザ劇場

学生演劇の対校祭も10年目。毎年、参加団体にレベルの差はあるものの、今回は全体的によく出来た作品が多かったように思う。各大学がひとつのテーマで異なるテイストを生み出した努力に敬意を表したい。最優秀賞を受賞したデンコラは、今思い出しても面白い作品だった。

3. 弦巻楽団『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』 2020年1月 サンピアザ劇場

サンピアザ劇場で2020年の最初を飾ったお芝居。前半と後半でテイストが違っていて、どちらを好きか意見が分かれる作品だったが、話がテンポよく進んでいたので、純粋に楽しめた作品だった。男二人のお芝居だったが、深浦佑太と村上義典が好演した。

 

わたなべひろみ(ひよひよ)(ゲスト投稿)の選んだ3作品

1. 信山プロデュース『噂の男』 2019年4月 コンカリーニョ

気持ち悪いくらい酷い話だが、引き込まれる……というか、巻き込まれると言うべきか。
愛情と憎悪と暴力の捻じれまくった関係を実感をもって感じさせる俳優陣の上手さが際立っていた。2時間超えの作品にも関わらず、一時も気を抜くことができずに最後まで一緒に走りぬいたような疲労感。もう一度観たいかと言われたら、観たくないけど、やっぱり気になると答えてしまいそう。

2. 小泉明郎『縛られたプロメテウス』 2019年10月 愛知県芸術劇場大リハーサル室

VRゴーグルを身につけ、誰かの脳内に迷い込んだか、白昼夢を見ているような前半。主にモニターを見ながら、核心に踏み込む後半。それがよく出来た木組みのごとくピタリとはまり込む瞬間に思わず声を出しそうになった。
最新の技術を使ったVR演劇作品としての凄さよりも、技術を手にした我々人間への問いかけの方が衝撃的だった。
※あいちトリエンナーレ2019パフォーミングアーツ・プログラム

3.All Sapporo Professional Actors Selection『虹と雪、慟哭のカッコウ』 2020年2月 札幌市民交流プラザ クリエイティブスタジオ

札幌の「街」としての記憶がしっかりと刻まれ、あの時代の明暗がそれぞれの人物の背景となっている。良い人と悪い人がいるわけでも、正常と異常が対立するものとしてあるわけではない。分断は悲劇を生む。今こそ、それに気づかなければならない。そして、あの作品は札幌そのものだから、別の土地の人には札幌に来て見てほしいと感じた。

■関連記事
【企画】2018年度「記憶に残った作品」
【企画】2017年度「記憶に残った作品」

text by 札幌観劇人

SNSでもご購読できます。