2019年最高の一作 弦巻楽団『ワンダー☆ランド』

才気あふれる若手脚本家と、人気・実力を兼ね備えた札幌を代表する演出家の夢のコラボレーションだ。

脚本家の名前は弦巻啓太。演出家の名前も同じ。偶然……なわけなくて、どちらも同じ人物。違っているのは時間。16年という月日がたっている。

弦巻楽団『ワンダー☆ランド』、初演は2003年。彼が当時所属していた「シアターユニット・ヒステリックエンド」の最終公演だ。

16年のときを超え、若くギラギラした自分の脚本を、経験を積み熟練しつつあるいま演出する気持ちはどんなだろう?

脚本家としても、同じ題材・同じ登場人物で描けと言われてもこういう風にはならないんじゃないか。

2003年に書かれたこの脚本にはただならぬエネルギーがある。前へ前へと進んでいく力がある。細部の繊細さよりも突き進んでいくパワー、むき出しの感じがある。

小澤征爾がカラヤンの教えだと言っていた。細かいところは多少合わなくても太い長い一本の線がなにより大切で、それがつまりディレクションなのだと。

ディレクションというのは指揮(演出)だけじゃなく脚本にも言える。そういった意味でこの舞台は(細部にアラがあるという意味ではなく)ひたすらクライマックスと最後のセリフに向けて猛烈に突き進んでいく。腹をすかせた物語が、物語自身を食べながら成長していくように。

結果、2時間10分にも達するこの大作が体感時間で言えば1時間にも満たないような恐るべきスピード感と忘我を生み出す。正直僕は短いとすら感じた。

弦巻演出で(少なくともこの舞台において)もっとも重要とされているのはリズムだろう。どんなセリフでも、どんな物語でもだいじなのはリズムで、なにを言ったかではなくどのように言ったか。それをとことん追究した結果、セリフがリズムを刻み、ストーリーはメロディとなり、舞台は音楽劇的様相を呈する。そうしてこのお化けみたいな一大エンターテイメントができあがった。間違いなく2019年札幌の舞台において最高の1作だろう。

演奏者たる役者たちも応えた。ひとりひとりに言及できないのが残念だが、あえてふれておくべきは、温水元、長流3平、柳田裕美だ。すべての役者がリズムを生みだしていたこの舞台において、キャラというよりもシーンのリズムをよく作れていたと思うからだ。

(ほかにも、成田愛花、池江蘭、木村愛香音、相馬日奈、深浦佑太、遠藤洋平、塚本奈緒美……岩波岳洋、伊能武生、村上義典も最高に笑えたし、井上崇之&鈴山あおい、田村嘉規&塩谷舞のコンビも最高で、佐久間泉真の純真も……ああ、書き切れない。つまりこれは弦巻楽団版アベンジャーズだと思ってもらえばけっこうだ!)

スタッフもよかった。宣伝美術・勝山修平(彗星マジック)の勢いあるフライヤー、高村由紀子の神秘的な舞台美術。スタッフワークがよければ演出もそれに応える。物語後半、演技領域が増えていくという空間演出も巧みだった。

それにしても、である。拉致、核、ミサイル、首相、ジャーナリスト……。16年前の脚本にそれらがすでに記されていたのだ。あえて僕は、このことを予言的だとは言わない。あのころからいまを予感していたのではなく、当時の問題が16年たってもまだつづいているということなんだ。

劇中、商店街の一同がおこなうのは「浦島太郎」だ。竜宮城から帰ってくると数十年(数百年?)のときがたっている。世界は変わってしまった。『ワンダー☆ランド』もまた16年の月日を経て帰ってきた。しかしこちらの方は(僕たちの現実は)驚くべきことになにも変わっていなかった。ゾッとする。

この劇は16年後、ふたたび上演されると思う。これは予言だ。そのとき、いったいなにが変わっているのか。あるいは変わっていないのか。

願わくば、この劇の最後のセリフ、あの精神は消えずに残っていてくれたらと思う。

 

公演場所:コンカリーニョ

公演期間:2019年8月10日~8月17日

初出:札幌演劇シーズン2019夏「ゲキカン!」

text by 島崎町

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