作家の「やりたい」を楽しむ。─怪獣無法地帯『古事記殺人事件』

会場に入ると、例によって棚田さんがお客さんをさばきながら、とりとめもなく喋り続けているいつもの光景。特に組立てられた前説をしているわけではないのだが、客はリラックスしつつ観劇の準備(心づもり)をすることができるという、いつもながらに感心する開演までのひととき。

…と思ったら、特に暗転するでもなくそのまま棚田さんの語りで開演につながるという構成。
当日のリーフには「『蜘蛛男(江戸川乱歩)』『八つ墓村(横溝正史)』『妖怪ハンター(諸星大二郎:漫画)』『TRICK(映画)』をごちゃまぜにした…」とあったが、なるほどと思わせるストーリー。(『TRICK』自体も前出の作品群のパロディなのだが)

棚田さんの作品は、とにかく本人が書きたいと思うモノを、楽しみながら(いや、苦しみももちろんあるのでしょうが)見せてくれているというのをひしひしと感じる。いい意味で「その場限り」で、思いっきり楽しい。

今回特徴的だったのは、これだけの展開を80分という尺に納めてしまったこと。そのため、登場人物の登場やら自己紹介がやたら早回しだった。特に序盤のサクサク感は狙いなのかもしれないが、そのノリに慣れるまでちょっと時間がかかってしまったので、個人的にはもう少しだけ丁寧に観たかったかなあと。80分という尺はあっという間だったので、全体としてあと15分くらい長くても全然イケたと思います。

口寄せの老婆と、神話の再現に現れるスサノオを演じた屋木さんが迫真。特に、ヤマタノオロチの操演による神話のシーンや、終盤の「洪水の化身」としての解釈や展開など、本編の抑えどころがしっかりしているのもさすが。
(それでいて、「妖怪ハンター」(漫画)のようにテキストで説明できるわけではないので、難しい話は控えめであり、日本神話に親しんでいない人でも楽しめる作り。)
幻想の中で再度姿を現すスサノオなどは、妖怪ハンター的でとても美しいシーン。終盤の陰陽師登場など、スケールの振り幅が大きく、これほど道具立ての少ない舞台で、芝居ならではの想像力で「見せ」ちゃうのは圧巻。
(陰陽師の技があまり効果的に使われる機会が少なかったのがちょっと残念。)

洞窟のシーンで客席をねり歩くのは、過去作『メデュウサが死んだ』等の演出の再現だが、客いじりをしながらさらに楽しさが倍増。小ネタの多さや照明の当たらない役者の脇芝居など、かなり緻密に作りながら全体のテンポはあくまでもまったり。
棚田さんの作り出す物語は、全体の「ゆるさ」が独特であり、それが完成度の低さではなく、観る側の安心感に繋がっているのがすごい。一見穴だらけで笑いも散漫になりがちなのだが、それが破綻ではなく物語のペースになっている。(これを、例えば仮に大学の演劇サークル等で模倣しようとしたら、きっとただのつまらないゆるい芝居になってしまうのだと思う。)

主人公の宿敵とも言える敵役が登場し、やられたと見せかけて最後に復活するのは、続編を示唆しているのではなくそれ自体が「お約束」的演出なのだろうが、棚田さんの気の向いた時(笑)に、ぜひ「事件簿その二」も作って頂きたいところです。

2017/6/17(土)14:00 ターミナルプラザことにパトスにて観劇
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劇団怪獣無法地帯第25回公演
民俗学者神無月健介の事件簿◎その一『古事記殺人事件』(80分)
2017/6/15(木)〜18(日)

【脚本・演出】棚田満

【出演
足達泰雅 新井田琴江 長流三平(3ぺェ団札幌) 石橋俊一 忠海勇(3ぺぇ団札幌) 塚本雄介 籠谷翔太 伊藤しょうこ 岡本淳子(くつした企画) 長谷川碧 原田充子(Real I’s Production) 小林健輔 石橋玲 柳瀬泰二(3ぺぇ団札幌) 井口浩幸(劇団32口径) 梅津学 屋木志都

text by 九十八坊(orb)

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