マサコさん、高校演劇・春フェスを振り返る ③徳島県立城東高校『となりのトライさん!』

私の歴史の知識は残念なくらいひどい。暗記力には自信があるけれど、今も昔も世界史・日本史はほとんどわからない。一度、演劇部顧問の先生(社会)に「どうすれば歴史の諸々を覚えることができるのか」と聞き、「ストーリーとして覚えたらいいよ」とありがたいアドバイスをいただいたものの、無理だった。さて先日、人生初の中間テストを控えた女子が、寝る前に社会の暗記項目を読み上げていた。「歴史を覚えるなんて、大変よのう」と他人事として聞いていた私は、「~、~、渡来人!」という言葉に、「あ、城東のトライさんは〝渡来〟さんでもあったのか」と気づき、目が覚めた。

本作は、高床式倉庫(セットもなかなかの凝りよう。詳細は(徳島・城東高校演劇部@jotoengeki2020)を舞台に、米を管理する「管理人」や人柱の生贄から逃れてきた「生贄」、結婚相手から逃げ出した「放蕩娘」たちが織りなすドラマだ。実は幕間の時間、啓北商業のさいとぅー(齊藤光明)先生と『ラフ・ライフ』希役の木口鈴菜さんと、「(『ラフ・ライフ』作者の)新堀コウジさんはどこだ!」と探していたため、パンフレットの城東のページを見ていなかった。だから、観終わった後にこの作品が「4話形式」だということを知った。それをわかっていたら、また違う見方もできていたのかなと思う。

…などと書くと「面白くなかったと思っている」ととられそうだが、そうではなく、「かなりヤバイわ!この作品!」とずっとワクワクしていた。それは、城東の前の二つが高校を舞台にした作品だったことも影響しているが、ちょっと尖った、かつ、ゆるい大人の舞台を見ている感触があったからだ。放蕩娘のいい具合の適当さとか、いろんなことに巻かれてしまう管理人のダメっぽさとか、一人ひとりの演技がこなれている印象が強かったのもワクワクした理由の一つだ(個人的には、山菜と祭事に使う「葉」を間違えたと気付くくだりが好き)。さらに、目の前で繰り広げられる「ゆるさ」の一方で、水面下では、どうあがいても回避できない事態に向けて突き進んでいる「怖さ」があるなとも感じていた。私にとってその「レイヤー」は、きっとろんどんの井上(悠介)くんがつくる作品を彷彿とさせた。

その「得体の知れない」感じも好きだが、『トライさん』を観て、政治とか人間関係とか、運命とか予言に踊らされる滑稽さとか、あれやこれやが浮かび上がってきたのも「ヤバイ」理由。単なるゆるさだけでは終わらず、観た人に小さな棘を連射して刺していくような挑戦的な作品だったと思う。

この舞台上には、古墳時代の人々とともにパーカを着た「トライ人」の音部くんがいて、場面に合わせて「いい感じの音楽」を流している(つまり音響が舞台上にいて、登場人物にちょいちょい絡まれる。しかも、言葉が通じない設定)。音部くんが流す曲の一つに、この作品を貫く女性ボーカルの曲があるのだが、私は今になってもそれが誰の曲なのかわからない。そこをもう一度確認しようと全国高等学校演劇協議会の「春フェス動画サイト(https://www.openrec.tv/user/zenkoku)」を見たが、なぜか、『トライさん!』だけがない。なぜだー!!と調べると、高校演劇についてツイートされている青谷まもみゃさん(@mmm_aoya)が、城東は「映像では見せないという方針による所かと思う」と書いていた。

よしだあきひろ先生、ぜひ、あの曲が誰の曲なのか教えてください。

2021.3.27 北九州芸術劇場で観劇

text by マサコさん

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