汗もシズルな傑作笑劇! イレブンナイン『あっちこっち佐藤さん』

やはり最高でした!演劇でしか提供できないエンターテインメント。よく映画とか特にテレビドラマでは「日替わり」ということを気にします。つまり、この劇は一体どのくらいの時間の間に起こったことですか、ということですね。『あっちこっち佐藤さん』は、文字通り上演時間の2時間の出来事をライヴで観ているようなシズル感たっぷり。役者もびっしょり汗をかいて衣装の色を変えんばかりのハイテンション。作・演出の納谷真大の作家魂の原点ともいえる大傑作!シーズンでのレパートリー作品として真骨頂を見せてくれました。僕が観たのは2日目のマチネ。かでるで、お盆のこの時期からなんと12公演を敢行。しかも今週は道新ホールにウラがあるにもかかわらずの立派な集客。作品の面白さに観客がどれほど期待を寄せていたかの証左でしょう。「目指せ動員5,000人」をぜひ達成してほしいと思います。

原作はイギリスを代表する笑撃作家、レイ・クーニーの重婚しているタクシードライバーをめぐる傑作コメディ『Run for Your Wife』。富良野塾出身の納谷が原作に惚れ込んで、OBらとともに舞台を札幌に置き換えてつくった初演は、札幌劇場祭TGR2007の演劇大賞を受賞しました。現在のイレブンナインのシステムになってからでは、札幌演劇シーズン2014-夏-。再演に7年の時間が必要でした。何と言っても「演技至上主義」という納谷の劇作の出発点のような熱量や凝縮感が感じられます。作家が愛している作品ということでしょう。コメディは実は一番難しいのです。本の面白さ、セリフの洒脱さだけでは観客はクスリとはくるかもしれません。でも、ずっと腹を抱えて笑うためには、やはり役者の身体性やお芝居の存在感、つまり役者力がつくる人物の状況が必要です。

ドタバタ劇に終わらせない役者たちの台詞術の巧さがあります。本の背骨がやはりとてもしっかりしているからでしょう。配役のバランスも素晴らしい(この日は佐藤ヒロシ役の明逸人の初日でした。座長はオクラホマの藤尾仁志)。再演で敢えてリスクをとって人物として加筆された隣人の妹。つまり、佐藤タロウ(納谷真大、別キャストは江田由紀浩)の妹ハナコ(廣瀬詩映莉)のパワフルアップぶりも印象的です。これは、廣瀬の役者としての成長だと思います。刑事昇任を夢見るyhs 小林エレキの佐藤巡査長も味わい深いです。エレキが出てくるだけで笑えます。このパターンに持ち込むと小林の必勝決め技一本がキメてくれます。東京から参戦したヒロシの妻、カズコ役の小野真弓は予想以上にキレてました。同じく妻のサチコ役、小島達子とのバランスも良かったのかもしれません。誰がキャスティングしたのか、とても目利きがありました。今回は劇の温め方から小ネタ満載でした。両方の大家も佐藤姉妹(上總真奈、澤田未来)のおばあちゃんというお約束もグッド。久々に聞きました。昭和ドラマの名ゼリフ「ジュリーィーーー」。エピローグはいかにも英国的ウイットですが、「妻」たるものの圧倒力に思い当たる方、多いですね。

とってもブラボーな、演劇愛あふれる必笑コメディ!かでるはマチナカですよ。ぜひ、お見逃しなく!藤尾のヒロシもぜひ観たい!

8/13(土) マチネ  かでる2・7

 

 

text by しのぴー

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