罪深さを抱えて〜yhs『忘れたいのに思い出せない』

老いと介護という深刻で身近なテーマに、家族や自身を重ねた人も多かったのではないか。会場では案外?若者がすすり泣いていて可愛かった。相変わらず、南参氏の作品は、重いテーマを暗過ぎず明る過ぎず見せる、さじ加減がいい。

長流3平さん演じる息子ガンマの「早く死んでくれ」という叫びに、ドキリとする。なんちゅーことを!不謹慎なと反応しつつ、深く同情してヒリヒリする。酷い言葉だが、本人もどうしようもない苦しい真実を吐露しているからだ。愛していないのではない、感謝していないのではない。老々介護が増える社会状況で、このストレスは深刻だ。きれいごとでは済まない人の心理をえぐる。そんな人間の罪深さをも包み、舞台上の時はゆっくり流れてゆく。

人間の罪深さといえば。昔、ベルリンかドレスデンの教会で(どっちだったか忘れて思い出せない)バッハのミサ曲を聞いていた時のこと。有名なピラトの裁判の場面、イエスか極悪人バラバか、どちらかに恩赦を与えるのだが、裁判官ピラトが群衆に、さあどちらを解放するかと問うピラト役ソロの直後、合唱団が一斉にフォルテで「バラバ!」と答える。その瞬間、私は思わず自分も声を出したかと思い、ぞっと身の毛が逆立ったのだった。私もあの時ゴルゴダの丘にいて、バラバと叫んだのだ、と確信に近いほど思った。さすが天才バッハさんですな。ハッとさせる。自分の隠し持つ愚かさ、罪深さに気づかされるのだ。その後、実際にゴルゴダにも行ってみたりした。やはりあの時そこにいたような気がした。

トオル役の曽我夕子さんが清涼感があってとても良かった。両親の離婚に傷ついたり、出産への不安で泣いてしまう姿が、等身大で、素直にかわいそうで、がんばれ、と思えた。櫻井保一さんが見事に演じた、介護ヘルパー、ゲンブに見る「悪」も面白かった。鉄板悪人として、その最期は、後悔ではなく自暴自棄と思いたい。チヨ役の最上怜香さんも安心の演技で、能登英輔さん、小林エレキさんと共に脇を固めていた。柴野嵩大さん、宮本暁世さんも過不足ない好演でリアルだった。そして中心にいる祖母役、福地美乃さんは、実に気持ちの入った真剣な演技だった。素晴らしい。ただ祖母センリの後半のセリフは、段々と疲れてきて聞き取る集中力が途切れた。言葉が少ない方がセリフが活きるのではないか。まあ、筆者も老いてきておりますゆえ、ご勘弁を。

2017年7月25日19:30 コンカリーニョにて観劇。

text by やすみん

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