TGR2023回顧録(2)――トランク機械シアター『ねじまきロボットα〜バクバク山のオバケ〜』

アーカイブ第2夜はアルファー君。(今回は2番目の観劇でしたが)例年、僕のTGR初日を飾ってくれるトランク機械シアターさんの看板シリーズです。
(感想はあくまで個人的なものであり、文責はすべて僕個人にあります。TGR札幌劇場祭主催の札幌劇場連絡会や他の審査員さんとは一切無関係です)

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誕生からすでに10年以上が経過し、人気者として定着したアルファー君。何度見ても絶妙なその造形と相まって、すっかり血の通った(いやロボットだから血は通ってないか笑)キャラクターとして存在しています。彼が舞台に現れただけで、個人的にはメジャー作品のように感じています。
伝統芸能「文楽」などでよく見られる、人形使いの姿が客席から見える操演方法。ケコミにこだわらないことでやまびこ座の広い舞台をのびのびと使えるだけでなく、公演を重ねるごとに役者(人)と人形とのコラボ劇としても進化。また、それによって操演が見える違和感も薄れ、逆に人形自体が生き生きとした単体の出演者として見えるという効果ももたらしていると感じています。コロナ禍が(一応)明けた今回、再演に選んだのが一連のシリーズの中でもかなり社会性の強いテーマをもつ本作であるという所にカンパニーの意思を感じ、期待を持って席につきました。

OPダンスからの三島さんのギター(多才さに感心)。三島さんがそのまま物語に繋げる導入部など、観客(子どもたち)をより巻き込むしかけが、初演時よりさらに工夫されていると感じました。時に子ども達の声を拾いながら進めたり、じっとしていられなくなった子どもをフォローするスタッフワークなど手慣れた進行にも安心感あり。
毎回楽しく観ることばかりが先行するのですが、さとうさん(「バクバク」操演)がよく動くのが印象的だったり、「つぎはぎ」は操りにくい構造の人形だと思うのですが後藤さんが色々な表情をつけてくれたりなど、メンバーのスキルも回を重ねることにますます磨かれているのだとも感じました。喜怒哀楽すべてが見える「バクバク」の造形(表情)も素晴らしい。

初演ももちろん拝見しており、このお話はかなり好きなのですが、それでもこの難しいテーマをあえて再演するなら、幅広い観客層に「どう見せるか」についてはまだまだ発展の余地があるとは思います。テーマが難しいのも、立川さんが子どもたちに「今すべてを理解できなくてもよい」とお考えなのももちろん承知の上であえて書かせていただくと、やはり後半の展開に「小さなお友だち」は少し置いてけぼりにされてしまっていたような気はします。悲しい出来事もあるので最後に救いを見せたいのはわかるのですが、エンディングは大人向けの感が否めませんでした。
(残念ながら僕は子どもではないので、「置いてけぼりになっているのでは」というのは勝手な思い込みなのかも知れないですが)

「ゴミ」とひとまとめに表現しつつ産廃や核廃棄物のことだとわかるイラストにしていたように、大人向けに示唆を示しながらも物語自体はあくまで子どもが楽しめる形に終始するような作り方は、外野が簡単に言えるようなおいそれとできるものではないとは思いますが、それでも立川さんとこのカンパニーなら、この物語をさらに進化させてくれるのではないかと期待してしまいます。

<主観的絶対評価>
人気度★★★★★……またまたオーディエンス賞を受賞。さすがとしか言えません
キャスト実力度★★★★★……人形を使うだけではなく、人間だけの場面など、一人何役もの役回りも含めて、舞台の立体感は公演を重ねてきたカンパニーの強み
テーマの訴求度★★★★☆……今作はさらに進化した再演をまたいつか

2023/11/5(日) 14:00 やまびこ座にて観劇
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トランク機械シアター 人形劇 『ねじまきロボットα〜バクバク山のオバケ〜』
2023/11/2(木)〜5(日)
【キャスト】
縣梨恵・石鉢もも子(ウェイビジョン)・後藤カツキ・さとうともこ
寺元彩乃(capsule)・原田充子・三島祐樹

【スタッフ】
作・演出 立川佳吾
音楽 三島祐樹@ラバ
音響 橋本一生
照明 秋野良太(合同会社 MELON AND SODA)
イラスト:チュウゲン

text by 九十八坊(orb)

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