この夏の主役登場! BLOCH PRESENTS『野村大一人芝居傑作選』

演劇シーズンには主役が現れる。たまに。

名作の再演企画だからどれも傑作ぞろいなのだけど、その中でもひときわ強い輝きを放ち演劇シーズンそのものを自分たちの舞台のようにしてしまう、そんな公演だ。

2015年夏『青森県のせむし男』、2017年冬『狼王ロボ』、2018年夏『アピカのお城』……まだまだあったけど今年も現れた。これだ。

『野村大ひとり芝居傑作選』。ひとり芝居という言葉からは地味、職人肌、マニアック……などなど連想されるかもしれない、だけど。だけど違う。思いこみは打ち砕かれ不安はあっという間に崩れ去る。

野村大がたったひとりで降りたった舞台には、笑いとエンターテイメントと感動がある。つまり最高! ということだ。

劇場はBLOCH。狭いし座りにくいし……という人もいるかもしれない。しかし本作において小屋はここしかない。最高の舞台だ。

言ってしまえば、ひとり芝居をおこなう野村大の最良の相棒はBLOCHだ。狭さが客の一体感を生み出し、ほんと、小屋ごと笑うような、小屋ごと物語世界に移動したような気持ちになる。

そもそも今回の『傑作選』は、野村大がBLOCH主催の「LONELY ACTOR PROJECT」で、2004年から20本以上上演してきたものの集大成だ。この舞台でこの舞台のために公演されてきた演目、BLOCHで観て面白くないわけがない。

同時に「LONELY ACTOR PROJECT」を企画・主催しつづけているBLOCHと運営している方々にも賛辞を。本作の公演主体も「BLOCH PRESENTS」。十数年「LONELY ACTOR PROJECT」をつづけ、良作が生み出される土台となりつづけている。存在意義は大きい。

さて本作はAプログラムとBプログラムのふたつがある。それぞれ違う3本+ゲストの1本。「ゲストの1本」はAプロBプロそれぞれに違う2本がある。

なのでつまり、4パターンあるというしくみ。僕が観たのはAプロで、ゲストの1本は「きみのミカタ」。ざっと紹介すると……

 

「Baby,I love You.」

未来からやって来たある人物がエレベーターの中で奮闘する。なぜやって来たのか、そしてどうなるか。わかりやすいひとり芝居でのっけの1本としては最適。

 

「西園寺」

Aプロの中核をなす大作。冬の札幌を舞台に、探偵・西園寺が悪の組織と対峙する。壮大さ、ユーモア、馬鹿馬鹿しさ、エネルギー、テンション。最後にナゾの感動まで生み出すひとり芝居の到達点。ハリウッドが数億ドルかけ数百人で作りあげていることを野村大はたったひとりで成し遂げる!(スタッフは何人かいるけども……)

 

「きみのミカタ」

ゲストによるひとり芝居。出演は熊谷嶺(Spacenoid Company)、演出はニシオカ・ト・ニール(カミナリフラッシュバックス)。

文化祭の部活対抗パフォーマンス大会に出ることになった科学部のイケてない中二男子。彼にしか見えない友人と対策を練るが……。熊谷嶺の好演、気持ち悪い迫力。影絵で表現されるほかの登場人物たちとの掛け合いが絶妙で、クセになりたくないがクセになりそうな作品。

 

「四十四年後の証明」

かかってきた1本の電話。相手は自分の孫だと名乗る。男は疑いながらもしだいに会話に引きこまれていく。電話ののち彼が得るものは……。

原作は井上夢人の短編小説で、「世にも奇妙な物語」で映像化もされている(「2040年のメリークリスマス」)。さわやかな余韻の残る良質な短編。

 

こう書くと、どれもいい感じのSFで、つまりサイエンスなフィクションであり、すこし不思議な物語でもある。

ほどよい短さで言えば星新一的でもあり、もちろんすこし不思議で言えば藤子・F・不二雄的だ。さらに藤子・F・不二雄のSF短編を読む人にはわかると思うが、ときおり見られるあのぶん投げた物語、みたいな感じもあって楽しい。

公演初日、できの良さとあいまって観客もノリがよく舞台を楽しめた。今後のステージもいまどんどん前売完売になっている。必見の作品。この夏の主役は、野村大。

 

公演場所:BLOCH

公演期間:2019年8月10日~8月10日

初出:札幌演劇シーズン2019夏「ゲキカン!」

 

text by 島崎町

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