劇場版「プリンセスファイター」──ミュージカルユニットもえぎ色『Princess Fighter』

深浦佑太さんが同カンパニーのために書いた第1作の再演。初演(2014)を観たとき、ホンとカンパニーの相性が抜群だと思いました。
単にセーラームーン的な、プリキュア的な話かと思ったら、気付けば5人のプリンセスが皆それぞれに困難や問題を抱え克服していく。がそれを大上段に語らずあくまで美少女格闘ミュージカル!というスタンスがとても素敵で、今回の再演を楽しみにしていました。
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いざ観てみると、初演とはだいぶ違う構成の物語。
(それもそのはず。聴くところによると、作者はほぼ9割方を書き直したそうで。)
初演は、(実はそれぞれにメンタルのあるいは身体的な問題を抱えた)5人のプリンセスが並列に配置され、互いにバトルをし、最終的には一致協力して悪を倒すというお約束的な物語でした。

今作では、札幌では希有のヒロイン女優さんである塚本さん(白雪姫)を基軸にその世界観をより掘り下げ、白雪姫の継母・魔女(青木さん)を倒すためのストーリーに構成され、カンパニーの看板役者である国門さん(いばら姫)のアクションを中心に、他のプリンセス(長さん、萌希さん、僕の観た回は恒本さん)達が微妙に強弱のついたポジションに配置されています。

対する敵方に側近の剣士(僕の観た回は岩杉夏さん)あり、白雪姫を助けるメイド(Maichiyさん)あり、そして魔女の背後にはラスボス(森高さん)が控えるという、かなりRPG的要素を濃くした作品になっていました。

これは、初演とどちらが良いかという問題ではありませんが、初演を美少女格闘モノのTVシリーズだとすると、今作は劇場版、といった趣きでした。
ジェットコースター的なエンタメ性や、どんでん返し的なラストの盛り上がりは今作の方が華々しく、演劇シーズン向けな仕上がりになっていましたが、初演時のかなり想起しやすいプリンセス個々の問題(肉親によるスポイルやメンヘラ、性同一性障害、身体的障害など)が薄まって見えていた感じはしました。(それが否というわけではありませんが。)
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子供も含めた幅広いキャストがステージに上がり、子供から大人(からアイドル好きまで笑)まで楽しめる。
全体を観た感想は、これは、萌希さんがずっと目指していた「もえぎ色のミュージカル」のひとつの完成形に近いものなのかも知れません。曲目も、歌の中にセリフのパートがあったり、作品を重ねるごとに凝った作りになってきているなあという印象です。

反面、個人的な物足りなさとしては、歌に役者が感情を乗せ、客席に「言葉(歌詞)以上の情感」を伝えているかどうか。これはかなりハードルの高い話ではありますが、通常のセリフ劇ではなくミュージカルの道を選んだカンパニーですから、今後さらに追求していってほしいところだと思います。
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今作で魔女に抜擢された青木玖璃子さんは、シンガーとしての実力もあり、所属劇団で培った役者力で物語の芯を作り、ある意味、作品の主役でした。
青木さんがあってこそ、5人のプリンセスやラスボスに光が当たったと思います。
森高さんは、軽妙な立ち位置から一転するevilなラスボスを好演。歌唱力もこれまで以上に冴えていました。
(初演時にそのオーラに驚いた国門さんには、今や安定した看板役者さんになったなあという感慨があります。)

ミュージカルユニット もえぎ色として、本作品はマイルストーン的な公演になり、今後さらに期待のハードルは上がると思いますが、今作の成功はやはり初演から積み重ねた脚本と、ここ最近のもえぎ色さんの公演の一連の流れがあったと思います。個人的には、次回作で更にスケールアップした大作をというより、また違った切り口の作品で懐を広げ、その先の(今回のような)改作やバージョンUPに繋げる、というような見せ方を僕的には愉しみにしています。

(生活支援型文化施設コンカリーニョにて千秋楽を観劇)

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ミュージカルユニット もえぎ色『Princess Fighter』
2017.8.5〜12

【脚本】深浦佑太(ディリバレー・ダイバーズ)
【演出・振付・作曲】光燿萌希(COLORE)

【出演】
光燿萌希(もえぎ色)/国門綾花(もえぎ色)/森髙麻由(もえぎ色)/宮永麻衣(もえぎ色)/恒本寛之(もえぎ色)
佐藤亮太(NEXTAGE)/塚本奈緒美/長麻美(エンプロ)/青木玖璃子(yhs)/岩杉夏(ディリバレー・ダイバーズ)
Terra(もえぎ色)/西村海羽(もえぎ色)/唯斗(もえぎ色)/かとうめいこ(もえぎ色)
Maichiy/西村摩利乃/穂井田夕奈/忍遥香(劇団ドラマシアターども)/大平詩織/宮崎安津乃(劇団パーソンズ)/鈴木咲良/左海千優/左海夢依/正木綺羅
※一部ダブルキャスト

text by 九十八坊(orb)

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