笑いの要素は満載だったが yhs『オーベルジュ・ド・ダブルブッキング』

 yhsの公演44本のうち数本しか観ていないが、yhs結成25周年記念公演ということであれば観に行かないわけにはいかない。何より、櫻井保一、小林エレキ、深浦佑太、能登英輔という、私にとってはなじみのある役者さんが出演しているということが観劇のきっかけのひとつであることは間違いない。

 舞台は、北海道の山奥にあるオーベルジュ(宿泊設備を備えたレストラン)。
 ここに25年前に利用した夫婦が、25年前に予約していた銀婚式のお祝いのためやってくる。一方で、25年前とは違って、オーベルジュの経営はうまくいっていない。そこでオーベルジュのスタッフが始めた裏稼業が殺し屋。裏稼業のかたわら、何とかまっとうなオーベルジュにしたいと奮闘するスタッフたち。
 予約していた夫婦の相手をしていたのは良かったが、そこに、もう一組の予約客が現れたところから話は展開する。
 かたや銀婚式の食事を楽しむ夫婦。その脇で展開されるもう一組の予約客との裏稼業のやりとり。これがお芝居の両輪となって進んで行く。

 ゆっくりと平和な時間が進むような場面もあれば、笑いを取る場面もあり、はたまた殺陣にも似た激しい場面もあり、観ていて飽きのこないお芝居だった。言葉の面白さもさることながら、場面場面で繰り広げられる動作の面白さが際立っていたように思う。
 そして何より、小林エレキさんの存在感のある演技は秀逸だった。セリフもキレッキレ。真面目にやっているのに、観ているこちらが思わず笑ってしまった場面が多かった。とくに、突然、ヘルニア発症で動きを止めた場面は大笑いだった。
 先にも触れたが、なじみのある役者さんが数名出演していたので、どうしてもそちらに目が向いてしまうのは仕方がない。能登英輔さんは、ほぼひと月前に『黄昏ジャイグルデイバ』(札幌ハムプロジェクト)に出演していただけに、わずかひと月で、脳天気な夫に変身していたことに驚いた。また、櫻井保一さんの長髪姿に、最初は『え?これが櫻井さん?』と面食らったが、2代目オーナーとしての優柔不断さを見事に表現していたように思う。そして弦巻楽団ではおなじみの深浦佑太さん。今回はもう一組の予約客の一人として出演していた。カップルとして出演していた車椅子の女性(長麻美さん)のセリフを聞いているときに、深浦さんの口元に笑みがこぼれていたが、あれは演技だったのだろうか、それとも「素」だったのだろうか。

 25周年記念公演ということなのか、登場人物も多く、しかも公演回によってAとBに分かれて出演者が異なっていた。全公演出演は、櫻井・小林・小島彩歌・長・深浦の5名。私が観た回はBプレイヤーで、能登・岩渕カヲリ・最上怜香・増田駿亮・国門紋朱・氏次啓。ここにワンデーゲストとして野村大が加わった。
 話が殺し屋を巡る話に移っていく中で、ウェイター役の増田駿亮さんの演技はウェイター然としたきっちりした態度を外さずに、筋の通ったセリフと態度で、それがまた、笑いを誘うお芝居だったように思う。うまかった。

 先にも書いたように、yhsのお芝居はあまり観たことがないが、毎回、舞台装置がしっかり作られていたという印象がある。その点で、今回のお芝居も舞台の作り方はしっかりしていた。舞台にお金をかければいいというわけではないが、お金をかけた舞台はお芝居に臨場感をもたらすことは事実である。

 ただひとつ、無いものねだり。
 二組のお客さんはそれぞれ違った背景を持ってオーベルジュにやってきた。生き方の背景が違うので、二組には接点もなくまったく無関係な存在として描かれる。最後には、自らの銀婚式をお祝いしていた夫は、今のオーベルジュで何が起こっているのかを悟るが、それでも、夫婦とも終始脳天気な態度のままであった。
 一組の夫婦を巡るループがあり、もう一組のカップルを巡るループがあるとすれば、同じ場で同じ時間を共有しているという点ではふたつのループは重なっている。しかし話の筋としては二組は重なり合っていない。ワインをしこたま飲んで酩酊状態の夫婦が「実は…」と、もう一組のカップルとのドッキリするような関係を明かすような筋書きがあっても面白かったのではないだろうか。

 前説で南参さんが「本当は25周年は昨年だった」と紹介していた。昨年はコロナ禍だったので記念公演を延期したという。振り返ってみれば、コロナ禍に25周年記念公演を打っても集客に不安があっただろうから、今年に延期したのは正しい判断だと思う。その証拠に、19日の14時の回は満席だった。しかも印象としてはシニア層が多かったように思う。
 そしてもうひとつ。南参さんは「1時間45分ぐらいのお芝居ですが、もしかするとプラスマイナス10分ぐらいの幅があります」と笑わせていた。たしかに予定より10分ほど早く終演となった。余計な動きやセリフもなくテンポ良く進んでいたので、10分早く終わっても問題ないが、南参さんの前説から、『もしかして誰かセリフを飛ばしたのか』と思わないでもなかった。
 yhsの皆さん、25周年おめでとうございました。

yhs『オーベルジュ・ド・ダブルブッキング』(脚本:遠藤雷太 演出:南参)
上演時間:1時間35分
2023年8月19日14時
コンカリーニョにて

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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