優しさと温かさに包まれて 市立札幌啓北商業高『ラフ・ライフ』

とても嬉しいことに、今年も「高校演劇石狩支部大会の審査員を」と声を掛けていただいた(講評文、書くのが遅くなってすみません!)。大会は10月に終わっているが、振り返ると、新型コロナウイルスの感染拡大で休校になり、例年より稽古時間が取れなかった学校がほとんどだったと思う。それでも作品をつくり、舞台に立った生徒たちはすごいなと素直に思ったし、感染防止対策を徹底しながら大会を運営した顧問の先生たち、札幌市教育文化会館のスタッフのみなさんの熱意・気力・体力には本当に頭が下がる。

さて、その石狩支部から5校が全道大会(函館)にすすんだのだが、これまたコロナのせいで全道大会の「上演」が中止に。各支部の代表17校の作品は「映像審査」になり、11月末に結果が発表された(この感想の末尾に記載)。その発表後、石狩支部の札幌啓北商業『ラフ・ライフ』が優秀賞かつ「春フェス」参加になったことを顧問のさいとぅー(齊藤光明)先生からお知らせいただき、私も大いに喜んだ。先般、審査に提出した映像をいただいたのでその感想を記したい。

まじめで成績も良く、同級生からも慕われている学級委員の薫に手紙が届く。「告白されるんじゃないの?」と冷やかす友人の遥とともに教室で手紙の差出人を待っていると、前に同じクラスだった希が現れる。薫は、希の「薫とコンビを組み、学校祭で漫才をやりたい」というお願いを何とか断ろうとするが、結局、漫才をやることを決意。学校祭に向けて漫才の稽古を続けるが…というのがだいたいのあらすじ。

札幌啓北商業は審査のためにあらためて撮影しており、映像バージョンは少し手直しが入っている。映像で「いいな」と思ったのが、薫と遥、希の3人の関係性がより明確になったことだ。支部大会後、どんな稽古をしたのかわからないが、それぞれの役をさらに掘り下げたり、物語では描かれない背景を思い描いたりしたのかなと想像する。その成果なのだろう、「学祭で漫才」というワードをきっかけに出会い(もう出会ってはいたけれど)、付かず離れずにいた3人が徐々に大きな輪を形作り始めたように感じた。ラスト近く、希の本当の願いは儚くも崩れるが、その輪はブチッとちぎれるのではなく、ふわっと昇華するような温かさがあった。おそらくそれは希への同情ではなく、希のこれからを応援するような薫たちの優しいまなざしがあったからだ。そういった流れが支部大会よりもくっきりと見え、より物語に深みが出たのだと思う。最後の漫才も格段と上手くなっていたし、さいとぅー先生が加えた「博多弁(ですよね?)」の場面も、支部では唐突だと感じた展開を和らげた。

3人の他に、希のいとこの「生徒会長」と、薫を何かと敵視する弥生がいるが、その2人も支部大会よりいいスパイスとして効いていた。当初私は、この物語でのコメディエンヌ的な存在は遥だと思っていたが、実は弥生だったと気付いた(クリップボードを落としてくれてありがとう!)。生徒会長に声を掛けられてくるっと回る姿とか、支部大会よりもとてもかわいらしく見えた。

この脚本は、茨城で「演劇修団たまてばこ」を主宰する新堀浩司さんによる既成だ。新堀さんもTwitterで札幌啓北商業の春フェス行きを知り喜んでいたが、今回の映像を見て、『ラフ・ライフ』は新堀さんの優しさと温かさに包まれた本だと気付いた。目の前のことを諦めない強さも描かれ、人を罵倒するような言葉は出て来ないし、変な顔をして笑いを取ろうとかはしない。薫みたいに「生真面目」な本かもしれないけれど、いつでも誰かが誰かを見つめている。そんな優しさと温かさが今年の札幌啓北商業にぴったりだったのだろう。

2020.12.8 自宅で鑑賞

〈第70回全道高等学校演劇発表大会 結果〉

・最優秀~富良野『「お楽しみは、いつからだ」』

・優秀~大麻『睡蓮』、市立札幌啓北商業『ラフ・ライフ』、帯広北『敗退校』※優秀の表記は上演順

text by マサコさん

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