だんだん子供のように見えてくる怖さ きまぐれポニーテール『ハッピーママ、現る。』

真夏のホラーコメディである。

いや、ホラーなんてだれも言ってない。そもそもそんな話じゃないだろと思われるかもしれないけど、僕はこの舞台を観て、笑いながらゾッとした。

きまぐれポニーテール『ハッピーママ、現る。』はPTAの定例会を舞台にした物語だ。8人の父母とPTA会長、そして男女の教師を合わせた11人が、毎月の定例会を教室で行っていく。

ひとりひとりを見ると“まともな”大人のようだが、PTAの活動を議論する中で、しだいに彼ら彼女らの隠されているものが見えてくる。

人間の皮を一枚むけばコメディかホラーになる。隠している内面が剥き出しになると滑稽だし本当に人の皮をむけばホラーになるし。物理的にむかなくても、この人、本当はこういう人だったんだ、と真の姿があらわになるとゾッとする。

本作は笑い9、怖さ1くらいの配分だと思えばいい。実際観ていて大いに笑った。切れ味のある笑いが繰り出され、要所要所にあっといわせる展開があり観客の度肝を抜く(ネタバレだからあの場面のことが言えないのが悔しい! これ、リピーター割引使って2回目観にいったら、もう冒頭から“あの人”があーなんだよねえって、ずっと笑いが止まらないはず。まあ演劇シーズン史に残る衝撃シーンとだけ言っておこう。気になる人は絶対観にいった方がいい)。

笑いの要素を支えているのは役者だ。この舞台は役者が本当にいい。こういう人いるいる(笑)と、知りもしないのに知ってる人たちのように思えてくる。

やたら仕切りたがる承認欲求強めな人、ことなかれで場を収めるだけの人、自分のコンプレックスを他人に向ける人、自分に都合のいい解釈にこだわる人……

どこにでもいる、だれの心の中にもある、そういう人格を、的確に舞台の上に出現させていた。脚本と役者と演出(&スタッフ)の力だろう。

教室というワンシチュエーションで繰り広げられる大人の悲喜こもごもなのだけど、大の大人があんなことで揉め、そんなことを言い、こんなことになってしまうなんて。

それにしても不思議なもので、大人たちがだんだん、子供のように見えてくるのだ。教室で、子供たちの机と椅子に座り、わーわー言い合ってる大人たち。背丈は大きいけれど、中身はけっきょく子供のまま。

もしかしたら大人とは、成長しない中身を隠すことがうまくなった子供なのかもしれない。それが、教室に入れられ、小さな机と椅子をあてがわれ、PTA定例会という授業がはじまると、真の姿が現れる。背丈だけ大きくなった、自分は大人だと思い込んでる子供たち。笑えると同時にゾッとする。真夏のホラーコメディだ。

初日初回に観にいってちょっと驚いた。あれ? 席に余裕あるなと。灼熱の昼間に観にいく人が少ないのか、それともこの舞台のよさが伝わっていないのか。正直いまこのレベルの舞台を札幌で観られるのはうれしいことだと思った方がいい。

小劇場らしい客席と舞台の心の距離が近い舞台だ。役者がよく、笑いがあって好感が持てて、しかも人間ってものの内面も描いている。

話題作で大いに期待して観にいくというよりも、ふらっと何気なく劇場に入って意外な掘り出し物に出会ったような喜びのある作品なので、ぜひ劇場に足を運んでほしい。

 

公演場所:BLOCH

公演期間:2023年7月29日~8月5日

初出:札幌演劇シーズン2023夏「ゲキカン!」

text by 島崎町

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