彼にとっての偶像や権威が、他の人にとってもそうだとは限らない 信山プロデュース『櫻井さん』

信山プロデュース「櫻井さん」をことにパトスにて。土曜19:00は中央、日曜12:00は奥側の席に座って観た。ある人物にとって、かけがえのないものが、世間や他の人からみるとつまらないものである事があるというのを、櫻井さん像の状態を変えて、同じシーンを繰り返す事で表現していたのが印象に残る。

一人二役以上やっているのは実は櫻井さんだけ。なので最初のシーンで遠藤さん、熊谷さんが出会った時に、初対面であるかのように振舞ってもおかしくないように、対面する場面では遠藤さんの顔がわかりにくい状態で、精神的に相手の顔を気にしてられない状態にしてる。

悪意の無い何となくやっているような権力行使が、行使される側から見るとかなり恐い。側から見ると、ただいじめているようにしか見えないけど、本人たちはそういった自覚は無いだろうというのが伝わってくる。善良で少し甘めの人たちが追い詰めていくという怖さ。

中央で観た時は、出張のとエレキがあったので、櫻井さんが登場時に客席の能登さんエレキさんに向かって腕を突き出していた。真ん真ん中の最前列に座ってしまったので、遠藤さんと櫻井さんが正面から言い合いをしている時に、重なってしまったのが心残り。

同じ場所から観ても芸がないと思い奥側に座って観たら、人物が重なる頻度が増えたorz。まあ中央の客席に背を向けている時の表情を確認できたから、それで充分と言えるんだけど。演ってる側は、横からの視線の有無とかは気になったりするものなんだろうか。

現実を突きつけてくる刑事三人組、編集者、フリーター、弟と皆それぞれの価値観がしっかりありそうで、話を進めるためにそこにいるわけではない感じ。静の櫻井さん、動の遠藤さんの対比も面白かった。この二人あってこその今回の舞台だったのだと感じさせられる好演。

最後まで観ると、遠藤さん主観の櫻井さん像と現実の違いがわかる仕掛け。冒頭シーンも熊谷さんの行動が無理のないものに見えてくる。櫻井さんは、その世界での権威と言っていい前世占いの人や詩人、父親という家庭内の権威を演っていたり、ある人にとっての権威の象徴。

弟の正論は確かに正しいけど、兄の自由さを羨む気持ち、母親の愛情が堅実な自分ではなく夢見がちな兄に向かってる事への苛立ちが根本にあるように見えて、聞いていて何もそこまでという気持ちになってくる。まあ、家庭が実害を受けているから仕方がない部分もあるけど。

信山さんが次に何を仕掛けてくるかわからないけど、信山プロデュースの2作品、そして信山プロデュースではなかったけど札幌上演を実現したサウンズ・オブ・サイレンシーズと観て損のないというより、見逃すと損をした気分になる作品ばかり。次を楽しみに待ちます。

  • 2018/04/21 19:00/04/22 12:00
  • ことにパトス
  • 約1時間20分
公演日:

text by 小針幸弘

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