母娘の視線から見えるもの 網走南ヶ丘高校 「スパイス・カレー」

【宣伝】1月12日(水)15時より、札幌市中央区のかでる2・7にて、北海道高校演劇Special Dayの1作品として上演されます。500円です。安いのに面白いです。平日の昼間ですが、お時間がある方、観に行きましょう!

【本文】 昨日、札幌北斗の「イチゴスプーン」の感想を書いた。「観に行きましょう!」と書いたけれど、当の本人は仕事が終わらず観に行けなかった(泣いた)。北海道高校演劇Special Dayは、変わっていなければ、道民活動振興センターの主催事業として行われている。諸事情などを妄想して「だから、平日開催なんだろうな」と納得するが、働いている身としては「やはり土日だとうれしいな」と思う。

【本当の本文】 先に全道大会での事情を書くと、部員1人が舞台に上がることができず、顧問の新井先生が代役として演じた。幕が上がる前には、名前は出さなかったけれど新井先生が代役になることがアナウンスされた。そのことに驚いた人もいただろうし、「顧問の先生が演じるってどうなるんだろう」とワクワクした人もいたのではないか。一方で、新井先生が出ることが、作品のプラスになったと受け取る人もいたと思う。でも私は、新井先生の演技が特別面白いとは思わなかった。むしろ、本来のフルメンバーで演じていたら、この作品はどれくらいステキなものになったのか、と思いを巡らせていた。

※以下、物語のネタバレにつながる表現があります。初めて「スパイス・カレー」を観るという方。個人的には、前情報なし観るのがおすすめなので、観劇後に読んでください。

 主人公(娘)の母が生まれ育った、網走の家が舞台。主人公の祖母が亡くなり、初七日の前日、北見から母の妹とその息子、札幌からは主人公と母が集まり、なぜかカレーを作っている。奇をてらわない日常会話の中から、子を思う気持ち、母を思う気持ちが浮かび上がってくる…というのが、物語の全体像。「これといって、普通の舞台じゃないですか」と言われそうだが、全道大会で観た時、開始5分くらいで涙が止まらなくなり、メモを取るどころではなくなった。なぜかというと、淡々と紡がれるセリフから、会話の間から、言葉にしなくても相手を思いやる姿や、進学や就職で地元を離れなければいけなくなる「地方ならでは事情」、そしてそんな誰もが対面する問題などが、静かに次々とあふれ出てきたからである。

 高校生の主人公の心情、かつて「娘」だった母の思い、不在の祖母がレシピで言葉で残したもの。現在の娘(主人公)と、かつての「娘」が、それぞれの母親に向ける視線はとがっている。一方で母親が自分の娘に向ける視線は、柔らかく温かい。そのことをいつ理解できるかで、母に自分の思いを直接伝えられるかどうか分かれる。だけど、主人公の母が客席に背を向けたままで放つ一言は、母自身を救ったようも感じられた。高校生(新井先生もいたけれど)が演じているということをすっかり忘れて、涙が止まらなかった。

 一昨年、伊達で行われた全道大会は、いち観客として観に行ったのだけど、近くに座っていた網走南ヶ丘の女子たちが、観劇中によく笑い、よく泣いて、会場の雰囲気を作っていた。昨年も、半分くらいの観劇で、網走南ヶ丘の女子たちが通路を挟んで横に座っていて、他校の上演にとても良い反応をしていた。そんな姿はとてもあどけないけれど、舞台上では一変する。しかも、12日の上演はフルメンバーが揃う(新井先生は舞台袖でニコニコしていそう)。見逃したら、もったいない。

2022年11月19日、砂川市地域交流センター「ゆう」で観劇

 

text by マサコさん

SNSでもご購読できます。