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舞台全体にただよう雰囲気の良さ 弦巻楽団『君は素敵』

たいして観てもいないくせに思いきって言うけど、いま札幌の演劇で面白いストーリーをいちばん書けるのは弦巻啓太だ。

妙な言い回しになってしまったけど、つまりホームラン王ではなく首位打者……打率がいちばん高いということだ(今月、道外の劇団が弦巻脚本で公演を打った。彼の脚本にはそういう需要がもうある)。

演劇シーズンではストーリーの面白い舞台がたくさんあった。『フリッピング』『12人の怒れる男』『亀、もしくは・・・。』『しんじゃうおへや』『OKHOTSK』『狼王ロボ』……

あげていけばキリがないけど、なかでも弦巻作品は(既成、オリジナルをふくめ)『ブレーメンの自由』『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』、そして今期の『君は素敵』とどれもストーリーの力が強かった。

軽快なコメディ感、軽やかなセリフ、舞台全体にただよう雰囲気の良さ、キャラへの好感度など、弦巻脚本が好まれる要素は多々あるのだろうけど(もちろんダークなものもあるけど)、演劇シーズンで観た2つのオリジナル作品(『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』『君は素敵』)から感じたのは、絞りこみのうまさだ。

伝えたいものをよりよく伝えるために努力して、とっ散らかさずに、キャラやストーリーをラストへ導いていく。その様はストイックと言ってもいいくらいだ。

たとえば本作は、結婚詐欺師の4姉妹の話なのに、実際に男を誘惑するシーンがない。舞台は姉妹の家(応接間)のみで、観客が観るのは結婚詐欺の事前と事後のありさまだけ。この作品はあえてそこを省(はぶ)き、計画とその結果のみを見せる。

ふつうであれば男を誘惑する結婚詐欺シーンは面白そうだし、描きたくなる。しかし目先の面白さに飛びついて、そこを描いたとたんテーマがぶれるしストーリーがとっ散らかってしまう。この作品は結婚詐欺について伝えたい作品でなく、偽りの恋を計画し、演じているだろう女性たちの、本当の恋についての話なのだ(あるいはその女性たちに反射して映る、男側の恋の物語でもある)。

あえて欲を言えば、高嶋晴の初登場シーンはそのあと別のエピソードで分断されてしまうのでもう少しつづけた方がいいのではないかと思ったし、男が1シーンのみ登場するけど、出すならそれのみに終わらずにもう一度ストーリーにからんだ方が素材を使い切った感が出ると思った(男をそもそも出さないという選択肢も?)。

ラストは爽快感があって楽しいので、それをさらに増すためには4姉妹が財政的に逼迫(ひっぱく)してる感か家を手放したくない感なりを随所に入れた方がいいのではと今後の再演を期待して思った。

ともあれ、アバンタイトルが終わると大瀧詠一「君は天然色」が流れる。爽快だ。いっけんポップで軽やかだけど、膨大な知識とたしかな理論によって作られた玄人好みの作品だ。なるほど、この劇とずいぶん似てる。

 

※最後に

カーテンコール後、本作や他の弦巻脚本の販売が告知されていた。僕はもっと、お客さんと脚本が近しい関係にあってほしいと思う。

昔、まだビデオやDVDなどがなかった時代、映画ファンは雑誌に載ってる脚本を読んで、楽しかったシーンや胸に響いたセリフを何度も味わっていた。

時代が変わり、いま演劇では過去の公演を映像として販売するところもある。それの意味もわかるけど、伝わる面白さは実際に観たものの何十分の一かもしれない。しかし脚本は、お客の中にある楽しかった思い出をもう一度再生させてくれるはずだ。

それだけじゃない。脚本に書かれてある生のセリフを1つ1つ読んでいくことで、脚本家の意図がより鮮明にわかるだろうし、あるいはなにげなく聞いてたセリフがあらためて脚本を読むことでこんなにも強く訴えかけてくると気づかされることもあるはずだ。

舞台を観て楽しみ、終演後に脚本を買って帰宅後もう一度味わう。あるいは一度と言わず何度もかみしめる。そういう風に演劇とかかわることで、きっともっとお芝居は楽しくなるはずだ(それに、劇団にお金も落ちるしね)。

 

公演場所:シアターZOO

公演期間:2017年2月18日~2月25日

初出:札幌演劇シーズン2017冬「ゲキカン!」

いつ、誰が観ても楽しめる 弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』

あ、掘り当てたな、という作品がある。

穴を掘ってダイヤモンドの原石を手に入れたような、石油がドバドバ出る油田を見つけたみたいな、そんな作品のことだ。

「面白い作品」と「掘り当てた作品」は違っていて、「面白い作品」は全体や細部のあれこれを「面白い」と言ったりするけれど、「掘り当てた作品」というのは、物語の設定(シチュエーション)がすでにヤバい。

「一度も恋をしたことのない初老のシェイクスピア教授が、ラジオで天気予報を伝えるDJの声に恋をする」

弦巻啓太作『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』の設定だ。うん、掘り当ててるよね。この設定で、つまらなくなるわけがない。

かつてマンガ家の島本和彦は、アイデアがどのように生み出されるかを短編マンガに描いた。それは、山のように巨大な「マンガの壺」があって、中では熱湯が煮えたぎり、マンガ家はその中に手を入れて作品のアイデアをつかみ取る、という内容だった。作品内ではこう語られている……

「だが誰でも気軽に手を入れて名作をつかみだせるわけではない! その持てるパワーと熟練度―― どのような人生を今まで生きてきたか―― 知識や情熱や意欲―― 一瞬にしてフルイにかけられるのだ」

壺の頂上に立ったマンガ家は、熱湯の中に手を入れていき、石ノ森章太郎は『仮面ライダー』を、ちばてつやと梶原一騎は『あしたのジョー』、あだち充は『タッチ』『みゆき』『ナイン』をつかみ取る。

きっと弦巻啓太も、10年前、演劇の壺の中から『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』をつかみ取ったんだろう。

初演以来、10年ぶりにこの作品を観たのだけど、良い部分がバージョンアップされて、輝きがさらに増していた。特に、エレガントな軽さ、のようなものが際立っていて、観終わったあと、すごくいい気分で劇場をあとにした。いつ、誰が観ても楽しめる、上質なラブコメディー作品だった。

役者について。恋を知らない初老の教授を演じる松本直人は、やはりハマり役だ。シェイクスピアのセリフを借りつつも、けっこうひどいことを言うこのキャラクターを、憎めない、愛すべきものにしているのは、役者本人が持つキュートさなのかもしれない。

また、出演シーンほぼすべてで笑いを取っていた小林なるみもさすがで、この作品が「面白いコメディ」から「すごく面白いコメディ」になったのは、彼女の力によるものが大きかった。

これからも、長く演じ続けられる作品だと思うので、また次に、バージョンアップされたものを観られるのを楽しみにしつつ。

 

公演場所:コンカリーニョ

公演期間:2016年1月23日~1月30日

初出:演劇シーズン2016冬「ゲキカン!」

笑いの要素は満載だったが yhs『オーベルジュ・ド・ダブルブッキング』

 yhsの公演44本のうち数本しか観ていないが、yhs結成25周年記念公演ということであれば観に行かないわけにはいかない。何より、櫻井保一、小林エレキ、深浦佑太、能登英輔という、私にとってはなじみのある役者さんが出演しているということが観劇のきっかけのひとつであることは間違いない。

 舞台は、北海道の山奥にあるオーベルジュ(宿泊設備を備えたレストラン)。
 ここに25年前に利用した夫婦が、25年前に予約していた銀婚式のお祝いのためやってくる。一方で、25年前とは違って、オーベルジュの経営はうまくいっていない。そこでオーベルジュのスタッフが始めた裏稼業が殺し屋。裏稼業のかたわら、何とかまっとうなオーベルジュにしたいと奮闘するスタッフたち。
 予約していた夫婦の相手をしていたのは良かったが、そこに、もう一組の予約客が現れたところから話は展開する。
 かたや銀婚式の食事を楽しむ夫婦。その脇で展開されるもう一組の予約客との裏稼業のやりとり。これがお芝居の両輪となって進んで行く。

 ゆっくりと平和な時間が進むような場面もあれば、笑いを取る場面もあり、はたまた殺陣にも似た激しい場面もあり、観ていて飽きのこないお芝居だった。言葉の面白さもさることながら、場面場面で繰り広げられる動作の面白さが際立っていたように思う。
 そして何より、小林エレキさんの存在感のある演技は秀逸だった。セリフもキレッキレ。真面目にやっているのに、観ているこちらが思わず笑ってしまった場面が多かった。とくに、突然、ヘルニア発症で動きを止めた場面は大笑いだった。
 先にも触れたが、なじみのある役者さんが数名出演していたので、どうしてもそちらに目が向いてしまうのは仕方がない。能登英輔さんは、ほぼひと月前に『黄昏ジャイグルデイバ』(札幌ハムプロジェクト)に出演していただけに、わずかひと月で、脳天気な夫に変身していたことに驚いた。また、櫻井保一さんの長髪姿に、最初は『え?これが櫻井さん?』と面食らったが、2代目オーナーとしての優柔不断さを見事に表現していたように思う。そして弦巻楽団ではおなじみの深浦佑太さん。今回はもう一組の予約客の一人として出演していた。カップルとして出演していた車椅子の女性(長麻美さん)のセリフを聞いているときに、深浦さんの口元に笑みがこぼれていたが、あれは演技だったのだろうか、それとも「素」だったのだろうか。

 25周年記念公演ということなのか、登場人物も多く、しかも公演回によってAとBに分かれて出演者が異なっていた。全公演出演は、櫻井・小林・小島彩歌・長・深浦の5名。私が観た回はBプレイヤーで、能登・岩渕カヲリ・最上怜香・増田駿亮・国門紋朱・氏次啓。ここにワンデーゲストとして野村大が加わった。
 話が殺し屋を巡る話に移っていく中で、ウェイター役の増田駿亮さんの演技はウェイター然としたきっちりした態度を外さずに、筋の通ったセリフと態度で、それがまた、笑いを誘うお芝居だったように思う。うまかった。

 先にも書いたように、yhsのお芝居はあまり観たことがないが、毎回、舞台装置がしっかり作られていたという印象がある。その点で、今回のお芝居も舞台の作り方はしっかりしていた。舞台にお金をかければいいというわけではないが、お金をかけた舞台はお芝居に臨場感をもたらすことは事実である。

 ただひとつ、無いものねだり。
 二組のお客さんはそれぞれ違った背景を持ってオーベルジュにやってきた。生き方の背景が違うので、二組には接点もなくまったく無関係な存在として描かれる。最後には、自らの銀婚式をお祝いしていた夫は、今のオーベルジュで何が起こっているのかを悟るが、それでも、夫婦とも終始脳天気な態度のままであった。
 一組の夫婦を巡るループがあり、もう一組のカップルを巡るループがあるとすれば、同じ場で同じ時間を共有しているという点ではふたつのループは重なっている。しかし話の筋としては二組は重なり合っていない。ワインをしこたま飲んで酩酊状態の夫婦が「実は…」と、もう一組のカップルとのドッキリするような関係を明かすような筋書きがあっても面白かったのではないだろうか。

 前説で南参さんが「本当は25周年は昨年だった」と紹介していた。昨年はコロナ禍だったので記念公演を延期したという。振り返ってみれば、コロナ禍に25周年記念公演を打っても集客に不安があっただろうから、今年に延期したのは正しい判断だと思う。その証拠に、19日の14時の回は満席だった。しかも印象としてはシニア層が多かったように思う。
 そしてもうひとつ。南参さんは「1時間45分ぐらいのお芝居ですが、もしかするとプラスマイナス10分ぐらいの幅があります」と笑わせていた。たしかに予定より10分ほど早く終演となった。余計な動きやセリフもなくテンポ良く進んでいたので、10分早く終わっても問題ないが、南参さんの前説から、『もしかして誰かセリフを飛ばしたのか』と思わないでもなかった。
 yhsの皆さん、25周年おめでとうございました。

yhs『オーベルジュ・ド・ダブルブッキング』(脚本:遠藤雷太 演出:南参)
上演時間:1時間35分
2023年8月19日14時
コンカリーニョにて

ここから伸びていく期待感。――座・れら『アンネの日記』

座・れらさんの『アンネの日記』については、本作の過去や『私〜ミープ・ヒースの物語』も拝見していますが、それらの公演を経て、また、ミープ役でもある小沼さんが今回は演出に加わるということもあって興味を持って客席につきました。

本作は戯曲ですので、アンネの『日記』だけではなくプロローグ・エピローグがあるのですが、初演時は今回とは異なるものであったと記憶しています。(「戯曲・アンネの日記」は未読なので本来はどのような形なのかは知らないのですが)今回は「唯一の生き残り」であるアンネの父、オットー・フランクと、支援者であったミープの再会から舞台はスタート。エピローグは○○○○○○○○○○○○というものでした。(※公演中につき伏せておきます)

『アンネの日記』自体、今の若い方々は意外と馴染みのないものかもしれません。その意味では、今回のエピローグはわかりやすく、落とし所にも納得。
しかしながら、プロローグやエピローグやどのような形をとったとしても、(個人的な意見ですが)この「物語」はあの隠れ家のドアが乱暴に破られた瞬間に全てが終わる、と僕は受け取っています。こんな時勢ですが、『アンネの日記』は大上段に戦争を糾弾するものではなく、隠れ家の人々の人間模様とアンネの青春と、そしてそれが一瞬にして失われたことを、受け手一人ひとりが考えることに意味があると思うからです。
…すみません前置きが長くなりましたが(笑)。そんなわけで肝心の本編(隠れ家生活)でどこまで「魅せて」くれるか。それによってあの「最後の瞬間」をどこまで鮮烈に焼きつけるか、という事に興味がありました。

✳︎    ✳︎    ✳︎

本作はその性質上、登場人物の出ハケが少なく、(序盤こそはアンネがかき回してくれますが)場の空気感の変化を作るのがなかなか難しい作品だと感じます。しかしよく鍛えられたキャストは全員がはまり役という感じ。個人的には、これが完成形というには「最後の瞬間」にはまだ物足りなさもありましたが、それは初日ゆえの多少のぎこちなさだったかもしれません。長い共同生活(公演)の間に更に良いものになっていくのだろうという期待感が大きかったです。

初日で特筆したいのはオットー・フランク役の齋藤雅彰さん。隠れ家生活を引っ張り、アンネの敬愛する思慮深い父親を好演。なんか最近の雅彰さんには何となく頼りない役イメージが僕の中で定着しつつあったのですが(笑)、今更失礼ながら僕的には雅彰さんのベストアクトの一つかと。(そういえば実在のオットー・フランクにも風貌が似ているような気もします)。またこうした海外作品には欠かせないと僕が思っている町田さん(ファンダーン氏)との対比が更にオットーを際立たせます。

そしてアンネ役の鈴山あおいさん。あの時代独特の物言いや仕草など、制約の多い芝居を、台詞からしっかりと感情表現を組み立てて客席を巻き込んでくれます。さすが弦巻楽団で鍛えられているなあと頼もしく見ていました。

2022/7/30(土) 11:00 札幌市こどもの劇場やまびこ座にてプレビュー公演を観劇
――
札幌演劇シーズン2022夏 座・れら第18回公演『アンネの日記』(2022/7/30〜8/7)
作:ハケット夫妻(菅原卓翻訳)
演出:小沼なつき・鈴木喜三夫
プロデュース・舞台監督:戸塚直人
【キャスト】
オットー・フランク(齋藤雅彰)
エーディト(西村知津子)
マルゴー(谷川夢乃)
アンネ(鈴山あおい)
ファンダーン氏(町田誠也)
ファンダーン夫人(原子千穂子)
ペーター(佐藤みきと)
歯科医デュッセルさん(前田透)
クラーレルさん(つくね)
ミープ(小沼なつき)

【企画】札幌観劇人の語り場 2020年度「記憶に残った作品」

新型コロナウイルスの流行により、
舞台作品の上演・鑑賞環境が大きく変化した2020年度。
メンバー&ゲスト投稿者に1年を振り返ってもらい、
記憶に残った1〜3作品について、または鑑賞環境の変化を踏まえた「ひとこと」を語ってもらいました。

 

うめの選んだ3作品

1. 弦巻楽団×北海道大学CoSTEP コラボレーション企画 『インヴィジブル・タッチ』 2020年11月 サンピアザ劇場

世界がコロナ一色になってしまったことに、ほとほと嫌気がさしていたので、正直もうお腹いっぱいです…という気持ちで観ていた。でも、その渦中にいるからこそ見るべき佳作だったとも思う。今はもう色々麻痺してしまって、今日の感染者数を見ても何の感慨もない日々だけど、2020年の夏に感じていた先が見えない不安とか、周囲の人に対して疑心暗鬼になってしまう気持ちとかが凝縮されたこの作品を、いつか〈過去〉の事として観られる日が早く来るといいなと思う。

2. 野田秀樹×シルヴィウ・プルカレーテ 『真夏の夜の夢』 2020年11月 教育文化会館

こんな状況で何故、わざわざ劇場に行くのか?と聞かれたら、こういう演劇を観たいからだ!と声を大にして言いたい。この熱量は画面越しでは伝わらない。コロナに疲弊した心を癒してくれた、まさに夢の時間だった。舞台のキラキラしさも然る事ながら、数多いる役者の中でも秀逸だったのが鈴木杏の軽やかで可愛らしい演技。この作品が評価されての読売演劇大賞授賞も納得の役どころ。そぼろちゃんっていう名前もいいよね。

3. hitaruオペラプロジェクト プレ公演 『蝶々夫人』 2021年2月 hitaru

作品の背景等を解説してくれるプレ企画にも参加して、準備万端で臨んだ人生二度目のオペラ鑑賞。北海道でオペラを観られる幸せよ。演出が素晴らしく、客席に向かって傾斜した舞台に着飾った人々が並ぶ結婚式の場面は、まるで絵巻物の様で眼福。プレ公演?と思ったら、hitaruからオペラを創造・発信するプロジェクトが来年から本格始動するらしく、今後が楽しみになる上質な舞台だった。あれからたまに「ある晴れた日に」を口ずさんじゃうんだよなぁ。オペラ、ハマるかも。

 

S・Tの選んだ3作品

1. カムイプロジェクト『Suy unukar an ro』 2020年12月 コンカリーニョ

囲炉裏の前で、紀州の商人がアイヌの女性と会話する(言葉は通じない)場面があるのですが、商人が話し出した瞬間「あぁ、この人は家族を亡くしたんだな」と分かるんです。役者さんが悲しげな表情や声を出したわけでもないのに。言葉にならない思いを上手く表現したな、その内なる悲しみは言葉が通じなくても伝わるな、と思いました。その場面に行くまでの構成等がしっかりしていないとそうはならないので、脚本を書いた髙橋正子さんは着実に力をつけていると思いました。
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2. Belle mémoire『heavy chain』 2021年2月 BLOCH

『PROJECT WALTZ VOL.2~栄光の3人芝居フェス』で上演された。言葉の負の部分に焦点を当て「人間が創造したもので最も卑劣なものは言葉である」との考えを黒子の身体で表現した?作品。卑劣という意味が「することが正々堂々としておらず、いやらしくきたならしいこと」であるならば、自分の本心を隠し、ねっとりと相手に纏わりついて「卑劣」にピッタリの身体表現だったと思う。ボクが観たのは平野琴音さんが黒子を演じたチームでした。

3. プロト・パスプア『1984年1001月』 2021年3月 カタリナスタジオ
 
正直に言うと、この作品を観る前に2万円ほど資料集めにお金を使いました。その分考えることがありましたので、「記憶に残っている理由」として補足させていただきます。
記憶に残っている理由→感想への補足
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オーウェルの思いと脚色について

 

カジタシノブの「ひとこと」

上演側としては「公演することがリスク」という状況に。キャパシティの問題、集客のための障壁の高さ、対策経費の増加、稽古時からの感染症対策、公演時の対策・周知、公演後の経過観察。1年が経ち大分システム化されてきたとはいえ、まだまだ予断を許さない状況です。
観劇側としては、人と会う機会が減らない身では、万が一、に備え人が多く集まる場所は顔を出しづらい状況に。それは対策を怠っていると疑ってるわけではなく、可能性を極力減らさなければいけないため。結構な人数がそう言う状況にあるのではないでしょうか。

 

九十八坊(orb)の選んだ3作品

1. 二度寝で死にたいズ『山田さんちの家族計画』 2020年11月 BLOCH

このささやかなホームドラマをいつまでも観ていたい、そう思わせてくれた作品。若手ユニットの公演を拝見する機会も久しぶりでした。特に長男、そして次男のアプローチが秀逸で、自身の家族の機微を思い出しました(あれ、僕に男兄弟はいないんだったっけ 笑)。目新しさやドラマティックさがあるわけではないんですが、あて書きなのかな、丁寧な作り込みがとても心に残りました。

2. OrgofA『異邦人の庭』 2020年11月 BLOCH

TGR2020で大賞を受賞し、すでに多くの賞賛が寄せられている公演ですがあえて。一卓二椅の真骨頂とでもいえる刈馬さんの脚本、飛世さんと逸人さんの息づかい、ケレン味のない町田さん「らしい」演出。本格的な未見の小劇場作品に出会う機会が少なくなってしまったこともあり、より一層、全神経を集中して拝見しました。

3. All Sapporo Professional Actors Selection『北緯43°のリア』 22021年2月 クリエイティブスタジオ

いわゆる「大掛かりな舞台」も久々で、幕開けからワクワクして拝見しました。もっと「北緯43°」に寄せてくるのかと想像していましたが、短縮版ながら割と本格的なリア王。TGRでも光っていた戸澤さん、安定の納谷さん、藤尾さんの新鮮さなど、見どころや発見も多く、ちょいとやりすぎの歩さんも通常営業(笑)で、自分はこんなにも観劇機会を欲していたのかと再確認した作品。

 

島崎町の選んだ3作品

1.yhs『ヘリクツイレブン』 2020年8月 コンカリーニョ

2020年8月1日のゲネを観た。そのときの雰囲気は忘れがたい。コロナで数ヶ月間、日本中の舞台がストップしたのち、札幌演劇シーズンはなんとか開催となった。感染対策のためにいくつもの手順を踏むんで会場に入ると、そこには舞台があった。演劇が、まだ生き残っていることを知ってホッとした。代表の南参に「どう?」と聞いたら「大変だ」と言っていた。そうだろう。劇団および関係者の勇気と努力に敬意を表し。

2.札幌座『フレップの花、咲く頃に』 2020年8月  かでる2・7

観劇後、なにげなくTwitterで「アイヌ」という言葉を検索してみた。差別発言が出るわ出るわ。これまでもつねに差別の対象だったアイヌは、ネトウヨという新たな勢力の標的になっていた。劇中で描かれていた差別は70年以上たっても消えていない。ネットを媒介にいまも繁殖をつづけている。嫌なことだが、劇と現実が地続きなんだと実感した。その意味でもこの舞台を評価して。

3.劇団コヨーテ『優しい乱暴』 2021年2月 コンカリーニョ

なかなか難解な舞台で評価に困っていたところ、お芝居パートのあとにライブパートがあった。この劇の元となった曲があって、それを歌っている矢野絢子のミニライブだ。2月の札幌、換気のために外気を深々と吸いこんだ劇場、張り詰めた透明な寒さのなかで聴くライブはすばらしく、難解だった舞台が僕のなかに溶けていった。得がたい経験で忘れられない夜だった。その記憶をいまも宿しつつ。

 

しのぴーの「ひとこと」

北海道での新型コロナウイルス感染症の患者第一例は昨年1月28日。くしくも中国武漢市から東京経由で北海道観光に来た中国人女性だった。それから1年と2か月以上が経った。この間、一本の芝居も観ていない。そして、今も舞台表現に関わる全ての人たちが不自由を強いられている。私はといえば、テレワークとはいえ、少なくとも日々仕事があり、収入に不安を感じることはなかった。ただ、生存本能が「極めて危険」と叫んでいるだけだ。あれほど好きだった小屋に入ることに恐怖を感じる小心者だったのは意外だったが。演劇という表現がこの災禍で変わるとは思えない。舞台と観客の間に立ち現れる「劇的空間」はいまだ喘いでいるとしても、台詞の力や俳優の身体性は滅ぶものではないはずだ。乗り越えよう、共に。

 

中脇まりやの選んだ1作品


1.シアターコクーン『プレイタイム』 2020年7月 オンデマンド配信

2020年、人口2500人程度の小さな町に住んでいたわたしにとって、コロナ禍での「オンライン演劇」は喜ばしい試みだった。でも、難しさを感じたのはオンラインでの演劇は、ドラマや映画のような映像作品とは似て非なるものであるというところ。舞台で上演される演劇を、ただ生配信するだけでいいのか。はたまた、ZOOMのように演者も「ステイホーム」しながら展開していくのか。
そんな中、見てよかったと感じた作品が『プレイタイム』だった。
見終わったときに、いいもの見たな、とか、この気持ちはなんだろうとか、今どこにいるんだろうとか、心が浮遊する感じ、こういうものにお金を払いたい、と家にいながらにして思えたのが嬉しかった。
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曖昧になる境界線

 

マサコさんの「ひとこと」

2020年度はコロナウイルスの感染拡大のため、観劇予定の公演がなくなったり、そもそも公演自体が少なかったり…という理由でほぼ観ていない。いくつか「オンライン演劇」とか「配信」ものを観たけれど、「もう一回観たい」と強く思う作品はなかった。そんな中で、10月の石狩支部大会、Twitterでつぶやいていた3月の春フェス(まだ感想を書いていない)などを観て、「高校演劇って面白い」とあらためて実感した(「観る機会があれば、ぜひ観てほしい」ということです)。
そういえばこの前、某市で来年の完成に向けて建設中の芸術劇場を見た。開館までに行われるイベントのチラシをもらったけれど、地方の芸術劇場ってどうして「地産地消」をしたがるのだろう(特に演劇関連)。ムラみたいな環境を変えるには、外から何か・誰かを持ってくるのが効果的だと思うのだけどなぁ。

 

瞑想子の「ひとこと」

記憶に残る3作品は、チェルフィッチュの映像演劇、NTLive『戦火の馬』、hitaruオペラプロジェクト プレ公演 『蝶々夫人』。映像演劇と『戦火の馬』については下記投稿を参照いただきたい。『蝶々夫人』は音楽の迫力とバランス、オペラらしい格とゴージャス感、芯の通った演出、演技・所作、いずれも素晴らしく北海道でこれだけの舞台が作れるのか! という嬉しい驚き。
かつて、演劇は映像で観るものではないと思っていた。けれど技術の進化によって、演劇の映像は単なる記録ではなく劇場の魔術をかなり再現できる装置となっている。映像ならではの良さや映像のほうが楽しめる演劇作品もあるとわかった。ピンチはチャンス。2020年は受難下の試みで「演劇」自体の可能性は拡張されたのでは。
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演出家による支配からの解放、つまり革命①
演出家による支配からの解放、つまり革命②
演劇を映像で観るということ①
演劇を映像で観るということ②

 

やすみんの「ひとこと」

コロナ禍、イギリス各劇場の舞台映像が、私のせめてもの慰めである。特に印象に残った作品は、ジリジリするような息苦しさが伝わるYoung Vicの『熱いトタン屋根の猫』、お馴染みのギリシャ悲劇を現代風にアレンジしたナショナルシアターの『アンティゴネ』、ロイヤルシェークスピア劇団、2014年のいかにもクラシカルな舞台を奥行きを活かして手際よく見せた『リチャード2世』。色々面白い作品を見逃しているな。映像ってありがたい。

 

わたなべひろみ(ひよひよ)の選んだ1作品と「ひとこと」

1. ELEVEN NINES 岸田國士Collection 『命を弄ぶ男二人』『ヂアロオグ・プランタニエ』 2020年12月 ELEVEN NINESスタジオ

2020年年末1回限りのアトリエ公演として行われた若手による岸田國士の戯曲2本。
特にAチーム・Bチームと2組が演じた『ヂアロオグ・プランタニエ』は、初々しさと情念(とまでいかないかもだけど)の対比が一字一句同じ戯曲なのに現わされるのが面白かった。
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立ち止まらず演じることをやめない人たちを観に行く

「ひとこと」

2020年度の1年間で観た演劇は結局、片手に満たない数だった。得体のしれない病に翻弄される生活自体がまるで物語の中。合間にようやく観た数本について改めて考えると、若手の公演が多かった。この状況下でも未来を感じさせる姿を見たいと意識していたのかどうか。
オンラインで演劇を観る機会も増えた。時間や場所の都合であきらめるものが観られる良さもあり、これからますます定着していくのだろうとは思う。でも、やはり、その場で取り返しのつかない瞬間を自分の目でとらえたい。そのためにも、自分も健康でいようと思うこの頃である。

 

有田英宗(ゲスト投稿)の選んだ1作品


1. All Sapporo Professional Actors Selection『北緯43°のリア』 2021年2月 クリエイティブスタジオ

アイヌの自然と意匠がリア王を神々しく北緯43°に立たせた。
人間の野望と宿望を描いてシェイクスピアの右に出るものはいない。齋藤歩の演出は 原作に忠実ながら、得意技の大胆なカットがあり象徴的なシーンを作った。熱演が漲り、権力欲と愛欲が渦巻く修羅場が現れた。そんな中、納谷真大が演じるケント伯爵の清廉が心に残った。

 

熊喰人(ゲスト投稿)の選んだ3作品

1. 劇団怪獣無法地帯『ねお里見八犬伝』 2020年8月 コンカリーニョ

20名も登場するお芝居を久しぶりに観た。これだけ登場すると玉石混淆かなと思ってしまうが、全員が役柄にピタッとはまり、大いに楽しむことができた。そして衣装や効果音も舞台を盛り上げていた。
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痛快な舞台に拍手

2. 弦巻楽団『果実』 2020年8月 サンピアザ劇場

3度目の『果実』。役者さんも馴染みのある方々が多く、ストーリーは分かっていたが不覚にも涙がこぼれ出た。内面の感情とは裏腹に、セリフのトーンを落とした、淡々と語る演出がお芝居を際立たせていた。
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記憶に残る3回目の果実

3. 座・れら第16回公演『空の村号』 2021年2月14日 札幌市こどもの劇場やまびこ座

2度目の『空の村号』。世はパンデミックに翻弄されているが、決して忘れてはならない人災があったことを改めて思い出させてくれた。素直に感情移入できなかった部分はあったが、東日本大震災10年目に上演したことを評価したい。
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ガガゾゾボンバーふたたび

【投稿まとめ】2020年度上演作品の観劇レポート一覧

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【企画】2019年度「記憶に残った作品」
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【投稿まとめ】2018年度上演作品の観劇レポート(2018年4月〜2019年3月)
2017年度の上演作品・観劇レポートのまとめはこちらからご覧ください

【企画】札幌観劇人の語り場 2019年度「記憶に残った作品」

作品が舞台上で輝くのは、ほんのひととき。
けれど観た人の心に強く長く刻まれる光があります。
2019年度の観劇を振り返り、記憶に残った1〜3作品を選んで語ってもらいました。

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うめの選んだ1作品

1.人形劇団ココン『繭の夢』 2019年8月 やまびこ座

不気味でユーモラス。短編5本立ての作品は、どれも遊び(余裕)のある不思議な世界。
中でも「ズボンの逃走」という作品が素晴らしかった。可愛い動きに油断していると、ゾッとすることに。マイルドなヤン・シュヴァンクマイエルみたい。演者が二人だということを、途中何度か見失った「トリオダンス」も秀逸。真夏の夜に大変良いものを観た。

 

S・Tの選んだ3作品

1. 劇団怪獣無法地帯『傾国の美女』 2019年9月 ことにパトス

2. 劇団怪獣無法地帯『散ル 咲ク ~わらう花』 2020年3月 コンカリーニョ

3. 演劇家族スイートホーム『わだちを踏むように』 2019年11月 BLOCH

上記3作品を選んだ理由はこちら

 

九十八坊(orb)の選んだ3作品

1. 劇団清水企画×劇団コヨーテ『怪物』 2019年8月 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド

スクエア摺鉢状の舞台とエレベーター、ガラスの背景、いつもは気になるまわりの観客まですべてが装置となった夢の一夜。惜しむらくは残響で聞き取れないセリフが多かったことだが、それを差し引いてもおそらく過去観劇した数多の芝居のなかでも最高峰の舞台のひとつ。

2. 札幌座 第56回公演『棲家』 2019年10月 ZOO

しんとした舞台装置。80歳の坂口芳貞さんだからこそ伝わってくるこの主人公の喪失感。久々に感じた演劇本来の「匂い」が、僕の観劇への興味を再燃させてくれた公演。

3. 札幌演劇シーズン2020-冬 きっとろんどん『発光体』 2020年1月 BLOCH

初演(2017年)も絶賛したが、再演での役者や演出の進化は期待以上だった(詳細は観劇レポートにて)。今期数少ない、2度足を運んだ作品。

 

島崎町の選んだ3作品

1.劇団どくんご『誓いはスカーレットθ』 2019年7月 円山公園 自由広場

毎年、全国をテント公演でまわる劇団。北海道にも夏ごろやってくる。僕もここ5〜6年観に行って、すでに風物詩、どくんごで夏を感じていた。しかし2019年の旅を終え、継続のための充電期間に入ってしまった。どくんごのこない2020年、僕に夏はくるんだろうか。この劇団は、芝居を人生の一部にさせてしまう力があったんだ。

2.弦巻楽団『ワンダー☆ランド』 2019年8月8月 コンカリーニョ

いまどき珍しい、勢いあふれる、あふれすぎて劇それ自体を破壊しそうなほどの舞台。内部に充ち満ちたエネルギーが、2時間爆発するさまを観た。再演は16年ぶり。いまこんな舞台を作るところはあるんだろうか。こういう迫力ある、劇そのものの力を感じさせる舞台を、もっと観たくなった。

3.きっとろんどん『発光体』 2019年1月 BLOCH

なにかを好きになった瞬間の感情、それにいちばん近いのかもしれない、この劇を観たときのよろこびは。演劇だけでなく、すべての創作物のなかで、本当はいちばん大事なものが描けていたのかもしれない。好きなものを好きにやる。その結果、「好き」は観客に届き観客もまた好きになった。これほどしあわせなことはない。

しのぴーの選んだ2作品

1. オペラ『トゥーランドット』 2019年8月 札幌文化芸術劇場hitaru

プッチーニの未完の遺作に斬新な演出的解釈を提示したアレックス・オリエの天才的な魔術に深く感銘。オリエが用意したトゥーランドット姫の運命のラストに息をのんだ。鳥肌が立った。近未来な舞台設定の中で、人物の心象が文字通り「愛」のごとく腑に落ちた。世界観のある美しい衣装、群像を受け容れた巨大な舞台美術、ピットに入った大野和士指揮のバルセロナ交響楽団とすべてが圧巻だった。札幌に来る前にびわ湖ホール大ホールでは、舞台装置の重量に耐え切れず本番中に昇降機が止まったと聞いた。そんな重圧の中、ツアーの大千穐楽を見事に締めくくったhitaruの舞台技術陣の力量にも大きな拍手を送りたいと思う。オペラという舞台表現が札幌で大きく評価された作品としてメルクマールにもなったことだろう。

2. 朗読劇 家族草子札幌組公演2019『月の庭』『荷物の順番』 8月31日 ウィステリアホール

原作・脚本は日本のポップスシーンをつくってきた作詞家であり小説家でもある森浩美。朗読と芝居を織り交ぜた独特の空気感がとても新鮮だった。誰もが心当たりのある何気ない、てらいのない家族の物語を描く、一つひとつのディテールが深く心に響いた。特に第2部の『荷物の順番』では菅野公が演じた息子が自分の親への不実に重なり涙が止まらなかった。東京で「家族草子」を観た大橋千絵(フリー、アルカス演劇さーくる×吟ムツの会『マグノリアの花たち』マリン役)が、ぜひ札幌の俳優陣でやりたいと奔走して実現した企画だそうだ。ぜひシリーズ化してほしいと思う。

※今般の新型コロナウィルス災禍。ジャレド・ダイヤモンドがいうブラックスワンの飛来といえるだろう。人が集まれないということが演劇というアートをこれほど苦しめるとは。2020年は厳しい一年になるだろう。舞台芸術にかかわるすべての人々に心からのエールを送りたいと思う。

 

マサコさんの選んだ2作品+α


1.オフィスコットーネプロデュース『さなぎの教室』 8月?9月 東京・下北沢 駅前劇場

私が東京に観劇に行く時、必ず観劇予定に入れている劇団の一つが「小松台東」だ。本作は、主宰の松本哲也さんが演出(さらに、出演者降板でご本人が出演)すると知り、数カ月前に購入していた『アジアの女』(石原さとみ主演)のチケットを手放して観に行った。看護学校の同級生4人が大人になり、4人の関係がパワーバランスでゆがんでいく物語。気が付いたら底なし沼にはまっていたような、各人を追い詰める・追い詰められていく演出にぞわっとした。何よりも、松本さんの女装に何一つ違和感がなかったことが一番記憶に残っている。小松台東、札幌に来てほしいです。
※大竹野正典没後10年記念公演

2.高校演劇全般

幻となった「新篠津高等養護演劇部のポルト公演」への寄稿でも書いたのだけど、高校演劇を観る時は楽しみの一方で、胸が痛くなる。それを実感しまくった一方で、2019年度はバラエティーに富んだ作品に出合えたなぁという印象が強い。
今、もう一度観ることが叶うのならば、札幌北斗『ハハカレ』、新篠津高等養護『オツベルの象たち』、札幌平岸『ハーフウェイ・ターミナル』の3作品を。

2.抗えない事態で観られなかった作品

・東京デスロック『Anti Human Education』←台風接近でキャンセル。筑駒の平田先生の回だったのに…
・北斗、新篠津、根室、(3月の)おバカ←新型コロナで中止。各校の先生、その際にはいろいろと情報を寄せていただき、ありがとうございました

※2019年度は、その大半を国家試験の勉強に費やしていたので、観劇する回数がぐっと減った。だからこそ、「観るなら厳選しないと」という気持ちが強かった。その分、ハズレを引くことが減ったのは喜ばしいのだけど、どうしようもできないことで観劇できなくなった作品が多かったのが残念だった。

 

瞑想子の選んだ3作品


1. プロト・パスプア 『遮光』 2019年11月 レッドベリースタジオ

中村文則の小説を小佐部明広が脚色・演出。しばしば「人の心の闇」を扱う小佐部作品だが、初めて全体的な納得感をもって観た。芝居の流れに筋ズレや歪みはなく、原作の目指すところに忠実だったのではと想像(原作未読だが)。宮森俊也の平静と狂気の演技が光る。小さなスペースで、真摯に作られた精度の高い演劇を観る贅沢。このような演劇ならまた観たい。

2. 座・れら『私 〜ミープ・ヒースの物語〜』 2019年11月 やまびこ座

脚本・演出は戸塚直人。「同調圧力が高まる中で『私』はどう振る舞うのか、自分なりの『正しさ』を貫けるのか」の問いが記憶に残る。感想は北海道戯曲賞の長塚圭史講評とほぼ同じ。「反ユダヤ主義に加担した〜市民を頭ごなしに批難することは出来ないという視点に重きを置こうと試みている」と感じた。
他の講評の指摘、「ナチと戦った英雄を讃えている」とは思わなかったし、「市井の善良な人々がなぜ危険な思想に染まってしまうのか」についてはむしろアプローチしていると感じた。冗長さはブラッシュアップを期待。
※北海道戯曲賞講評↓
https://haf.jp/gikyoku.html#news200206b

3. 劇団清水企画×劇団コヨーテ『怪物』 2019年8月 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド

ガラスのピラミッドという舞台装置の特別感、暮れていく空を古代の劇場のような空間で眺めた贅沢が記憶に残る。原作の「怪物」を原発と解釈するのはアリだが、JCO臨界事故時の医療問題を絡めたことで恐怖の焦点がボケたのが残念。演出家自身が登場したシーンのトーンずれも気になった。しかし全体として、美しい空間を活かした演出と、亀井健脚色らしい詩的な台詞とを楽しんだ。

※2019年度、舞台作品で一番心に残っているのはオペラ『トゥーランドット』。圧倒的な美しさ、古典通りの展開でありながら納得のラストに至るアレックス・オリエの新解釈に脱帽。二番は、ウォーキング・スタッフ『三億円事件』。忖度抜きで完璧に満足、脚本も演出も役者も巧い。あっという間の2時間。もう一つ選ぶなら、東京成人演劇部『命、ギガ長ス』。ヘタウマと下手の違い、的なものについて考えさせられた。しかし、今回は道内作品を選出したかったので。

 

やすみんの選んだ3作品

1. 風蝕異人街『メディアマシーン』 2019年6月7日 パトス   観劇レポートあり。

一見難解な内容をこしば氏が実に分かりやすくストレートに見せてくれた。やはり額に汗する群舞が印象的。

2. シスカンパニー『Life Life Life ~人生の3つのヴァージョン』  2019年4月21日 シアターコクーン

ヤスミナ・レザ作品をケラリーノ・サンドロヴィッチが演出。稲垣吾郎ちゃんが好演。昔、レザ作品のヒット作「ART」を観て面白いと思ったので観た。これも秀逸。コクーンに珍しく、四方を観客席にして舞台を取り囲む造り。これがあたかも出演者たちの家庭に自分も入り込んでいるように、或いは覗き見しているように、距離感をなくしてくれる。

3. 藤田貴大『City』 2019年5月24日 埼玉芸術劇場

緻密な舞台上の動き、いつもの詩的な表現が、またボディブロウのようにじわじわくる。何の感情なのか、自分でも不可解で言い表し難く、モヤモヤしながらも、藤田氏の世界に浸っているという実感はあり。冷たい水にそろりと足先をつけて、やがてゆっくり全身を沈め、最後には解き放たれて水中を浮遊する感じか。都会の孤独、心の闇、スーパーヒーローの戦い。劇画のような世界を詩的に描く。
感想記事はこちら

 

有田英宗(ゲスト投稿)の選んだ1作品


1. ブス会*『男女逆転版・痴人の愛』リーディング公演 2019年5月 すすきの 新善光寺

谷崎潤一郎原作の男女を逆転させた朗読劇。浄土宗寺院の本堂で上演された。極楽浄土への往生を祈る宗派だが本堂は黄金色の仏具で飾られ大きな和蝋燭も灯った。この本来の舞台装置が主演安藤玉恵の熱演と相まって「男女逆転版・痴人の愛」の淫靡さを際立たせた。翻案・演出のペヤンヌ(日本人女性)と安藤玉恵は早稲田大学の演劇サークル以来の同志。
※ペヤンヌマキ×安藤玉恵生誕40周年記念(株式会社tattプロデュース)

 

熊喰人(ゲスト投稿)の選んだ3作品

1. 弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』 2019年9月 サンピアザ劇場

2018年2月に教文小ホールで観劇して以来2回目。個性的な登場人物にストーリーの面白さ、それに加えてテンポの良さ、音楽の使い方の良さが魅力である。観るたびにシェークスピア作品が分かったような気にさせてくれるが、あっという間に忘れてしまう。なので何度も観たいと思わせる作品。

2. 『札幌学生対校演劇祭第10章:X』 2019年6月 サンピアザ劇場

学生演劇の対校祭も10年目。毎年、参加団体にレベルの差はあるものの、今回は全体的によく出来た作品が多かったように思う。各大学がひとつのテーマで異なるテイストを生み出した努力に敬意を表したい。最優秀賞を受賞したデンコラは、今思い出しても面白い作品だった。

3. 弦巻楽団『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』 2020年1月 サンピアザ劇場

サンピアザ劇場で2020年の最初を飾ったお芝居。前半と後半でテイストが違っていて、どちらを好きか意見が分かれる作品だったが、話がテンポよく進んでいたので、純粋に楽しめた作品だった。男二人のお芝居だったが、深浦佑太と村上義典が好演した。

 

わたなべひろみ(ひよひよ)(ゲスト投稿)の選んだ3作品

1. 信山プロデュース『噂の男』 2019年4月 コンカリーニョ

気持ち悪いくらい酷い話だが、引き込まれる……というか、巻き込まれると言うべきか。
愛情と憎悪と暴力の捻じれまくった関係を実感をもって感じさせる俳優陣の上手さが際立っていた。2時間超えの作品にも関わらず、一時も気を抜くことができずに最後まで一緒に走りぬいたような疲労感。もう一度観たいかと言われたら、観たくないけど、やっぱり気になると答えてしまいそう。

2. 小泉明郎『縛られたプロメテウス』 2019年10月 愛知県芸術劇場大リハーサル室

VRゴーグルを身につけ、誰かの脳内に迷い込んだか、白昼夢を見ているような前半。主にモニターを見ながら、核心に踏み込む後半。それがよく出来た木組みのごとくピタリとはまり込む瞬間に思わず声を出しそうになった。
最新の技術を使ったVR演劇作品としての凄さよりも、技術を手にした我々人間への問いかけの方が衝撃的だった。
※あいちトリエンナーレ2019パフォーミングアーツ・プログラム

3.All Sapporo Professional Actors Selection『虹と雪、慟哭のカッコウ』 2020年2月 札幌市民交流プラザ クリエイティブスタジオ

札幌の「街」としての記憶がしっかりと刻まれ、あの時代の明暗がそれぞれの人物の背景となっている。良い人と悪い人がいるわけでも、正常と異常が対立するものとしてあるわけではない。分断は悲劇を生む。今こそ、それに気づかなければならない。そして、あの作品は札幌そのものだから、別の土地の人には札幌に来て見てほしいと感じた。

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【企画】2017年度「記憶に残った作品」

2018年4月ー2019年3月の記憶に残る作品

2018年4月ー2019年3月の記憶に残る作品

1. 「民衆の敵」イプセン作 ジョナサン・マンビィ演出 シアターコクーン・オンレパートリー

一昨年の「るつぼ」に続き、マンビィx堤真一の作品。前回同様、人間いかに生きるか、というテーマがありながら、何よりも「民衆」の怖さ、「正義」の苦しさを感じた一品。ストーリー的には、内部告発者が社内で憎まれる成り行きが、町ぐるみで起こると考えればよいかと。堤真一、段田安則、外山誠二らが安定して見せる演技はさすが。しかし凄いのは、第2の主役とも言える「市民」役の一団だ。子役から年配者まで老若男女様々な市民が、時に群舞のようなパフォーマンスを披露しながら登場する。そして感心するのは、集団としてとらえられるこの25名からなる「市民」一人一人に名前があり、職業があり、性格の特徴があり、個々の登場人物としているイプセンの視点である。市民Aや漁師、という役名ではなく、ちゃんと名前がある。市民、民衆とは、得体の知れない漠然としたものではない、そういう個人からなる集団なのだと今更ながらに思い知る。昨今のSNS炎上などは、姿も見えず一層不気味ではあるが、個々の個人の仕業には違いない。主人公トマス・ストックマンに対する憎しみが民衆に芽生える瞬間を、舞台に敷き詰められた石を拾い(舞台上にはいないトマスの後ろ姿に向かって)投げつける動作で表現していたのが、人間の闇の立ち上がりを見るようでゾッとした。最初に石を拾ってなげたのは、若い男でも酔ったオヤジでもなく、上品そうな老婦人だったのは心憎い演出だった。(2018年12月1日 シアターコクーンにて観劇。)

2. 「出口なし」サルトル作 小川絵梨子演出 シス・カンパニー

大竹しのぶ、多部未華子、段田安則による密室劇。「地獄」という設定の鏡のない部屋。何やら罪を犯したらしい互いに見知らぬ3人。「地獄とは他人だ」の名言を残したサルトル。自分という存在は他人を通してしか認知できない。違うの、私はそんなんじゃない、誤解だ、と叫んでも虚しい。鏡がなければ、私ってきれい?と他人に問うて反応を見るしかない。では「自分は自分だ」と他人と関わらず生きていくか。はて、そうもできない人間たちを、皮肉、ユーモア、憐憫、愛情で描く、なんだかオシャレな一品。3人いると必ず2対1になる、とは、アメリカのある学長さんも学生寮の部屋割りについて言っておられた。劇ではそのバランスシフトが面白い。(2018年9月15日 新国立劇場 小劇場にて観劇。)

3. 「轟音、つぶやくよううたう、うたう彼女は」関戸哲也演出。空宙空地

観劇後に感想文を揚げたので詳細は割愛。TGRで受賞し、演劇シーズンで再演が決定しているので宣伝をかねて。ベタベタのお涙頂戴にせずさらりと等身大。このタッチが奥深い。なぜか、「キットカットを割らずに食べる女」のくだりも頭に残っている。

4.  記憶に残るラストシーン特集(そんな企画はない)としては、シアターコクーン、フィリップ・ブリーン演出、三浦春馬主演の「罪と罰」のラストシーン、振り向いた春馬くんが罪を告白するのか、と息を呑んで次の言葉を待つ間に暗転!という「やーん!」という凄まじい余韻を残した瞬間。そして演劇シーズンでの、弦巻楽団「センチメンタル」のラストシーンの主人公による号泣。もう彼のように純なことで泣けない自分の穢れを感じた瞬間。同時にワーズワースの詩「草原の輝き」を言い訳のように思い出した瞬間。ーー草原の輝き、花の栄光、その時間を取り戻すことはできない、だが嘆くことはない、その奥に秘められた力を見い出すのだーー。昨年はこの同じフレーズを、藤田貴大演出の寺山修司「書を捨てよ、町に出よう」でも思い出した。寺山の生きた昭和。「あの時代」は戻らない。しかし残された力は、姿形を変えて存在する。まもなく平成も終わる。平成から我々は何を見い出すだろう。

2019年3月30日

【企画】札幌観劇人の語り場 2018年度「記憶に残った作品」

作品が舞台上で輝くのは、ほんのひととき。
けれど観た人の心に強く長く刻まれる光があります。
2018年度の観劇を振り返り、記憶に残った1〜3作品を選んで語ってもらいました。

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うめの選んだ1作品

1.iaku『粛々と運針』 2018年6月 シアターZOO

「普通ってなんだろう」と、考えながら観た作品。
全員共通の“普通”なんて無いことは勿論分かっていても、そこに人の生死が絡むと相手の“普通”を認められず…。兄弟間・夫婦間、どちらの言い分も一方では正しく、でもお互い譲れない気持ちも理解できる。観劇後も考えさせられたという点で、特に記憶に残った作品でした。視覚的にも綺麗な舞台で、是非また再演してほしいです。

九十八坊(orb)の選んだ3作品

1. プロト・パスプア『分裂と光』 2018年6月 コンカリーニョ

「クラアク芸術堂」から派生した若手ユニットとして、より身軽(気軽)に実験的な劇作を行うユニットだと捉えていたのだが、主宰の真髄が見られたのはカンパニー本体ではなくこちらの方だった。プロト・パスプアとはこのために作られたのかと思ったほど。2018年のマイベストとも言える作品。ぜひ再演を。

2. 弦巻楽団#31『センチメンタル』 2018年8月 サンピアザ劇場

これは僕的には初見だが再演であり、戯曲の完成度という点ではこの年度に拝見した同劇団の別の作品の方が上かもしれないのだが、観劇しながら自分の「人生」を顧みるというか、ひどく個人的な思索にふけるという貴重な(奇妙な)時間を貰えた作品。「観劇とは個人的な『出会い』である」という僕の信条からいえばこんな素敵な出会いはめったにない。

3. 柴田智之一人芝居『寿』 2019年1月 BLOCH

2016年に拝見した時とは別モノに見えた。前回はただただ圧倒された舞踏も、今回は一人芝居とパートと違和感なく静かに融合しているという感じだった。完成度と簡単に言ってしまえばそれまでだが、表現者が積み重ねた年月や、観る側(自分)のコンディションなど、いくつもの条件下ではじめて成立する「素敵な時間」だったと思う。

 

小針幸弘の選んだ3作品

1.イレブンナイン『12人の怒れる男』 2018年8月 かでる2.7

何度見ても発見があって飽きない。陪審員番号10番の不快さに、何が彼をそうさせているのかを考えたくなり、そのうち警察・検察を含めた捜査当局自体が、意識しているかどうかは分からないけど、彼と同じように「あんな連中」として被害者や被疑者を扱っているように思えてくる。エンターテインメントとして面白いし、描かれていない裏も考えたくなる作品でした。
感想記事はこちら

2.気まぐれポニーテール『アピカのお城』 2018年8月 BLOCH

実は初演の時は、それほど気になるようなものでは無かったのですが、今回は何故か大ハマりしてしまいました。12人~とかぶっていなかったら、毎日通っていたかも。上演版をテレビシリーズのダイジェストと設定して、架空のテレビシリーズを妄想したり、終演後も自分の中でかなりの間楽しめた作品。
感想記事はこちら

3.コンカリーニョプロデュース『親の顔が見たい』 2019年2月 コンカリーニョ

話の内容というか、描かれていることは、出来れば見聞きしたくないことなのだけど、それがエンターテインメントに仕上がっていて、この芝居の後を考えたくなる作品。会議で何かの決定をした直後に、それを覆す事実が明らかになるという繰り返しは、テーマが軽いものならば、完全にコメディのパターンですよね。正統派の大人チームと部活での上演みたいにも見える中高生チームの違いも面白かった。

納谷さん演出作が2本となりました。理由は説明出来ないけど、どちらも初演で見た時よりも面白かったような印象があります。そのために工夫しているんだから当たり前と怒られそうですが。
3本とも演劇シーズンからとなりましたが、実は最近観たポケット企画なんかも少し気になっています。

 

 

島崎町の選んだ3作品

1.アルカス演劇さーくる×吟ムツの会『マグノリアの花たち』 2018年9月 ことにパトス

佐世保の演劇人と札幌の演劇人が共同して作った作品。佐世保チームと演出家は、1ヶ月間札幌に滞在し、札幌チームと舞台を作りあげた。公演は9月末に札幌、10月に佐世保で行われた。お芝居自体のできもよく、心に残ったけれど、その周囲もまたよかった。会場ロビーでは佐世保の名産が売られ、パンフレットには観光案内が挟まっていた。お芝居を通じた地域交流もいいかもしれない。この劇にふれたせいだろう、僕は今年、佐世保への旅を計画している(航空券はもう買った)。
感想記事はこちら

2.MAM『父と暮せば』 2019年1月 シアターZOO

井上ひさしの著名な戯曲。タイトルは知っていたけれど、初観劇、涙が出た。面白い戯曲を使えば面白い舞台ができる、というわけではない。その本に向きあい、格闘し、表現しなければならない。生半可な態度ではすぐにボロが出る。脚本に喰われてしまう。ましてや「広島」「原爆」を描いた作品だ。覚悟がいる。だけどこの舞台は、成し遂げた。それにしても、1948年を舞台にした20年以上前の戯曲が確実に、いまを照らしている。普遍的ということは、こういうことなんだろう。

3.コンカリーニョプロデュース『親の顔が見たい』 2019年2月 コンカリーニョ

大人チームと中高生チーム、どちらもよかった。それぞれ単独の公演だったとしても、年度ベスト3に選んでいたと思う。大人チームのクオリティはすごかった。とにかく、いいものを絶対に面白く観せる、そういう信念が感じられた。これだけのものはなかなか観られないと思う。中高生チームの、ひたむきに舞台に向きあう姿勢にも心打たれた。なにかを必死にやることによって、純粋さが生まれるんだと、あらためて思った。そうしてこの2つを見比べることによって、観客はより深く、テーマへと潜っていける。良企画だった。

しのぴーの選んだ2作品

1. コンカリーニョプロデュース『親の顔が見たい』(中高生チームバージョン) 2019年2月 コンカリーニョ

テレビドラマも同じだと思うけれど、本(戯曲)は作品の仕上がりに決定的な役割を果たす。演出家でも、俳優でもない。やはり本があっての芝居だと改めて感じた。観客の心を深く揺さぶる畑澤聖悟の本が秀逸である。畑澤は青森県を拠点に活躍する劇作家・演出家で、劇団渡辺源四郎商店を主宰している現役の高校教諭だ。この創作のもとになったのは2006年に福岡県筑前町で起こったいじめによる中学2年の男子学生の自殺事件だ。この事件は、当時マスコミでも大きく報道された。畑澤の作劇は自責の念すら持たない加害児童たちの酷薄さに向けられているが、大人(親、学校、教師)の立場も揺さぶり、突き崩していく。
初演と同じく、ELEVEN NINEの納谷真大演出の大人チームと、introのイトウワカナ演出の中高生チームの2バージョンで上演された。僕は両方観たのだけれど、中高生チームの初日は、久々にキレキレの上がりだった。彼ら、彼女たちの「リアリティのある心当たり感」に心震えた。観客の記憶にある何気ない学校、教室のざわめきや情景から物語を手繰り寄せてみせたイトウの演出も高く評価したい。大人たちが世間体や責任のなすり合いで無様に争い、本来登場すべき「正義らしきもの」が完膚なきまでに壊れていくのをせせら笑うように、罰からするりと逃げていくかのような子どもたちの残酷さを際立たせていたように思う。僕はこの劇に救いやかすかな希望があるとは思わない。それは大人の勝手なファンタジーだろう。公演の前に酷い出来事があった。千葉県で小学4年生の女児が父親の暴力で殺された事件だ。彼女の必死のSOSは、モンスターペアレントの強面から逃れたかった児相の職員と、夫のDVから保身のために共犯になった母親に抹殺されてしまった。中高生の役者たちにとって、僕たちの世界はそういうものなのだという、肌感覚の近さがまったく大人とは違うのだろう。どこか心当たりがあるのだ。だから、大人チームのパフォーマンスを圧倒していたのだと思う。この芝居はこれからも大人チームと中高生チームの2バージョンでぜひ観客に見せてほしい。国境を超えるナラティブがある。優れた演出家と役者たちによってもっと成長させてほしいと願ってやまない作品だ。

2. hitaruオープニングシリーズ『ゴドーを待ちながら』 2018年12月 hitaruクリエイティブスタジオ

札幌文化芸術劇場(hitaru)オープニングシリーズのこけら落とし公演としてクリエイティブシアターで上演されたこの作品。演劇の世界的遺産というべきサミュエル・ベケットの名作をチョイスした斎藤歩の狙いやいかに。「今日は来ないが明日は来る」というゴドーを延々の待ち続ける2人の男の物語。そもそもゴドーは何者なのか。芝居では一切語られることはない。色々な解説本があるが、ゴッド(神)、救世主、メサイヤ、という解釈もあるそうだ。そりゃそうだ。宇多田ヒカルは自死した母に捧げた名曲「道」の中で「人生の岐路に立つ標識はありゃせぬ」と喝破しているが、都合よくゴドーが現れることは誰の人生にもありはしない。誰かに、あるいは何かに救いを求めながらよれよれと生きるしかないのだ。今日も明日も変わらない日常を。
『ゴドーを待ちながら』はそもそも、その演出家バージョンのように思われ、どこが原作に忠実で、どこが原作から逸脱しているのか、例によってアドリブも多々あり、大学時代に読んだ原作などとっくに忘れている浅学な分際では分からない。でも、そこが不条理劇の面白さ、醍醐味といえよう。つまり、いかに人間が不確かな存在であるのか、そもそも私たちは何者で、どこから来てどこへ行くのか。普段絶対に考えないことを、芝居を観ながら考えている自分がいた。時代と対峙しながら時代精神の中で問いかけること。畢竟、それは演劇の役割に他ならないだろう。クリエイティブシアターとのサイズ感も良く、島次郎の舞台美術に感嘆。大野道乃による照明プランも美しい。衣装(磯貝圭子)も世界観にマッチしていた。東京からの客演、福士惠二、高田恵篤が圧巻の存在感!この二人を観ただけでも十分お腹一杯。面倒な作品世界を素晴らしく魅力的に観客に提示してみせた斎藤の演劇頭脳に改めて敬服した。

 

中脇まりやの選んだ3作品

1. intro 『こっちにくるとあの景色がみえるわ』  2018年5月 シアターZOO

introがすきなので、introは何度でも見たい!introの舞台はセリフ、動作、すべてがリズムから成り立つと思う。グルーヴに近い。それから独特な俳優陣たち。そしてそれが癖になってしまう。もう虜です。アパートの一室の空き室でサンバのリズムとともに湧き出るゴミ。そして作り出されるゴミの海。そこはあの世かこの世か。見るたびに発見があるのでは、と思う。
感想記事はこちら

2. 東京芸術劇場ルーツ企画『書を捨てよ町に出よう』 藤田貴大演出 2018年11月 教文大ホール

開演前のBGMのセンスのよさから圧倒され、宇野亜喜良のポスターにほくそえみ、単管が組み立てられ、移動していく様や注目のミナペルホネンの衣装も面白く、噂にきく解剖シーンを目撃する。もはやお話の良し悪しはわからなくなってしまうのだけど、ひとつひとつのことにエッジが効いていて、刺激が強い。そして、主人公ひみくんが絶妙な塩梅でした。

3. 空宙空地『轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は』 2018年11月 コンカリーニョ

個人的なテーマでもある「母と娘」にがっちりとはまってしまい、終演後に涙が止まらなくなってしまった。これは非常に困った。生きることに対しての諦めと、静かな肯定を感じた。若いときには見えなかった諸々も、年を経れば、苦労をすれば、見えるようになってくる。「なんにもわかってなかった」とわかる頃には時すでに遅し。もう一度見たらどんな気持ちになるか、できることなら確かめたい。

 

マサコさんの選んだ2作品


1.さんぴん『NEW HERO〜突撃!隣のプレシャスご飯、デリシャス!!〜』 2018年10日 よりiどこオノベカ

男子4人の、「楽しんで作った」感が満載の舞台。各々のスキルの高さ、ぐぐっと押し寄せてくるような圧力の高さなどなど、あらゆる点で「見なきゃ損だな!」と思った。来年の札幌国際芸術祭に参加したらいいのにな、と勝手に期待。

2.高校演劇全般

根室高の抜群の破壊力や、卒業公演で「ラブストーリー」として完結した新篠津高等養護など、2校に限らず強く印象に残る作品が多かった。今年の各支部大会でどんな作品が出てくるのか超楽しみ。現在、今年の春フェス参加校の映像が観られるようですよ(https://freshlive.tv/kouenkyo/programs/archive?sortType=endAt)。北海道代表は、〝山崎サンセット〟の大麻『Cavatina』です。

 

瞑想子の選んだ3作品


1. やまびこ座30周年記念・野外巨大人形劇『テンペスト』 2018年8月 やまびこ座

ノリの悪いタイプの大人(私)も気が付けば楽しんでいた観客参加型作品。シェイクスピアの『テンペスト』をベースに、沢則行が演出・美術を担当。
エアリエルが案内するアトラクションツアーの趣向で、客は劇場内外を巡り歩いて物語を目撃し、ラストは野外で、屋上に登場する巨大な人形を見上げる。美術も人形もほぼ段ボール製なのにしっかりアート(かつ学園祭っぽい楽しさ)。
出演者は子どもも若者も一生懸命、ベテランが要所を押さえ、統括者のセンス良さと構えの大きさが観客をきちんともてなしてくれた。絆は感じるのに内輪ノリがなく、開かれていた。
劇場が30年で培ってきた人脈・人材・ノウハウ、地域で果たしている役割をもみせてくれた作品だった。

2. ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』『サマータイムマシン・ワンスモア』 2018年11月 道新ホール

ドタバタ入れ替わりモノでは、その忙しさで役者が素笑いしたり、客と馴れ合って笑いにしたり…というものを多くみかけるが、全くそんな気配がなかった。素晴らしい。
『〜ブルース』は、場面に効かせる笑いが優勢かつ序盤が重いと感じたが、「使い古されたタイムマシンものでこのアイデアはいいなぁ!」という強烈なのが2つあり(パラドックスの掟の破り方があっぱれ)、言葉で効かせる笑いもいくつかあって、全体として満足した。
『〜ワンスモア』は、脚本がより緻密で伏線だらけ。人物に彫りがみえ「なるほど大学を出て社会人になったのだなぁ」という物語の幅があり、「あまちゃん」ばりに年代ネタをぶっこんである。笑いの大部分が「筋の展開上の必然を持った笑い」だったことも好み。ズレ、ギャップ、繰り返しのほとんどが脚本上のもので、場面にしか効かない笑いはあまりなかった。
ブルースがアイデアとセンスの作品なら、ワンスモアは計算と技巧が効いた手練れの作品、と感じた。特段中身はないエンタメだが、筋の運びとひねりが最大の楽しみどころの作品のように思う。スカッと楽しかった。

3. hitaruオープニングシリーズ『ゴドーを待ちながら』 2018年12月 hitaruクリエイティブスタジオ ※初日観劇

凄い脚本だ。描かれているのはまさに「私たち」。何かが起きているようで起こらない日々、状況に対する無力、様々な感情の果てに訪れる慣れ、惰性、薄らぼんやりとなっている希望、既に費えつつある渇望。哀れで滑稽で不遜で無様な登場人物4名はいずれも私だった。
シンプルながら広がりを感じさせる舞台美術、そこにいる斎藤歩は惨めでくたびれたエストラゴンの身体そのものだった。札幌の舞台で、照れたり斜に構えたりしたところのない役そのものの斎藤を初めてみたように思う。感動した。が、後半のアドリブが始まるといつもの身体に戻ってしまった。残念。
ゴドーは改変が許されないと聞くが、この上演ではどうだったのか。日本での他例でもアドリブは割と多く、漫才バリの笑いを良しとする意見もあるようだ。串田和美演出では緒形拳が「なんとか大衆演劇にしたかった」と言ったというテキストをみかけた。なぜ? こんなにも普遍的な名作を大衆演劇にする必要があるのか? 「いま・ここ」に着地する方法はそれしかないのか? 演劇が芸術であるというのなら、ご当地ネタの笑いなど入れずに演じてみせてほしかった。客が退屈するならそれも脚本家の意図という可能性もあるだろう。
劇場のオープニングシリーズ、名高い不条理劇脚本、迫力の舞台美術、東京からの強力な助っ人俳優。(哀しみと表裏の笑いが必ず生じるとは思うが)ひとかけらも笑えずわけがわからなかったとしても、客は必ず何かを持ち帰ったはずだ。演出家にとって、演劇と客を信じてみる絶好の機会であっただろうに。観てみたかった。

 

やすみんの選んだ3作品

1. 『民衆の敵』イプセン作 ジョナサン・マンビィ演出 シアターコクーン・オンレパートリー 2018年12月1日 シアターコクーン

一昨年の「るつぼ」に続き、マンビィx堤真一の作品。前回同様、人間いかに生きるか、というテーマがありながら、何よりも「民衆」の怖さ、「正義」の苦しさを感じた一品。ストーリー的には、内部告発者が社内で憎まれる成り行きが、町ぐるみで起こると考えればよいかと。堤真一、段田安則、外山誠二らが安定して見せる演技はさすが。しかし凄いのは、第2の主役とも言える「市民」役の一団だ。子役から年配者まで老若男女様々な市民が、時に群舞のようなパフォーマンスを披露しながら登場する。そして感心するのは、集団としてとらえられるこの25名からなる「市民」一人一人に名前があり、職業があり、性格の特徴があり、個々の登場人物としているイプセンの視点である。市民Aや漁師、という役名ではなく、ちゃんと名前がある。市民、民衆とは、得体の知れない漠然としたものではない、そういう個人からなる集団なのだと今更ながらに思い知る。昨今のSNS炎上などは、姿も見えず一層不気味ではあるが、個々の個人の仕業には違いない。主人公トマス・ストックマンに対する憎しみが民衆に芽生える瞬間を、舞台に敷き詰められた石を拾い(舞台上にはいないトマスの後ろ姿に向かって)投げつける動作で表現していたのが、人間の闇の立ち上がりを見るようでゾッとした。最初に石を拾ってなげたのは、若い男でも酔ったオヤジでもなく、上品そうな老婦人だったのは心憎い演出だった。

2. 『出口なし』サルトル作 小川絵梨子演出 シス・カンパニー  2018年9月15日 新国立劇場 小劇場

大竹しのぶ、多部未華子、段田安則による密室劇。「地獄」という設定の鏡のない部屋。何やら罪を犯したらしい互いに見知らぬ3人。「地獄とは他人だ」の名言を残したサルトル。自分という存在は他人を通してしか認知できない。違うの、私はそんなんじゃない、誤解だ、と叫んでも虚しい。鏡がなければ、私ってきれい?と他人に問うて反応を見るしかない。では「自分は自分だ」と他人と関わらず生きていくか。はて、そうもできない人間たちを、皮肉、ユーモア、憐憫、愛情で描く、なんだかオシャレな一品。3人いると必ず2対1になる、とは、アメリカのある学長さんも学生寮の部屋割りについて言っておられた。劇ではそのバランスシフトが面白い。

3. 空宙空地『轟音、つぶやくよううたう、うたう彼女は』 関戸哲也演出 2018年11月 コンカリーニョ

観劇後に感想文を揚げたので詳細は割愛。TGRで受賞し、演劇シーズンで再演が決定しているので宣伝をかねて。ベタベタのお涙頂戴にせずさらりと等身大。このタッチが奥深い。なぜか、「キットカットを割らずに食べる女」のくだりも頭に残っている。

※記憶に残るラストシーン特集(そんな企画はない)としては、シアターコクーン、フィリップ・ブリーン演出、三浦春馬主演の『罪と罰』のラストシーン、振り向いた春馬くんが罪を告白するのか、と息を呑んで次の言葉を待つ間に暗転!という「やーん!」という凄まじい余韻を残した瞬間。そして演劇シーズンでの、弦巻楽団『センチメンタル』のラストシーンの主人公による号泣。もう彼のように純なことで泣けない自分の穢れを感じた瞬間。同時にワーズワースの詩「草原の輝き」を言い訳のように思い出した瞬間。ーー草原の輝き、花の栄光、その時間を取り戻すことはできない、だが嘆くことはない、その奥に秘められた力を見い出すのだーー。昨年はこの同じフレーズを、藤田貴大演出の寺山修司『書を捨てよ、町に出よう』でも思い出した。寺山の生きた昭和。「あの時代」は戻らない。しかし残された力は、姿形を変えて存在する。まもなく平成も終わる。平成から我々は何を見い出すだろう。
感想記事はこちら

 

有田英宗(ゲスト投稿)の選んだ1作品


1. tattプロデュース『命を弄ぶ男ふたり』 2019年3月 シアターZOO

自殺願望の男ふたりが鉄路へ飛び込む場所を物色中に出会って、減らず口をたたきあう悲喜劇。
顔中包帯の男(納谷真大)と眼鏡の男(斎藤歩)はともに結婚や色恋など、女性を巡って思い詰めている。
深刻さを競い合って滑稽だった。真面目さも過ぎるとおかしみと背中合わせになるのは日常よくある風景だ。
そしてその先、漂着するのは生の悲哀の海岸だ。重いテーマをふたりが軽やかに演じて面白かった。

 

熊喰人(ゲスト投稿)の選んだ3作品

1. イレブンナイン『12人の怒れる男』 2018年8月 かでるホール

イレブンナイン版『12人の怒れる男』は2015年8月以来2度目の観劇。原作が良くて、脚本が良くて、キャストが良ければ、何度観ても感動し考えさせられる作品。河野さんや平塚さんの演技の熱演に魅了された2時間だった。

2. アルカス演劇サークル×吟ムツの会『マグノリアの花たち』 2018年9月 ことにPATOS

こちらの作品もストーリーが良く、脚本が良かったので楽しめた作品。舞台はアメリカなれど、そこで交わされる会話は昭和時代の井戸端会議。淡々と過ぎる日常の中でのちょっとしたアクシデント。出演者全員が役回りを見事に演じていた。怪優ナガムツさんの好演に拍手。
感想記事はこちら

3. yhs『白浪っ!』 2019年2月 コンカリーニョ

2017年度のTGR札幌劇場祭で大賞を受賞した作品のリメイク。設定やストーリーにやや無理があったが演出のうまさと舞台の使い方のうまさが光った作品。17名もの役者さんを使い、それぞれに個性溢れる人物に仕立て上げた南参さんに拍手。

 

S・T(ゲスト投稿)の選んだ3作品

1. 劇団怪獣無法地帯『月見草珈琲店~まてば甘露の日和あり~』 2018年6~7月 ことにパトス

幻想的なシーンでボクは不思議な感じを抱いた。当たり前の話し観客の一人として自分は観ているのだが、他の観客の頭を眺めながら「観客も含めて作品?」と思ったのだ(役者が観客席に出てきた訳では無い)。登場人物の人生を皆で見守るような感覚で、「観客の中の一人」であることを嬉しく思えた。作・演出の伊藤樹、恐るべし。
感想記事はこちら

2. 演劇家族スイートホーム『裸足でベーラン』 2018年11月 BLOCH

TGR新人賞受賞作品。賞を争うであろう他の1作品も観ていたので、新人賞受賞には納得。何と言ってもクライマックス、ありふれた一言で劇場の空気を変えたのが印象的。今作は高橋正子さんの脚本だが、スイートホームのホームページを見ると他のメンバーも脚本を書くようだ。札幌に限らないのかもしれないが、個人的には役者に比べ劇作家の数が少なすぎるように感じている。スイートホームは、そういう意味でも今後に期待できるカンパニー、だと思っている。
感想記事はこちら

3. 北海学園大学演劇研究会 卒業公演『いつかの日曜日』 2019年2月 BLOCH

泣いた。ボクが一番泣いた映画は「レナードの朝」、美しいダンスシーンに涙した。それに負けないくらい、終盤の山崎拓未さん(演劇家族スイートホーム)と簗田愛美さんのシーンは美しかった。劇場からの帰り道も涙が止まらなかった。魂の存在の有無、脳に記憶することと魂に記憶することに違いはあるのか?考えさせられる作品でした。脚本・演出は福田倫久さん。また作品を観ることはできるのだろうか?

※2016年3月、ボクは初めて演劇を観ました。数回観て、大げさな話「ボクの人生に演劇は必要無いな」と結論付けました。けれど音楽を聴きに行ったイベントで予想外の出会いがあり、観劇を続け2018年は「札幌観劇人の語り場」へ投稿までしてしまいました。人生とは不思議なものですね。昨年度は再観を入れても10回くらいしか観ていないと思います。ツイッターをみると、ボクより多く観劇されている方は沢山いらっしゃるようですので、気軽に語り場さんに投稿してみてはいかがでしょうか?ボクは遅筆ですし書きたくなった作品の感想だけ、ゆるく投稿を続けていけたら・・・、と思っております。

 

わたなべひろみ(ひよひよ)(ゲスト投稿)の選んだ3作品

1. コンカリーニョプロデュース『親の顔が見たい』 2019年2月 コンカリーニョ

いじめをテーマとした重く、出口のないテーマを大人チームと中高生チームとで公演。
大人チームは異様なほどの緊張感で、とことんリアルに親のエゴを演じる。感情のほとばしる様は迫力があり、舞台で展開される物語が終わっても、そこにいた人たちには、これから長い苦しみが続くのだと思わせる説得力があった。
対する中高生チームは、制服のような白シャツで子どもの姿のまま、大人を模す。中高生が大人の発する醜い言葉を口にするのを見ると、このセリフを言いながら、この子はどういう感情に揺さぶられているのだろうと動揺する。最後に靴を自分のものに履き替えて、大人の仮面を取った瞬間の笑顔に涙が出た。
全く同じ脚本であるのに、演出、出演者の違いでここまで違うものになるというのが驚きだった。
いずれのチームでも、深く深く心に刺さって、いつまでも抜けないとげを残すような作品だった。

2. hitaruオープニングシリーズ『ゴドーを待ちながら』 2018年12月 hitaruクリエイティブスタジオ

会場を斜めに貫く一本道と裸の樹。島次郎さんデザインの舞台美術が素晴らしかった。
真新しい劇場で不条理劇の代表といわれる作品の上演。ワクワクせずにいられなかった。
「わかろう」として観るのをやめた瞬間、面白くてしかたなくなり、しかし、そのうちに、しんとした気持ちになってきた。
毎日、信じてゴドーを待つ二人の姿が、北海道で演劇文化をしっかりと根付かせようとしている役者自身の姿に重なってきたのだ。繰り返し、繰り返し、良いものを作ろうとする姿。
きっとあの日、また演劇の新しい種がまかれたのだと思う。そして、それはいつか豊かに枝を張る大木になると信じている。

3.指輪ホテル『バタイユのバスローブ』 2019年3月 naebonoアートスタジオ

指輪ホテルの本公演を観るのは初めてだった。普段はアーティストのアトリエであり、ギャラリーとして使われる会場で繰り広げられたのは、夢の中にいるような、妙にリアルなのだけれど、焦点が合わなかったり、辻褄が合わなかったりする世界だった。
観るものではなく、まさに体験するもの。
春先とは思えない寒さの中、時折、外から列車の音が響き、突然、外へとシャッターが開かれ、積み上げられた雪で作られた雪玉が目の前を飛んでいく。
その場では何が起こっているのかわからなかったものが、数日してから意味を持って浮かび上がってきた。体験が寒さと一緒に身体に刻み付けられた証拠だ。
熱烈なファンの多い指輪ホテル。これはクセになるかも。

 
 
 
■関連記事
【企画】2017年度「記憶に残った作品」

【投稿まとめ】サンピアザ劇場神谷演劇賞エントリー作品(2017年度)

当サイトの「公演招待企画」にチケットを提供いただいた、サンピアザ劇場神谷演劇賞2017年度エントリー作品への投稿をまとめました。

※サンピアザ劇場神谷演劇賞についてはこちらをお読みください

■■ 第6回サンピアザ劇場神谷演劇賞 ■■

大賞  弦巻楽団#28 『ナイトスイミング』
奨励賞 劇団宴夢『熱血!パン食い競走部』

■ 弦巻楽団『ナイトスイミング』  7月12日(水)~15日(土)


 

■クラアク芸術堂『半神』 8月31日(木)~9月3日(日)


  • はて…?  by 

    りゅうた(招待企画ゲスト・10代)

       2017.09.03

 

■サンピアザ劇場企画公演・プレミアムステージ/札幌座第53回公演 『空知る夏の幻想曲』 10月14日(土)~20日(金)


  • 空知物語  by 

    熊喰人(ゲスト投稿)

       2017.10.16

 

■イレブンナイン ミャゴラ『やんなるくらい自己嫌悪』 11月9日(木)~12日(日)


 

■さっぽろ学生演劇祭『ブルー!ロマンス・ブルー!』 11月17日(金)~19日(日)


 

■弦巻楽団 ♯28 1/2『リチャード三世』 11月24日(金)~26日(日)


 

■イレブンナイン experimental『はじまりは、おわりで、はじまり』 3月8日(木)~10日(土)


 

■劇団不退転『トランス』 3月25日(日)


  • 三者三様  by 

    しう(招待企画ゲスト・10代)

       2018.03.26

【投稿まとめ】2018年1〜3月上演作品より

1作品に対し複数のレポート投稿があったものをご紹介します。

2018年4月18日作成。追加された投稿は後日、こちらに反映されます

2018年1月

■ BLOCH PRESENTS 2018『LONLY ACTOR PROJECT vol.26』  1月5日(金)・1月6日(土)


■ イレブンナイン『サクラダファミリー』  1月20日(土)~1月28日(日)


■ 劇団plus+『姉妹、一肌脱ぎますッ!』  1月22日(月)・1月23日(火)


■ ホエイ『珈琲法要』  1月27日(土)~2月1日(木)


2018年2月

■ 円山ドジャース『誰そ彼時』  2月1日(木)~2月10日(土)


■弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』  2月7日(水)~2月12日(月)


■コンカリーニョ・プロデュース『ちゃっかり八兵衛』  2月13日(火)~2月22日(木)


■札幌座『暴雪圏』  2月14日(水)~2月21日(水)


2018年3月

■イレブンナインexpermental『はじまりは、おわりで、はじまり』  3月8日(木)~3月10日(土)


  • 笑いとシリアスのバランスがさすが  by 洗濯機(招待企画ゲスト・20代)
  • 実験 by 橋本(招待企画ゲスト・30代)
  • ■劇団不退転『トランス』  3月25日(日)


    【投稿まとめ】2017年11月上演作品より

    1作品に対し複数のレポート投稿があったものをご紹介します。

    2018年4月1日作成。追加された投稿は後日、こちらに反映されます

    2017年11月

    ■トランク機械シアター『ねじまきロボットα〜ともだちのこえ〜』 1日(水)~5日(月)


    ■座・れら『アンネの日記』 2日(木)~5日(月)


    ■ぐりぐりグリム『おかしな森のヘンゼルとグレーテル』 3日(金)~5日(日)


    ■MAM『月ノツカイ』 7日(火)~10日(金)


    ■ NEXTAGE『ビバーク!』 8日(木)~16日(木)


    ■イレブンナイン ミャゴラ『やんなるくらい自己嫌悪』 9日(木)~12日(日)


    ■劇団words of hearts『アドルフの主治医』 9日(木)~12日(日)


    ■マイペース『ばかもののすべて』 11日(土)~13日(月)


    ■ニッポンの河川『大地をつかむ両足と物語』 17日(金)~19日(日)


    ■さっぽろ学生演劇祭『ブルー!ロマンス・ブルー!』 17日(金)~19日(日)


    ■劇団コヨーテ『路上ヨリ愛ヲ込メテ』 18日(土)~21日(火)


    ■劇団竹竹『マクベス』 22日(水)


    ■札幌ハムプロジェクト『象に釘』 22日(水)~26日(日)


    ■きっとろんどん『ミーアキャットピープル』 23日(木祝)~26日(日)


    ■弦巻楽団 ♯28 1/2『リチャード三世』 24日(金)~26日(日)


    ■総合学園ヒューマンアカデミー札幌校パフォーミングアーツカレッジ『ロミオとジュリエット』 25日(土)~26日(日)


    ■yhs『白浪っ!』 29日(水)~12月3日(日)


     
     
    11月〜12月に実施されたTGR2017参加作品のまとめ↓

    【企画】札幌観劇人の語り場 2017年度「記憶に残った作品」

    作品が舞台上で輝くのは、ほんのひととき。
    けれど観た人の心に強く長く刻まれる光があります。
    2017年度の観劇を振り返り、記憶に残った1〜3作品を選んで語ってもらいました。

     
     

    うめの選んだ1作品

    マームとジプシー『あっこのはなし』 2017年8月、札幌市教育文化会館

    昨年度、〈記憶に残った演劇〉と言われてすぐに思いついたのは、マームとジプシー『あっこのはなし』。
    初めて観るマームとジプシーということで、気持ちが高揚しながら観た事を差し引いても、とても記憶に残っている。なんであんなに印象的だったのか? それは多分、主人公と同じ30代の自分の環境とか心情にピタッと共感できる作品だったからだと思う。

    10代の時に夢中になって読んだ本が、いま読み返すと(面白いけど)そんなに入り込めない…という事があるように、その年代だからこそ特にクル作品というのがあると思う。で、まさに30代の私にとって「あれ、これ自分のことじゃない?」と錯覚するくらい印象に残る話だった。同じ30代でも、結婚して家庭に入った人や、上昇志向の女性には共感できる部分が少ないかもしれない。でも、通過儀礼を経験せずに年中行事ばかり。ある意味平穏、悪く言えば停滞。そんな人達(自分も含めてね)には、特に響くものがある話だったように感じる。多分10代・20代の頃に観ていたら、なんかダラダラした話だなと感じて終わると思うけど(笑)。
    40代になって観たときは、どう感じるかな。そうそう、こんな気持ちだった、と懐かしく思い出せる作品になっていれば幸いですが。
    感想記事はこちら
     

    九十八坊(orb)の選んだ3作品

    1. きっとろんどん『発光体』 2017年4月、BLOCH

    「オカルト系サイエンスフィクション風サイココメディ」 と銘打った今作は井上版『IT』とでも云おうか。期間中に観た若手オリジナル公演の中では出色の作品。SFやサスペンス映画等を下敷きにした精度の高いあて書きに、個性の強い所属役者とレギュラーに近い客演陣が応える。旧友の姿をした侵略者の不気味さを身体パフォーマンス(ダンス)だけで表現しきるリンノスケさんや、等身大の主役・山科さんのセリフのトーンコントロールに感心。落とし処(エンディング)のモノローグ(山科)がノスタルジックで記憶に残った。

    2. 劇団fireworks『沙羅双樹の花の色』 2017年9月、コンカリーニョ

    木曽義仲陣営を主役に、義経・弁慶・静御前を敵方に配した今作は予想を上回るエンタメ性の高い歴史ファンタジーだった。儚さとカタルシス。こういう作品を札幌発で魅せてくれるのはタニケンさんくらいだと思っていた。端役までキャスト皆がしっかりと人物を背負って立っているからこそ、魅力ある舞台となっていた。作・演の米沢さん独特のふんわりとした感性を作品にきちんと反映し、さらに自らが主役(巴御前)として体現。型通りではない殺陣も印象的。

    3. 劇団coyote『路上ヨリ愛ヲ込メテ』 2017年11月、BLOCH

    常に現在進行形で挑み続ける亀井さんの最新作。表現者として心身を研ぎ澄ませ、作風は一見and時代をも彷彿とさせるが決して懐古や停滞ではない。抜き身のナイフをかざすのではなく、熱情を湛えながらも穏やかな愛を語る幅も見せる。ヒロインの脇田さんが、脇田さんとして亀井脚本を体現する。ロードムービーのようなエンディングの余韻は映像作品制作を経ての進化か。広く高評価を得て演劇シーズンでの再演を果たした『愛の顛末 boys be Sid and Nancy』より僕の中では上。こちらが最新作なので当然かも知れないが、それは必ずしも容易なことではない。TGR札幌劇場祭に毎回真正面から挑んでくる亀井さんだが、今作がファイナルに残らなかったのが色々な意味でとても残念だった。

    ※「記憶に残った作品」3作。期間中に観た作品すべてに順位をつけたのではなく、直感的に選びました。どれもリアルタイムで感想を投稿できなかった作品ですが、こうして記録にも残せる機会を得たことに感謝します。

     

    小針幸弘の選んだ3作品

    1.遊戯祭17<谷川俊太郎と僕>『平木トメ子の秘密のかいかん』 2017年4月、コンカリーニョ

    大人と子どもの配役を敢えて逆にしたように見えたこと。辛い現実から逃げて子どもに帰りたい大人と、背伸びして早く大人になりたい子どもというのを想像しました。そしてクライマックスでの安田さんと井上さんのやりとり。弱音をはく大人と、それを受け止め励ます子どもという、本来あるべきとされる姿とは逆転したような場面だけど、すごく心に響いた。前田透演出×米沢春花脚本。
    感想記事はこちら

    2.弦巻楽団『ナイトスイミング』 2017年7月、サンピアザ劇場

    前回観た時は、その年にあったセウォル号事件を連想してしまったけど、今回はその時の対応が非難されていた朴槿恵大統領が罷免された年。まあ関係ないんだろうけど、妙なつながりだなと勝手に感じています。凍った時間、過去の仲間からの問いかけ、仲間の死とそれを忘れていく世間など色々と考えたくなる要素があり、終演後に何か話したくなるお芝居。
    感想記事はこちら

    3.イレブンナイン『サクラダファミリー』 2018年1月、コンカリーニョ

    全体を通して何度観ても面白かった。笑いという意味でも、感動という意味でも。大和田さん・廣瀬さんのコンビの爆発力がすごい。バイクに乗った感じで「兄の婚約者」に迫る場面では、二人の挨拶の異様さが効いていたのか、宮田さんのヘコヘコした感じの特に笑いを取りにいっているとは思えない挨拶がオチっぽく見えて、妙に面白く感じました。
    感想記事はこちら

     

    島崎町の選んだ3作品

    1.イレブンナイン『あっちこっち佐藤さん』 2017年8月、かでる2・7

    こんなに劇場が笑っている作品を観たことがない。すさまじい笑いの渦、大波。おぼれながら笑って楽しんでる感覚。はっきり言って異常なくらいだったと記憶している。役者・納谷真大の、エネルギー飽和状態の熱演もすごかった。
    感想記事はこちら

    2.トランク機械シアター『ねじまきロボットα~ともだちのこえ~』 2017年11月、こぐま座

    子ども向け人形劇という枠におさまらない良作(そもそもそんな枠は不要だろう)。ファンタジーの物語に現代への批評もふくまれて、グサッと刺さった。1体1体の人形も個性的で、細部まで手がこみ、色彩もすばらしかった。
    感想記事はこちら

    3.余市紅志高校演劇部『おにぎり』 2018年1月、かでる2・7

    4名という少ないキャスト、1時間という上演時間、なのに充実感があった。前半の笑いパート、後半のシリアスパートという構成もうまくさばけており、最後はしっかりテーマに落とした。主演の吉田侑樹(当時高校3年生)の演技も深く記憶に残った。
     

    しのぴーの選んだ3作品

    昨年度は、札幌演劇シーズン-2015冬-から引き続き「ゲキカン!」を担当させてもらい、また札幌劇場祭TGRでも一昨年に続いて大賞審査員をお引き受けしたこともあって、その他の観劇と合わせてかなりの数のお芝居を観た「豊作年」でした。個人的に印象に残った作品を3作品あげておきたいと思います。

    1. 劇団竹竹(チュクチュク)『マクベス』 2017年11月、パトス

    TGR2017で日韓演劇交流事業の一環としてソウルから来札した作品です。一昨年は、文化芸術都市として知られる光州から老舗劇団のカチノルが『お伽の棺』を上演し、TGR大賞作品賞を受賞しました。『マクベス』はTGR招待作品だったのですが、大賞にはエントリーしていませんでした。個人的には、エントリーしていたら、ぶっちぎりだっただろうと思います。個人的には2017年のナンバーワンでした。
    数あるシェークスピア劇の中でも『マクベス』が一際魅力的な理由は、マクベス将軍が主君であるダンカン王を裏切ってキング・スレーヤー(王殺し)になったばかりか、猜疑心の余り親友であるバンクォーまで殺害してのけるのは、決してバーナムの森に棲む魔女たちの囁きに惑わされたわけでも、妻に唆されたからでもないということだと思います。マクベスは、手を血で汚すことを自ら選んだのです。そして選び取った運命に呪われて狂っていくさまが、悪しきものへ抗いようのない人間の本質的な脆さや弱さとして描かれることに劇的な醍醐味があるのでしょう。チュクチュクの『マクベス』は、マクベス将軍を演じたソン・ホンイル、マクベス夫人のイ・ジャギョンら俳優の優れた身体性が圧倒的でした。なにより、チュクチュクを主宰するキム・ナギョンの「これぞ演出!」という舞台を成立させているすべての要素への優れた解釈と極めて美しいプレゼンテーションで、キムのいう「荒野の屠殺場」で身を滅ぼすアジアのマクベスを提示して魅せました。一点、急ごしらえで用意したであろうパトスは、芝居のサイズに合っていなかったことが惜しまれました。ぜひ札幌の演劇人たちによって、このチュクチュク版『マクベス』が札幌で再演されることを強く希望したいと思います。
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    2. マームとジプシー『ΛΛΛかえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと──』 2017年8月、札幌市教育文化会館

    今一番演劇界で注目を集める劇作家・演出家の一人、藤田貴大が主宰するマームとジプシー。去年の札幌国際芸術祭特別企画として、ようやく彼らの結成10周年ツアーでの札幌初上演が実現しました。藤田の故郷、伊達市を想起させる海沿いの街に暮らす姉、弟、妹の物語。人物の出入りの時間の経過はあえて曖昧で、父の死を電話で知るとか、実家が区画整理でなくなっていたという「点」以外は、これといった筋らしい展開もありません。台詞に感情の抑揚や色をつけない分、役者の発する言葉には必然的ともいえる精緻さがあり、立ち位置やしゃべりだしの微かな身体の向きにいたるまでのディテールが非常にナラティブで、シンプルな美術装置とも相まって、家族にまつわる痛みや喪失という記憶の底を静かに揺さぶられました。
    藤田は台詞を本として書かず、役者に口立てで言葉を伝えていく作業の中で、いろいろなクリエイティブが決まっていく独特の創作スタイルだそうです。演劇では再現性というものが一切ありません。そこに立ち会う観客が違うことを含め、作家も俳優も「永遠に再演する」ことを繰り返しているのです。藤田が「リフレイン」と呼ぶ、同じシークエンスを別の角度から映像的ともいえる手法で見せる演出術や、モノローグと台詞のやりとりがシームレスに混在していることも魅力的でした。
    「(生まれた)家を出る、あるいはそこへ戻っていく」というのが、藤田の一つのモチーフなのでしょう。タイトルにある『ΛΛΛ』は、ラムダラムダラムダと読めますが、壊されてなくなってしまったという藤田の祖母の家の屋根を表している表象のようにも感じます。台詞というよりも「言葉」(多分、藤田は台詞とは言わないと思います)の持つ複雑な意味性へのフォーカスと、印象的な音楽、抽象性の高い美術、美しい衣装とが極めて独創的にシンクロする様は、舞台が総合芸術であることを久々に思い出させてくれました。
    「敢えて札幌を避けていた」と話していた藤田。この公演を機会に、ぜひツアーに札幌を組み込んで欲しいと思いました。多分、藤田は自分が生み出す言葉だけを信じていて、俳優はそれを舞台化するための駒というか、言葉を発する生きたチューブのように考えているのでしょう。その極めて明快な「肥大した僕」が、なぜより大きな普遍にたどりつくのか、その作家性に強く魅かれました。
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    3. proto Paspoor『ある映画の話』 2017年12月、シアターZOO

    プロト・パスプア、と読むそうです。クラアク芸術堂を主宰する劇作家・演出家の小佐部明広のユニットです。クラアク芸術堂のホームページでは、「純文学と身体と声をキーワードに舞台表現の可能性を模索し追求する実験グループ」とあります。2016年末に解散した劇団アトリエ時代から、小佐部は札幌演劇界の中で独特の立ち位置と作風で評価されてきましたが、今やりたいことを純化したような作品でした。この札幌観劇人の語り場の感想でも書いたのですが、『ある映画の話』はフランソワ・トリュフォーの「ある映画の物語」を下敷きにした物語だろうと思います。「ある映画の物語」は、撮影現場で起こった話、起こらなかった話を監督自らが語るというヌーベルバーグ時代の名作です。台詞が徐々に熱量を帯びてうねっていくのが良かったのですが、敢えて失敗することを確かめるような挑戦的な演出が魅力的でした。正直興行的な成功は見込めない作品だと思います。でも、なかなか札幌演劇界には珍しいストレートな現代劇で、小佐部らしいダークワールドが最後は広がります。うまく理解できたとは言えないし、それを感想として言葉で書くことも難しいのですが、芝居としてとても感じたのです。作家が発見した新しい「足場」のようなものを。飽くなき挑戦心を観ることができたのは収穫でした。3作品のうち2作は道外勢の作品でしたが、道内勢を代表してこの1作を挙げておきたいと思います。
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    中脇まりやの選んだ3作品

    1. 近代文学演舞『地獄変』  2017年7月、観音寺

    櫻井幸絵(劇団千年王國)と平原慎太郎(OrganWorks)の共同演出作品。既存の小説・お寺というシチュエーション・コンテンポラリーダンスという異例な組み合わせが想像以上のものを見せてくれた。夏の暑さも相まって、あそこに作り出された空間を今すぐにでも思い出すことができる。
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    2. intro『わたし-THE CASSETTE TAPE GIRLS DIARY-』 2017年8月、コンカリーニョ

    太宰治作品のオマージュだと知ってオリジナルを読んでみて、こんな作品が太宰にはあったのかと驚いたものだった。”わたし”の日々繰り返される日常。多面的な”わたし”に自分を重ねたりして観た。人数の多さが迫力を増していた。

    3. ニッポンの河川 『大地をつかむ両足と物語』 2018年11月、コンカリーニョ

    こんなミニマムな演劇があるのかと驚いた。観ていて非常にわくわくした。カセットテープの音質はあまり劇場では聴けない。カセットの入れ替えで床を滑るカセットテープの様さえ楽しかった。もう一度、今度は野外で見たい。

    ※昨年度はNIN企画の”靴”も忘れられない作品になった。
    マームとジプシー『みえるわ』はあたらしい表現を”目撃”した気分になった。川上未映子さんの文学にも驚きがあった。ハムプロジェクト『象に釘』はとてもすきなお話だった。違うキャストでまた観たい。

     

    マサコさんの選んだ3作品

    道外、道内から1作品ずつ。公演名は二文字なのは偶然です。

    ●道外作品
    東京デスロック『再生』 2017年9月~10月、横浜・STスポット

    集団自殺のために集まった人々が、大音量で流れるJポップに合わせて歌い踊って倒れてゆく…のを、3回繰り返すだけの舞台。登場人物の背景やなぜ自殺を決心したのかは一つも語られないけれど、否応にも「生きていくよりも死んだ方がマシ」と突きつけられる。一方で、役者の体力とモチベーションがすごい。札幌の劇団でやれるのなら、年齢層を考えてyhsか、客演入れてクラアクかボイジャーかな。

    ●道内作品
    BLOCH PRESENTS 2018『電王』 2018年2月、札幌・BLOCH

    作演出の井上悠介(きっとろんどん)の将棋LOVEや、本作でやりたいことはよく分かった。が、「何も考えずに観てほしい」という部分では物足りない。そこに到達するには、実際の電王戦を模した戦いや人物の心の動きなど、もう少し丁寧に落とし込むのが必要なのでは。個人的には、井上くんは「ギャグとか言わせて笑いを取る」という本や演出は必要ないと思う。さらに個人的には、アウチとミツルギの名前は「逆転裁判」からなんだろうな、と嬉しくなった。

     

    瞑想子の選んだ3作品

    1. 横浜ボートシアター『にごりえ』  2017年9月、レッドベリースタジオ

    語り作品だが朗読とは全く違う。一語一語に表情があり、艶があり、ドラマティック。語り手の吉岡紗矢は娘義太夫ほか日本伝統の語り芸を何年も修業したとのこと。全身から発せられているかのような声が、主語が曖昧かつ滔々とつながっていく樋口一葉の原文を語りわけ、黙読では掴みがたい情景情感を立ち上げていく。すごい芸を観た(聞いた)満足感。

    2. ネビル・トランター『Mathilde(マチルダ)』 2017年7月、やまびこ座

    等身大の人形を用い、人間軽視の介護施設運営と老いや障がいの惨めさ、寝たきりの老女の中に燃える命とその記憶にある生の美しさ哀しさ、死の救いとその他者にとっての軽さなどを描いた作品。優しい祝福として訪れる死神の表現に心が揺さぶられた。人間が演じることでは描き難い世界。上演時間は50分だが、長尺作品よりも強く印象に残る。やまびこ座海外特別公演作品。
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    3. 劇団清水企画『昼間談義 公園の柵、ぷらぷらと、花粉症の鳥、』 2017年7月、シアターZOO

    ポストドラマ演劇を初めてみたこともあって、鮮烈だった。たぶん戯曲を読んだだけでは掴めない抽象的・幻想的なイメージが立ち上がっていた。物語をはぐらかし裏切って展開する世界の面白さ、声のリズムとトーンの美しさが記憶に残る。
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    ※マームとジプシー 10th Anniversary Tour 札幌公演の4作品も、その圧倒的な世界観と重さとで記憶に残る。が、マーム作品としては、私の中では2014年に伊達市で上演された『ΛΛΛ〜』がNO.1だ。
    札幌作品としては弦巻楽団 × 信山プロデュース『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』も捨てがたかった。道外ツアー前の1回きりの札幌公演とあって、いい緊張感での上演だった。信山プロデューサーに感謝。

     

    やすみんの選んだ3作品

    1. シアターコクーン・オンレパートリー2017『欲望という名の電車』 2017年12月、シアターコクーン
    理由ぐだぐだ長いので別途

    2. マム&ジプシー  『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと──────』  2017年8月、札幌教育文化会館

    藤田貴大氏の詩の中にとぷんと浸って彷徨っているような素敵な時間。劇全体が詩のような、劇を通して詩を体感する新鮮な時間だった。記憶に残るのは、「そっか」という一言のセリフ。複雑な心情が、「そっか」に凝縮された。「そっか」は優しい。「そっか」は哀しい。「そっか」は・・・。泣けた。
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    3. ニッポンの河川 『大地をつかむ両足と物語』 2017年11月、コンカリーニョ

    「役者が照明も小道具も全部やります、全天候どこでも演ります」、というガッツが記憶に残ることは確か。しかしそれだけにあらず。一見ハチャメチャだが、実は文章力ある脚本の面白さと、ブレない俳優陣の集中力あればこその唸らせる内容。起業家精神あふれる劇団。楽しい驚きだった。
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    【特別寄稿】TGR審査員だった故・浅野目輝頼さんのこと  寄稿者:瞑想子

     
    パトスで劇団words of hearts『アドルフの主治医』を観たとき、昨年、同じ場所で、斜め前の席に座ってらしたのをお見かけしたのが最後だったのだ、と思い出していた。

    2014年・2015年・2016年のTGR札幌劇場祭で、私は浅野目輝頼さんと一緒に審査員を務めた。浅野目さんは札幌えんかんの運営に長く携わった方で、定年されてからはご自宅のある岩見沢市で、実行委員会形式での演劇公演を行う活動をされていた。

    1年目、審査員はそれぞれが黙々と28作品を観劇しており、事前審査会まで会話する機会はなかった。

    2年目、私は他の審査員の方をお見かけしたら、劇場を出たところで積極的に話しかける作戦をとった。1カ月間の観劇では、まるで理解できずに迷子のような気持ちになる作品にも出会う。そんなときに「いや私もわからなかった」と聞けば慰めになるし、「このようなものを目指している作品だと感じた」と言われれば自分の見えなかったものについて考えることができた。
    浅野目さんは過去に観た著名な作品の例を引いて解説してくれたものだった。劇場から駅までの短い時間で、私は浅野目さんが岩見沢から観劇に通っていること、現役時代は東京でたくさんの観劇をされたこと、引退してからも年に1度は1週間ほど東京に滞在しての観劇ツアーをされていることを知った。

    3年目の事前顔合わせで、私は他の審査員の方に「観劇後に時間があるときは少しお話をしませんか」と呼びかけた。当時は全作品への意見を集約しつつ大賞候補5作品と審査員賞を事前審査会で選んでいたのだが、検討するべき作品は約20作品、審査員は7名、用意された時間は3時間。前年に思いもよらぬ意見が飛び出して時間が危ぶまれる事態になったこともあり、途中で互いの意見をある程度知っておいたほうが準備が整うのではないかと思ったからだ。

    1カ月のTGR観劇中、メンバーは少しずつ違ったが数度、観劇後にお茶をする機会があった。最初にお会いしたとき、浅野目さんは「風邪を引いちゃって」とマスクをしていた。青春の日に観た『裸足で散歩』を弦巻楽団が上演することを楽しみにしていた。二度目にお会いしたときには序盤での期待を背負っていた作品の不発をこぼし、仕上がりが気になって再度足を運んだ『裸足で散歩』の千穐楽の印象を語っていた。風邪は相変わらずのようだった。劇団アトリエ『蓑虫の動機』が話題になったときにも、確かその場にいらしたように思う。最後にお見かけしたのはパトスでのin the box『そう』の上演でだった。「顔色がよくないな、お疲れで回復が遅れているのだな」と思ったことを覚えている。

    事前審査会の2日前に、浅野目さんが検査入院のため審査会を欠席することを知らされた。3年間同じ作品を観てきて、語り合うべき人が最後にいないことを残念に思った。公開審査会には丁寧なメッセージが寄せられていたことを記憶している。
    後に、肺に病巣が見つかったのだと耳にした。回復されたらまた劇場でお会いするだろうと思っていたのだが、6月、訃報を受け取った。

     
    先日、レッドキングクラブ『ガタタン』の感想を書きながら、私はまた浅野目さんを思い出していた。

    レッドキングクラブは2014年にTGR新人賞を受賞、翌年には大賞候補の上位3作品に入り企画賞を受賞、トントン拍子の結果を出した。2016年のエントリー作品『カラッポ』を観た後に、私は作演の竹原くんに脚本を読ませてほしいとお願いしたのだが、後日、浅野目さんも同様の依頼をしていたことを知った。

    浅野目さんとはついに『カラッポ』についての話はせずじまいになったが、作品を観て、たぶん同じように2014年と2015年の審査に関わったことへの責任のようなものを感じたのだと思う。審査員は内々で、「若手の作品は批判すること以上に褒めることに責任が伴う」という話をしたりもしていた。褒めたこと・褒めなかったことがどのように影響していくのか。審査員は演劇を作ることに関しては素人ながら、みな審査するということとその責任を、真剣に考えていたのだ。

    浅野目さんなら、今年のTGRをどう観ただろうか。劇団coyote『路上ヨリ愛ヲ込メテ』の出来を喜んだだろう。劇団words of hearts『アドルフの主治医』では、時代の圧迫による人間性の変化を見出したかもしれない。イレブンナイン ミャゴラ『やんなるくらい自己嫌悪』はストライクゾーンだったはずだ。札幌オーギリングの大賞エントリーも歓迎しただろう。二年分とちょっとで約60作品の感想を語り合ったことから、そんなふうに想像している。
     
     
    浅野目輝頼さんのプロフィールとTGR札幌劇場祭2016の講評はこちら
     
     
    2017.12.12 7:00一部改稿

    【投稿まとめ】2017年9・10月上演作品より

    1作品に対し複数のレポート投稿があったものをご紹介します。

    2017年11月1日作成。追加された投稿は後日、こちらに反映されます

    2017年9月

    ■ 弦巻楽団『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』  9月6日(水)


    ■ きまぐれポニーテール『きまぐれポニーテール × LONLEY ACTOR PROJECT 番外編 ~みたことないがみたい~』  9月8日(金)~9月10日(日)


    ■ 北海学園大学演劇研究会『零番目の七不思議』  9月14日(木)〜9月17日(日)


    ■ enra『VOYAGER』札幌公演  9月13日(水)・9月14日(木)


    ■ SIAF2017 市電プロジェクト×指輪ホテル『Rest In Peace, Sapporo~ひかりの街をはしる星屑~』  9月23日(土・祝)・24日


     

    2017年10月

    ■ サンピアザ劇場企画公演・プレミアムステージ/札幌座第53回公演『空知る夏の幻想曲』  10月14日(土)~20日(金)


    ■ 演劇家族スイートホーム『僕はデパート』  10月21日(土)・10月22日(日)


    【特別寄稿】札幌演劇シーズン2017-夏に思うこと 寄稿者:小室明子

    前向きなことだけ書きます。

    札幌演劇シーズンが始まって5年と少し。最初は劇場の人として、その後は参加カンパニーの制作として、度々参加させていただいています。始まったばかりの頃、2作品一週交代で4週間公演の時代は集客にも体調管理にも(とくに冬)苦労した思い出があります。
    4〜5作品で1ヶ月となってからは、多様なタイプの作品が上演され、全作を通してみると演劇という表現の多彩さを感じられるものになっているのではないでしょうか。段々と、評判がよければ徐々にお客さんが増える、ということも信じられるようになりました。演劇関係者の、「札幌で演劇で食べていきたい」という気運も高まってきたように感じています。

    ずいぶん以前になりますが、「100人の演劇人が活躍する街を目指して」という演劇創造都市札幌プロジェクト発行の小冊子を作った時に、当時の実行委員長、副委員長のお三方の対談原稿をまとめながら、「これ、(私の生きている間は)札幌で演劇で食べていくっていうことの最後のチャンスかも」と思ったのを覚えています。そしてそのお三方を始め演劇外の方々からは、演劇人も〝村〟から出て社会性を持つことが必要だ、ということを折に触れて言われてきました。

     
    理想と現状の間を取りながら形を変えてきた演劇シーズン、前回あたりから新たに「レパートリー作品」という、相当に背伸びをしないとないとならない枠組みが増えました。そしてこの夏のレパートリー作品、イレブンナインの「あっちこっち佐藤さん」に4300人を超えるお客様が来場したことは皆様ご存知の通り、そしてその集客を達成するために劇団が頑張っていたことも、札幌で演劇に関わる人たちにはなんとなくでも伝わっているんじゃないかと思います。

    今回、数日ですが受付に入らせていただきました。たくさんの人がいた楽屋での初日乾杯、代表の納谷さんの挨拶を聞き、会場が大きくなって、それに見合う数のお客様を迎えようとすると劇団だけの力では公演は成立しないのだ、ということを改めて思い知らされました。それはつまり、4000人も5000人も集めようとすると社会性がなければやっていけない、ということなんだと思います。この荒療治のようなレパートリーという枠組みとそれに応えたイレブンナインの頑張りが、社会と関わって演劇をやっていくという方向に札幌演劇を突破してくれたように思います。

     
    さて、次回のレパートリーは私が制作を担当している弦巻楽団です。教文小ホールでありますので、集客目標は2000人とイレブンナインの半分にも満たないわけですが、それでも弦巻楽団にとっては未知の数字です。
    目標達成できるように頑張ろうと思う一方で1200人くらいでお茶を濁しかねなかった私ですが、ここは無理しないといけない局面だ、ということを今、ひしひしと感じています(あくまで個人の見解で弦巻楽団の意思ではありません)。そもそもレパートリーに耐えうる作品を持っている劇団なんてそうそうないのだし。与えられたチャンスを演劇関係者が斜に構えて無駄にしていたら100人が演劇で暮らしていける街、なんてことは夢物語のままだし、演劇シーズンだっていつまでも続かない。

    この盛り上がりはもともと力のあるイレブンナインだからできた、ということも当然あるでしょう。しかし、札幌は作品・広報両面で頑張ればたくさんのお客さんが来てくれるほど小劇場演劇が浸透してきた、という可能性も信じてみたい。そんな気分もあります。関係者の皆さま、今シーズンもおつかれさまでした。次回、どうぞ宜しくお願い致します。

    寄稿者:小室明子
    ラボチ/演劇制作者

    人はそれを「もえぎ色」と呼ぶ もえぎ色『Princess Fighter』

    エネルギーの塊みたいな舞台だ。

    ミュージカルユニットもえぎ色『Princess Fighter』は、やりたことをやりたいだけ、あれもこれもと詰めこんで、すべてをしっかりやりきった。

    演技あり歌ありダンスあり殺陣ありエンドクレジットありいま観たばかりの舞台のいい感じの静止画ありでさらにそのあとにこれが本編というテンションでレビューショーというダンス公演までやりきった怒濤の2時間でどうだ参ったかと言わんばかりに魅せたそれらすべてを称してこれを色に例えるならば人はそれを「もえぎ色」と呼ぶんだろう。

    過剰さはときに下品になるけど、本作にはそんな感じはまったくない。むしろ過剰さの向こうにゆるぎない自信やプライドまで見えて、すがすがしかった。圧倒的な個性と表現力と完遂力を持った演出兼振付兼作曲兼もえぎ色代表の光燿萌希の力だろう。

    スタッフワークもよかった。照明(相馬寛之)のゴージャス感は爽快だったし、舞台美術(高村由紀子)は複数の昔話を取りこんだ物語を1つの世界にまとめる効果を発揮し、存在感があった。

    ちなみに高村由紀子は、今期演劇シーズンでは、yhs『忘れたいのに思い出せない』で現実と幻夢の世界をシームレスに表現した美しい舞台を作り、パインソー『extreme+logic(S)』ではヒーローもの世界のシンプルさとカッコ良さを再現し、もえぎ色の次のイレブンナイン『あっちこっち佐藤さん』でも舞台美術でクレジットされている。

    僕は演劇界にうとくて、きっと業界的にはなにをいまさらという感じなんだろうが、いま札幌の演劇が「おっ、面白いね」って思われてるとしたらその一因はもしかしてこの人にあるんじゃないだろうか?

    (調べてみたら演劇シーズンではイレブンナイン『12人の怒れる男』や弦巻楽団『君は素敵』もそうだった。才能はとっくに発揮されていた。自分の不明を恥じるばかり……)

    役者でいうと、塚本奈緒美のかわいいお姫様感や、長麻美(エンプロ)の病んだお姫様像から生まれる笑いもよかった(あのキャラだけのスピンオフを観てみたい)。

    さらにこの舞台で性格俳優ぶりをいかんなく発揮した青木玖璃子(yhs)の怪演。『オズの魔法使い』や『マレフィセント』など古今東西の魔女役に匹敵する堂々たる悪役っぷりで、僕は、かつて戦隊ものの悪女役として活躍し国内外にファンのいる曽我町子を思い出した。今後の活躍が楽しみだ。

    それにしても、こうやってあらためて観るとミュージカルはつくづく言葉なのだと思う。歌詞に思いを乗せて歌いあげることによって、より感情的に、よりゴージャスに場面が作られていく。だからこそ、歌の歌詞を聴きとれるかどうかは重要なはずだ。

    本作では聴きとりにくい箇所が多々あったので、演劇シーズンというロングラン公演の中で改善されていくことを期待する。さらに、歌やダンスなどもまだまだこれから、上を目ざしていくのだろう。上演時間をふくめ(やっぱり長い、20分は削ってほしい)、今後この作品がもえぎ色のレパートリーとしてまた再演される際の期待として。

     

    公演場所:コンカリーニョ

    公演期間:2017年8月5日~8月12日

    初出:札幌演劇シーズン2017夏「ゲキカン!」

    【投稿まとめ】2017年7月上演作品より

    1作品に対し複数のレポート投稿があったものをご紹介します。

    2017年8月1日作成。追加された投稿は後日、こちらに反映されます

    2017年7月

    ■ 即興組合 第23回本公演『シアタースポーツ』 6月30日(金)~7月2日(日)


    ■ 下鴨車窓『渇いた蜃気楼』 1日(土)~2日(日)


    ■ 弦巻楽団 #28『ナイトスイミング』 12日(水)~15日(土)


    ■ 《札幌演劇シーズン2017-夏》
    yhs 37th PLAY『忘れたいのに思い出せない』 22日(土)~29日(土)


    ■ 近代文学演舞『地獄変』 27日(木)~29日(土)


    ■ 劇団風蝕異人街 チェーホフ一人芝居『煙草の害について』 27日(木)~30日(日)


    ■ 劇団清水企画第21回公演『昼間談義 公園の柵、ぷらぷらと、花粉症の鳥、』 28日(金)~30日(日)


    ■ 《札幌演劇シーズン2017-夏》
    パインソー 15thまなつのりったいきかく2017『extreme+logic(S)』 29日(土)~8月5日(土)