どこか遠くへ 劇団千年王國『狼王ロボ』

どこか遠くへ連れて行ってくれる作品が好きだ。

知らない土地の知らない人たちの話、観終わったあと(読み終わったあと)、気がつくと今まで自分はたしかにそこにいたんだなと思うような、そんな作品が好きだ。

劇団千年王國『狼王ロボ』は100年以上も前のアメリカ大陸、広大な土地へと僕たちをいざなう。そこにはまだ大自然があり、様々な生物が暮らす。人間と動物の距離は今とは比べものにならないほど近く、農場主はその地に生息する(君臨する)狼の王ロボに日々おびやかされている。農場主は動物に詳しいシートンを呼びよせ、ロボ(とその配下)の退治を依頼し、対決が始まる。

舞台だけが100年前のアメリカに変わるのでない。会場全体までもが、あの日あの時の熱気に包まれる。役者やダンサーがところ狭しと駆け回り、客までも参加する中盤の盛り上がりは圧巻だ。そこは演出・櫻井幸絵の能力でありパワーであり情熱だ。

そうして、終盤、陽が落ちた空に星がきらめく美しさ、静寂。ロボは、シートンは、その1つ1つの輝きになにを見たのだろう。僕たち観客も、息をのみ、じっと星を見つめる。100年後、札幌の空に星はほとんど見えない。失われてしまったものをふと思い、この作品が、ただ僕たちを見知らぬ世界に連れて行っただけでないことに気づく(それは一番最後のセリフでも語られることだ)。

僕は、どこか遠くに連れて行ってくれる作品が好きだ。その世界が、物語が、実は地続きで、今の自分と世界につながっていることを教えてくれる作品は、なお好きだ。

そうだ、役者についても触れないといけない。森崎博之のすごさについてだ。目立つアクションがあるわけでもない、特殊なキャラクターでもない、セリフが特別多いわけでもない。しかし、ひとつひとつのセリフを大事にしている。過剰なメリハリではなくほんのわずかの気の使いようにプロの仕事を見た。

そうして榮田佳子。彼女ほど舞台上でうれしそうな役者を見たことがない。舞台に生きる、という言葉があるけれど、榮田佳子がまさにそうなのだろう。

この作品は、今度もレパートリーとして公演しつづけられるはずだ。なので、あえて欲を言いますと……はじめからシートンの語り(視点)で通した方がいいのかもしれない。ダンスあり音楽あり、客いじりありで、会場すべてを使うこの作品は、豊かな表現にあふれ多彩な仕掛けに満ちている。だけど時にそれは散漫さにもなる。だからこそストーリーのスジは一人の人間に語らせつづけて、道を明確にした方が観やすくなるのではないだろうか。で、今までシートンの語りだったこの物語が、一番最後のみ別の人間のセリフによってまとめられると、シートンのその後についての感慨や、観客に対するメッセージが際立つのではないかと思った(まあそれだけ森崎シートンが良かったということでもあるのだけど)。

ともあれ終演後、ロビーや会場の外は喜びに満ちた観客たちであふれていた。大人から子供まで(あるいは違う言語の人たちまで)、こんなにも多くの人たちを1時間半でしあわせにでき、一生忘れない思い出を作り出す、すばらしい作品だった。

 

公演場所:かでる2・7

公演期間:2017年1月28日~2月4日

初出:札幌演劇シーズン2017冬「ゲキカン!」

text by 島崎町

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