死に際にドラマはいらない、それがザコ。−−『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』

『死』にドラマを持たせる物語が多い中、ざくざくと気持ちが良いほど人が死んでいく。それは彼らがザコだからーー。

ということで先日、舞台『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』を観劇。有名なケンシロウやラオウは一切キャスティングされておらず、出てくるのはザコばかり。ザコにスポットを当てた話が、オムニバス形式で四篇。特に舞台の前知識もなく、また『北斗の拳』自体も世代ではないため少し場違いな気もしながら、見知った数名のキャストと贔屓にしている製作会社を信じての観劇であったが、良い意味で見終わったあとに「何も残らない」舞台だったと感じた。

それはメインに語られる者も、その脇を固める者も皆等しくザコであり、「死」へ向かう過程にドラマはあれど、「死」そのものにドラマはないからだと、今になって思う。たとえどれだけ仲間思いでも、どれだけ大切なものがあっても、死ぬ時は一瞬。思わず笑ってしまうポージングと断末魔によって、ああ彼らは主役には決してなれないザコなのだと思い知らされる。

しかし、ギャグ一辺倒かと思いきやザコにはザコなりの矜持があり、その『生き様』を感じさせるシーンには、客席のあちこちから鼻をすする音が響く。特に、磯貝龍虎演じる食欲旺盛な気の良いザコと水希蒼(A応P)演じる女
ザコの「普通の人間がこの世界に来たらどうなるだろうね」「みんな一緒よ、弱い者から奪い、強い者に奪われる」と語るシーンは、ザコとして生きる者から、我々への「ザコと普通の人間との違いは何か」という投げかけであった。

日替わりキャストが演じるかの有名な「汚物は消毒だー!」のモヒカン役(観劇日は水石亜飛夢)と、寿里演じる武器屋のアドリブが個人的に一番笑わされた。寿里といえば、トリプルキャストのジャギとのやりとりも同じく部下である彼がメインとなって行うので、流石のアドリブ対応力だと改めて感じる。

また、随所に挟まれる原作ネタや、クリスタルキングwith A応Pによるオープニングライブ、更に千葉繁による新規ナレーションなど、原作ファンなら楽しめること間違いなしといった内容だったと思う。やけに豪華に感じたので調べてみると、なんと原作者サイドからの「ザコを舞台化してほしい」というオファーだったそうで、納得。 ただ残念なのは、常にザコとしての演技のため基本的に「ヒャッハー!」といったテンションで喋らなければならず、公演期間折り返しの段階で既に喉を潰してしまっている役者や、勢いだけで台詞が聞き取りにくい場面が多かった点だ。流行りの2.5次元舞台の客層とはがらりと違い、原作ファンの世代が半分以上を埋める舞台では致命的なのではないか、と心配してしまった。

とはいえ、観劇後にザコを愛しく思える舞台であったことに間違いはない。この舞台と出会ったことで今後、いつかどこかでザコを見た時には「彼らにも彼らなりの人生があるんだ」としばし、考えることだろう。

投稿者:ともる
(観劇日:9月8日(金)19時)

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『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』
日程:2017年9月6日(水)〜10日(日)
会場:シアターGロッソ
脚本:川尻恵太(SUGARBOY)
演出:村井 雄(KPR/開幕ペナントレース)
制作: 加藤友誠(プロデューサー)、川本 成(影のプロデューサー)

<原作>『北斗の拳』 原作:武論尊 漫画:原哲夫
<OPENING LIVE>「愛をとりもどせ」クリスタルキング with A応P
<声の出演>千葉繁
<出演>磯貝龍虎、河合龍之介、寿里、花園直道、林野健志、水希蒼(A応P)、
角田信朗、武田幸三、山本圭壱ほか
料金:リングサイドシート1万9999円、世紀末シート9999円、ザコシート6999円

公演日:

text by ゲスト投稿

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