どこかすぐそこにある感じ やまびこ座プロデュース『OKHOTSK』

作品が終わると、物語はどこへいってしまうんだろう。

たまにそんなことを思う。特に素晴らしい作品を見終わったあとに思う。

やまびこ座プロデュース『OKHOTSK ―終わりの楽園―』を見終わって、あの熱くはかない物語が僕の前から消えてしまったとき、やはり強く思った。物語は、どこへいってしまったんだろう。

終わった、ということなんだろうか。終わってしまって舞台から消えて、また次の公演がはじまるとそこに現れるんだろうか。

それとも、僕の胸の内に存在しつづけて、ずっとあの物語――あの時間、あの空間のことを思いつづけている、ということなんだろうか。

冒頭、宙に浮いた骨のいくつかがつなぎあわされ、姫の姿となる。そうして、かつて存在したオホーツクの楽園にまつわる物語が、舞台の上によみがえる。しかし姫の腕はずっと骨のままだ。海の幸、山の幸に恵まれた楽園にいるのに、死のイメージがつきまとう。

一方、倭国の女帝(斉明天皇)は、北方を支配するために男(阿倍比羅夫)を派遣する。女帝はまるで冥界の主のようで、こちらも死の臭いを感じる。

2つの死に挟まれた男は、まさに生の象徴だ。よく食べよく踊り、コミカルな姿はすごくおかしい。終盤、男は激情にかられ、猛然と走りゆく。その姿。どうして人形に、あんなに命を感じるんだろう。どうして男が最後にとった行動に、あんなに心がゆれるんだろう。

人形、操演者、演者、バロック音楽、砂絵、影絵……すべての芸術が一体となって、本当に、素晴らしい舞台が完成し、作品は終わる。

終演後、僕はしばらく感動に打ちのめされていた。そうして気がつくと、舞台の上からはもう物語はなくなっていた。

作品が終わると、物語はどこへいってしまうんだろう。

かつて繁栄し、忽然と姿を消したオホーツク人のように、いなくなってしまった。どこかすぐそこにある感じ、ただそれだけを残して。

 

公演場所:札幌市こどもの劇場 やまびこ座

公演期間:2016年7月16日~7月23日

初出:演劇シーズン2016夏「ゲキカン!」

text by 島崎町

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