一緒に観て一緒に笑う イレブンナイン『あっちこっち佐藤さん』

圧倒的。圧倒的舞台。

観終わったあと、僕はめまいがして頭が痛くなった。それくらいの圧倒。

イレブンナイン『あっちこっち佐藤さん』は、とにかくおかしく、ひたすら笑え、どこを切っても面白く、楽しさと喜びと笑いに満ちた最高の2時間だった。

まるで、笑いが絶えると舞台が死んでしまうとでもいうように、秒単位で笑いを入れてくる怒濤の展開。かでる2・7をびっしり埋めたおよそ500人の観客は、息つく間もなく笑いまくり、僕の席の近くにいた客は、笑いすぎて呼吸がおかしくなっていた。

笑いで人を殺すことができると別役実がどこかで書いていたが、イレブンナインの手にかかれば、あながちない話じゃないぞと僕は思った。

主人公・佐藤ヒロシは2人の妻を持っている。重婚というたった1つのウソを隠そうとするため、大量のウソが積み重ねられ、それがもとで膨大な数のズレが生まれていく。

佐藤ヒロシの重婚を隠し、手助けをすることになるお隣の佐藤さんことタロウは、ヒロシのためにひたすら場を取りつくろうのだが、これがまさに火に油。彼がしゃべればしゃべるほど、動けば動くほど話はややこしくなり、からまった糸はさらに複雑になってしまう。

きっとタロウがいなかったらもっと穏当な展開になって、あっけなく終わっていただろう。だからこそ僕たち観客は、話をややこしくしてくれて膨大な笑いを生み出してくれたタロウに感謝するのだ。

そのタロウを演じているのが本作の脚色・演出もつとめる納谷真大で(江田由紀浩とのダブルキャスト)、とにかくこの公演を成功させたいという演出家の姿と、ヒロシのウソを隠し通そうと奮闘するタロウの姿が重なりあって、ちょっとほかの舞台でも観たこともないような異常なテンションと異様な迫力だった。

納谷の好演(怪演)は同時にダブルキャストの江田バージョンではどうなるんだろう?という好奇心も生み出す。ヒロシ役もダブルキャストで、藤尾仁志(オクラホマ)と明逸人が演じる。ヒロシ×タロウの組み合わせは4通りで、すべてのバージョンを観たくなる。

今回、かでるという広い会場で、たくさんの観客と一緒に観るというのも重要で、笑いや感情が通常よりも何倍、何十倍にも増幅される。まるで観客全員が1つの塊のように一体化して、どっと笑ったり、感情をたかぶらせ、劇の途中に拍手まで起こっていた。みんなで一緒に観て一緒に笑う、最高の観劇体験だった。

最後に。おそらくこの舞台は札幌の演劇史に残るだろう。それくらいの作品だ。ただ1つ、僕はラストにだけ不満を持った。

 

(※以降ネタバレはしませんが、まだ観劇してない方は読まない方がいいです)

笑いのつるべうち、まったく隙のない作品が、最後になって突如、理性でオチがついてしまったように思われた。

なにか作為的で、すごくもったいない気がした(2人の妻の気持ちをいいように操作したような)。人に聞いた話だと原作とは展開が違うそうだ。

原作がどういう終わり方なのかわからないが、少なくとも『あっちこっち佐藤さん』は怒濤の笑いと圧倒的なテンションの作品なのだから、うまい着地など気にせずに、主人公・佐藤ヒロシが汗と涙とウソと笑いまみれになってバッタバタしながら終わってもいいんじゃないだろうか。

この作品がゆるぎない大傑作であることに変わりはないが、ラストだけそう思った。

 

公演場所:かでる2・7

公演期間:2017年8月12日~8月19日

初出:札幌演劇シーズン2017夏「ゲキカン!」

text by 島崎町

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