この世ならぬものを観ている きっとろんどん『STAGE』

舞台上に客席がつくられ、客はそこに座る。演者は舞台と“旧客席”を行き来して演技をする。だれもいない真っ赤な座席が物言わずならぶ無言の空間。“現客席”からは圧倒的な奥行き。役者がステージを降りて旧客席で演じはじめると、はるかかなたでだれか話しているような、まるで川の向こうのできごとのような、この世ならぬものを観ているような。

きっとろんどん『STAGE』。生者と死者がまじわる舞台。時空を超えてつむがれる物語。場所は旧北海道四季劇場。かつて華やかだった劇場、いまはもう使われなくなった舞台。この物語の最適の場所だ。

しかし空間が広すぎてセリフの反響がすごい。まるで美術館のホールに響く声のようだ。あえて物語に寄せるなら、不確かな者たちのさまよえる声だと思えば、あながちおかしくないのかもしれないが。

反響したおぼろげな声を聞きつづけていると、だんだん、僕たち観客も幽霊なのかもしれないと思いはじめてしまう。使われなくなった劇場に集まり、舞台の上から役者を見つめ、かわされるやりとりを聞き漏らすとまいとする無言の存在。役者たちの感情の奔流を吸収し、この世をさまよいつづける養分にしているのだ。

広い空間にこだまする登場人物たちの思いと過去。それらは場所、時間、ストーリーを越えて散乱し、とめどなく浮遊しながら、ときに衝突し、ときに共鳴して、真実の一点へと収束していく。しかし、劇が終わっても反響はやまない。耳の奥に最後の言葉が消えずに残る。いまもまだ、劇場にいるかのように。

 

公演場所:特設ライブエールシアター(旧北海道四季劇場)

公演期間:2021年11月12日~11月14日

初出:ジャパンエールプロジェクトin北海道 オフィシャルページ

text by 島崎町

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